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Fieldism Live Report #20 Decasion Pre. ''Hellish Sight vol.7 - Otus "Morgue" Release Show'' (2023-10-21)

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 いつもお世話になっております。Ryotaです。

 半年ぶりのライブレポートです。なんでここまで間が開いてしまったのか「何度も取り上げたバンドのライブに行くことが多い」だったり「6, 7, 9月と企画が続いていたうえ、仕事も忙しかった」とかあるんですが、さすがに今回のライブは取り上げないわけにいかないということで久しぶりに重い腰を上げました。

 今回は名古屋のオルタナティブデスメタリックハードコアDecasionの自主企画 ''Hellish Sight vol.7'' の感想を語りたいと思います。また、東京のダークハードコアOtusが昨年12月に出したEP ''Morgue'' のレコ発も兼ねているのでそちらについても言及していきます。

 「名古屋と言えば上前津Zion」と言ってもいいくらい、この4~5年このライブハウスしか遊びに行ってないんですが、このライブハウスで初めて観たバンドや知り合った方も多く、一言では言い表せないくらい思い入れのある場所です。大阪人の筆者がそう思うくらいから、東海ハードコアシーンに携わる方からしたらもはやカルチャーの発信地というか無くてはならない存在と認識しているに違いありません。

 Decasionが今年5~6回企画をやるというのは、割と早い段階から聞いていてどれかには行こうとは思っていたんですがタイミングが合わず、彼らがO.A.で出演したBLOODAXE FESTIVALもタイ出張が被って行けず…となってましたが、今回の企画は名古屋のバンドの中で最も思い入れのあるバンドのうちの一つa Soulless Painが3年以上ぶりのライブというのもあって、気が付くと予約していました。もちろんチケットはソールドアウト、当日は尋常じゃない熱気に包まれていました。後々語っていくんですが、この日のイベントは個人的にも印象深い一日とリンクしていて今でもクソデカ感情が募っています。

行った方は当時の余韻に浸り、行けなかった方も是非当日の様子を想像してもらえたらと思います。なるべく解像度を高くして書いていきますので。


※各出演者・関係者の名前は敬称略になること、予めご了承ください。また、あくまでも一オーディエンスが感じたことなので何か新しい視点の発見や思考のきっかけになったら幸いです。

Runs In Bone Marrow

 トッパーはホーム名古屋からメタルコアバンドRuns In Bone Marrow、Killswitch EngageUnearthAll That Remainsあたりの90年代~2000年代メタルコア・メロディックデスメタルの影響を受けた、まさに王道というべきストレートでアグレッシブなメタルmeetsハードコアスタイルがアツいです。名古屋に遊びに行くときはかなりの頻度でお世話になっているバンドで、なんならVo.Akiraのいる東方メタルコアサークルAs Killing Your Breakdownもお気に入りです(新譜待ってます)。昨年は結成10周年を迎えex-Devil's InlayのMONを3人目のギタリストに加えたことでさらにパワーアップ、久しぶりに出した音源''AMON/PRELUDE/CONVICTION''もバンドの10年間の遺産と進化が伺える渾身の一作でしたね。

 実は9月に行われたVesper The Aerial''イエテボリ神社 第一回例大祭'' が約5年ぶりの大阪公演で久しぶりに観に行ったのですが、10年以上名古屋のバンドシーンでもメタルとハードコアを繋ぐ架け橋として活動し、UnearthAs Blood Runs Blackを始め多くの海外アクトとも渡り合ってきた実績は伊達ではなく、''12//28'' ''This Light'' とキラートラックを連発。トリプルギター体制になったことでより厚みと表現の幅の広がりを見せていて思わず拳が上がります。これでトッパーでマジで言ってるんですか?


