総員除雪_昭和基地

掘れど楽にならず

#10年前の南極越冬記  2009/7/12

ちょうど10年前になる。当時、僕は越冬隊員として南極にいて、こんなことを書いていた。

◇◇◇

7月9日に太陽が少しだけ顔を覗かせた。本当ならば13日の明日が、暦の上では本当の初日出なのだけど、蜃気楼のせいで少しだけフライングしちゃったわけだ。ゆらゆらと、出たり引っ込んだりする太陽の光は、やっぱり格別だ。僕らは太陽と共に生きている、そんな感じがする。

5日もの間、外出制限が出たブリも明け、ここ数日は晴れが続いている。湿った北からの暖かい風を運んでくるブリザードのせいで-5℃近くまで上がっていた気温も、晴れが続いたおかげで放射冷却が起きて、-20℃近くまで下がった。今朝はずいぶん久しぶりに寒さで朝早くから目が覚めた。目は覚めたのだけれど「もう少しだけ寝かせてくれ」と、気づけば休日日課の起床時間ギリギリの11時まで布団の中で過ごしてしまったのは、最近の除雪作業の疲れからだろうか。

案の定、今回のブリの積雪被害も凄かった。ブリの間、部屋の窓からドリフト(吹きだまり)によって埋まっていく建物を、成す術も無く眺めていたけれど、外へ出たら笑っちゃうくらいの雪の壁ができていた。とにかく総員で除雪作業。

僕らの飲み水は、常時発電機の余熱で雪を溶かして外の水槽に貯めているのだけれど、その水槽の周りも4メートル近くも雪が積もっていた。水槽の水は僕らの飲み水であると同時に、万が一基地で火災が起きたときの消火用の水源でもある。このままでは移動用の消火ポンプでは水を汲み上げられないので、何とか吸水ホースが届く位置までスコップで掘り下げる。でもそれも空しく、結局ポンプの吸水力では1メートル程度じゃないと水が吸い上げられないことが分かり、ひとまず水槽の上に浮いた雪の固まりの上にポンプを設置して消火体制とした。暫くはこのまま水槽の上に雪が浮いたままの状態が続くだろうけれど、根本的な解決法にはなっていないので何か対策を考えなければならない。

もうひとつ、僕らが「デルタゾーン」と呼んでいるやっかいな場所がある。ここは2本の通路と建物の隙間に挟まれた三角地帯で、夏に49次から基地を引き継いだ時点で既に雪が溜まっていた。ここが埋まってしまっているせいで通路の下に風が通らず、後方の建物にいつも巨大なドリフトを作ってしまっていた。建物の隙間なので重機を入れることは不可能で、人力じゃないと掘れないし、既に下の方は固い氷の塊になってしまっているせいで、そこまで手が回らず、仕方なく今まで放置していた場所だ。

今回の除雪ではこの「デルタゾーン」にも手を付けることにした。周囲が明るい昼の3時間、とにかくみんなでツルハシやスコップで氷を砕いていき、それを重機の届く位置まで掻き出す。1年以上をかけてほとんど氷になってしまっているので、思うように作業は進まない。まるで炭坑で作業しているみたいだ。さすがにみんなヘロヘロで、顔とヤッケが吐息と汗でバリバリに凍っている。それでもこの週末でようやく通路の下が通った。ちゃんと風が抜けるまでには、もう少し掘り下げないといけないけれど、次のブリまでにはどうにかなりそうだ。

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