 今回はBa. ゆうちんが諸事情で不在ということで、ゆうちんを演じているVo. Akiraの大学の先輩にあたる中根広貴がサポート。ロン毛と尖り散らしたシェイプのベースからメタラーなのがわかります。裏に写真貼っていたのも面白かったですね。

 MCでも触れられた通り、今年度までのリリースを目指してキャリア初のフルアルバム制作中(なんと15曲収録予定)とのことで、セトリの4曲目にはアルバムに収録されるであろう新曲 ''Burn a Bouquet'' を披露。イエテボリ神社でも披露されていましたが、3拍子リズムとシンガロングパート(「歌詞わからなくても魂で叫んでください」とはAkira談)とパンの振り方が緻密ですが、音源されたらどうなるか楽しみです。

※こちらはイエテボリ神社の時の動画です


 セトリの終盤戦には昨年リリースされた音源から叙情的なインタールード''Prelude''、そして定番曲 ''Conviction'' でしっかり締めてくれました。Akiraの恐竜さながらの咆哮とタフに展開していくアグレッシブなモッシュパートで早くもフロアはいつものザイオンに。この一日が最高になることはすでに約束されてますね。


 RIBM次のライブは、東京発ハイブリッドロックバンドSLOTHREAT主催のサーキットイベント(11/18)になります。先日新譜を出したovEnolaや期待の新鋭プログレメタルコアIn Denialもいて間違いない一日になるとも思います。



HOSTILE EYES

 2組目は''MORTAL,SAVAGE,BLASPHEMY'' をスローガンに、三重県を拠点に活動しているビートダウンデスメタルバンドHOSTILE EYES。激しいアップダウンに富んだ展開、容赦なく刻まれるスラミングとブラストビート、Vo. Toshiki_MSBのドロドロとしたガテラルボーカルなど、ブルータルデスメタルとビートダウンハードコアを融合させたサウンドは危険極まりないです。先月リリースされた10年ぶりの2ndアルバム’'Incurable Disease in the Hell of Hunger''では上述のサウンドによりキャッチーなフレーズやニューメタル影響下のタテノリを取り入れており、サウンドに幅を持たせています。

 筆者は昨年のBrightside Summerで初めて彼らを観たのですが、火影という環境下というのもあってあまりに危険極まりないピットと地獄のようなサウンドで衝撃を受けたのを覚えています。この当時色々メンタルが不安定だったこともあってライブレポは上げられませんでしたが、マジでとんでもなかったです。


 現在は4人体制で活動している彼ら、直近では6月のNicor in Punishment企画でも同じザイオンで観てはいるのですが、アルバムリリースする前と後とでは今の彼らのサウンドがブルータル一辺倒ではないのが直に伝わります。確かに超速ブラストと手首がちぎれんばかりのトレモロパートから一気にスローなビートダウンになだれ込む極端な緩急や、Dr. Konashiの手数の多いドラミングとハイピッチなスネア、Gt. MSBD93 & Ba. Poriの残虐で容赦ない音像と動き回るフレーズ、フードを被ったToshikiの深淵の悪魔さなからのガテラルと、各メンバーの技術はえげつないんですが、意外なほどキャッチーな展開やリフワークが散りばめられていて、どこか奇妙な体験でした。


 個人的にはセトリの終盤2曲 ''Gloomy Hatred'' と ''Incurable Disease'' がアルバムの中で気に入っているんですが、特に''Incurable Disease''の苛烈なドラミングが際立つ序盤からキャッチーなツーステップパートに入る流れが秀逸であれは猿になります。終盤のニューメタル影響下のタテノリパートでMSBD93とToshikiの掛け合いも、二人の声質の違いが出ていて面白いです。


 現状来年の1月までのライブの日付は解禁されていますが(詳細未公開含む)、次回のライブはアメリカの人気メタリックハードコアJesus Pieceの来日ツアー最終日東京編とのこと。今回トリを務めたOtusも一緒ですが、ハードコアの大御所NUMBや急成長中の若手View From The Soyuzまでスキのないラインナップなので、前日のROTTING NOISE TOKYO 2023と連日で行く方も多いと思います。



SPEAKEASY

 3バンド目は東京を拠点に活動しているハードコアパンクバンドSPEAKEASY。昨年始動したばかりのバンドで、ex-Oath of AllegienceのVoけんけ、DOZEONE, Otherside, The Deltafishなどハードコアに限らず多様なジャンルで活動しているGt. Koyo、Vice City Slave & DOZEONEで活躍しているBa. Takumi、そしてex-DRASTIC BOYS/現Without Defeatとしても活躍しているDr. AmaneNの4人から構成され、その初期衝動MAXの爆速ハードコアパンク & けんけの縦横無尽パフォーマンスは、観る者に強烈なインパクトを残します。四日市で行われた初ライブの動画は必見です。

 この日はBa. Takumiが高円寺でVice City Slaveとして出演していたのもあって、まさかの3人体制でベースレスでやるん…?とか思ってましたが、エフェクターボードとアンプを用いてのギターと連動してベースの音が鳴るようにセッティング。「俺がかなりカイリキーになってギターもベースも弾きます」ってそういうことだったんですね…。


 HOSTILE EYES同様このバンドも6月のNicor in PunishmentのWonderful Mosh Fesで観ているんですが(あの時は台風で中々メンバーがたどり着けなくて大変でしたね)、今回も相変わらずフロアとステージの境目なく叫びちらし隙あらばステージダイブしたりしまいにはバーカウンターの上に立つけんけを横目に、誰も取り締まることができないくらい速い楽曲を目まぐるしく演奏するKoyoとAmaneNの光景は(大変そう)、良い意味で無茶苦茶で破天荒で観ていて楽しいです。


 始動1年未満ながらも10年以上のキャリアを持つ先輩に負けないくらい強烈なインパクトを残したSPEAKEASY、25分の持ち時間で体感5分の間隔だったんですが、大阪に来るならハードコアパンク/メロディックパンクと相性のいい新神楽で観てみたい欲があります。

 MCでもアナウンスされていた通り、近々待望のデビューEP ''SPEAK NOT EASY'' がリリースされる予定があるのと、12/23には異臭がすることで名高い初台WALLでレコ発が行われるとのことです。広島の新鋭ハードコア/パワーバイオレンスSugarや、今回出演したDecasionやLost Commitmentの一部メンバーが在籍しているノイズコア/クラストの混沌CRUSHERもいる1日、チケット代も前売り1,500円なので要チェックです。


 また、Gt. Koyoが使っている機材車が故障したらしく、修理費のお金を賄うためにDOZEONEとしてドネーションマーチの受注生産を承っています。受注期間は今月中なので気になる方はお早めにお問い合わせを。



 ここで小腹が空いたので本日のフードkitchen agasへ直行。中の人はFINAL FIGHTやHARDCORE TEMPESTなど東海地区のハードコアイベントに携わっているISOLAのGt.Kyohei氏、タコス美味しかったです。DecasionのDr. MZKの「居酒屋みずき」やunderscreenのGt. Fugaの「Norfolk」と最近のザイオンのライブはフードも充実していて会場の外に出る必要がなくて本当に助かってます。


LOST COMMITMENT

 前半戦最後は名古屋のハードコアバンドLOST COMMITMENT。15年以上のキャリアを持ち、オールドスクール/NYHCが持つストレートな疾走感とタフな落とし、そしてニュースクール特有のドラマティックな叙情性を併せ持つハイブリッドな音楽性は「トータルハードコア」と称され、そのどのバンドにも形容できないユニークなスタイルが特徴的で、数多くの海外ハードコアバンドとも共有した実績があります。また、各メンバーMURDER WITHIN SIN, 混沌CRUSHER, LAST BOSS, Stand United, Blow Your Brains Outなど東海圏内圏外問わず様々なバンドで活動しており、その方向性も広いです。

 ホームの名古屋でライブを観るのはSTAY DUDE COLLECTIVEの竹山氏の企画 ''ANSWER FOR LIFE vol.FINAL'' 以来3年半ぶりになる彼ら、やはりホームの熱量は大阪で観るそれとはちがうものがありましたが、今回はa Soulless PainやRuns In Bone Marrowなど名古屋で10年以上活動してきた仲間も出演ということで、昨年リリースされた新譜からの曲だけでなく、Yone (aSP) やAkira (RIBM)がfeat.した過去の楽曲もプレイ。様々な要素が絶妙にブレンドされた楽曲もイケ散らかしてましたが、曲間の独特の「ゆるさ」も温かみがありましたね。「30歳以下限定でおごります」っていうVo. ShojiのMCもみんなのアニキとして愛されている印象でした。


 この日のサプライズは、ロスコミの元メンバーでもある現HOUND& G.N.S.DのHILOがゲストGt.として参加 + 5人体制時代の時にリリースされた初期の楽曲 ''pride'' & ''destruction by the creation'' がセトリ入りしていることですね。特に''pride'' ではこのバンドのトータルハードコアたる所以が垣間見えた印象でした。90's~00'sメタルコアっぽいエモーショナルなフレーズもそうなんですが、単音メロディックリフが出てきた瞬間フロアは大歓声とフルモッシュに包まれていて最高でした。いろんなエフェクトを使って自由気ままにギターを弾き倒すHILOも記念すべきイベントにしっかり花を添えていました。


 ロスコミ自体は次のライブがアナウンスされていませんが、各メンバーがそれぞれ別に在籍しているバンドは活発に動いており、Gt. 葉が在籍している混沌CRUSHERは12月に初台でSPEAKEASYレコ発、Vo. Shojiが在籍しているビートダウンハードコアMURDER WITHIN SINは今週末ザイオンで自主企画、Dr. Usknが在籍しているストレートエッジハードコアStand Unitedも今週末初台で台湾のDefeat The Giant / インドネシアのZIP & NO EXCUSEの来日公演サポートが予定されています。



END IN BLOOD

 後半戦一発目は東京を拠点に活動しているニュースクールハードコアバンドのEND IN BLOODでした。こちらも10年近くのキャリアを持つバンドで、欧州エッジメタル/ニュースクール+90〜00'sあたりの関西の極悪ハードコアの要素を組み合わせたドラマ性とアグレッションに満ちた音楽性、そして研ぎ澄まされたモッシュパートは毎回ライブでもフロアが地獄と化すことは容易に想像できます。5年前に初めて礎の周年イベント ''DECADES TO DECADES Vol.1'' で観た時は、モッシュしてた女の子が他のモッシャーの蹴りを頭に喰らって失神した光景は今でも記憶に残ってます。

 2021年末に最新EP ''the gleam of the gloomy night'' をリリースし、昨年は約1年かけてツアーを完遂させた彼ら、この日は新譜からスピード感とメロディックさを両立させた ''Pleasure & Pain'' からスタートし、精力的なライブ活動に裏打ちされた楽器隊の演奏とメロディーセンス、Vo.ANALの大阪らしさが溢れる熱量高めの煽り、研ぎ澄まされたモッシュパートでフロアの熱もうなぎのぼりでしたね。デビューアルバム ''The Past Is Not The Best'' の音源でもそうだったんですが、ベースのフレーズが単純なルート弾きではなく、しっかりと動きながら存在感を放っている部分もほかの国内の同ジャンルとは差別化されている印象で気に入ってます。


 HOSTILE EYESもそうだったんですが、このバンドもセットリスト最後の2曲のインパクトが強かったです。アルバム収録曲の ''Prayer'' は、ビートダウンだけにこだわらない純粋なリフワークとメロディ性が光る一曲でオタクスマイルでしたし、セットリスト最後の定番曲 ''Remember'' ではイントロの単音リフが鳴り始めた瞬間、モッシャーの多くが上半身裸になり大きくモッシュピットが開く戦場のような光景が現れました。もちろん楽曲そのものも鋭い単音リフの応酬で、個人的にはブレイクダウンが終わってからのビートアップが気に入っています。


 END IN BLOODの次回のライブは、先述のJesus Piece来日ツアー最終日と被っていますが、西横浜EL PUENTEで行われる''Progressive Metalcore Madness''Arise in Stabilityの自主企画になります。共演もAiSの盟友で同じく変態プログレッシブサウンドの持ち主であるbilo'uと、グラインド / パワーヴァイオレンスの要素を盛り込んだ激情的なメタリックハードコアCailnと、一筋縄ではいかないバンドばかり。EL PUENTEは火影以上に逃げ場なしの激狭ライブハウスらしくて実は気になってます。



a Soulless Pain

 ついにこの日も終盤戦に差し迫ってきました。本日の目玉の一つであるa Soulless Painが3年半ぶりにステージに帰ってきました。メタリックハードコア/ニュースクールを基調に、人間の複雑な内面を映し出すポエトリーリーディング、血が騒ぐ熱いシンガロングパート、モッシュピット必至のブレイクダウンから研ぎ澄まされたポストロック調のクリーンなど、ありとあらゆる要素が絡み合い唯一無二のサウンドを提示してくれます。筆者にとっても大きな影響を受けたバンドの一つで、Azamiの ''LEAP'' ツアーファイナル大阪編で初めて観てからはその世界観に惹かれて以来、直後に行われた自主企画 ''Naked Faith''や1stアルバム再現ワンマンなどにも通い詰めてきました。

 今回Gt. IGEが諸事情により不在、Support Dr. Kamille (As Killing Your Breakdown / untold)を加えた4人体制のライブではありましたが、転換の時点ですでにフロアはパンパン。転換リハでもフロアから歓声やシンガロングが聞こえる爆発寸前の光景で、出演者だけでなくBounce out innocence,UNWAVERING, Kings and Queensなど筆者と交流のある名古屋のバンド関係者も勢ぞろい。転換が終わった瞬間、Vo. YoneのMC「3年半以上実質活動が止まっていた状態で、『来年レコーディングしよう』『来年ぐらいライブしたいな』ぼんやり考えている中Decasionから何度もお誘いが来てて、最初はその度に断っていたけど今回のこの日を受けるかどうかが瀬戸際だった」と出演に踏み切ったこと、「今回もIGEがいないけど結果がどうであれまずはこの一本やり切る、しっかりと命削って皆に届かせます」という意思表明と共に、25分間が始まりました。


 ポストロック調のイントロを経て、「果てぬ約束」がスタート。7分の長尺のトラックに疾走感のあるリフから、ビートダウン、後半の壮大なメロディとストーリー性のある展開とリリックに早くもステージダイブとクソデカシンガロングの嵐。ビートダウンパートでは自分が今までザイオンで観た中で一番のモッシュピット、Youtubeに落ちている2010年代半ばのライブ動画のような光景がそのままそこに再現されていた気がします。最前にいたので記憶があいまいですが…。転調を経て最後のBa. Takeのクリーンボーカルの部分では感極まって号泣するオーディエンスも。自分も泣きそうだったのはここだけの話。


 次の出番が控えているDecasionメンバーも裏で緊張した面持ちで観ている中、MV化されている「繋ぐ世界」のポエトリーパートが始まります。この時あの熱気が嘘のように静まり返り、皆Yoneの言葉に耳を傾けていた一体感は奇妙な感覚でした。8分に込められた多種多様な展開とメロディ、初めて大阪でライブ観たときもただひたすらに衝撃を受けててあの時は言語化できる歓声なんてなかったんですが…この日も正直感極まってましたね。

 そしてセットリストの最後は(イントロ除けば)アルバムの始まりになる ''entrust''。ここで、Vo. Yoneがフロアに降りてあのフレーズ「俺たちの未来を!」を叫んだとたん、一斉にオーディエンスが全力でシンガロングする光景が。どこかのサイトで言及していた「ライブハウス全体がステージ化してお客さんも世界観の一部と化す」っていう文言、フロアとステージの境目がなくなった瞬間その言葉の意味がようやく分かった気がします。そして激情的な疾走パートが終わってから3拍子に切り替わる部分、揺蕩うようなリズムに乗せてメロディックなギターソロとタッピングが鳴り響くで涙腺崩壊でした。25分のセットリストをあっという間に駆け抜けていきました。

 今後のスケジュールは未定ながら、最後にYoneが「ここからまた一歩踏み出します」というMCを信じてまた観れる機会がやってくることを心待ちにしたいと思います。


Decasion

 トリ前は今回の企画を作り上げたDecasionでした。「オルタナティブ・デスメタリックハードコア」を標榜しているだけあって、各メンバーのバックグラウンドが楽曲によって色濃く反映されているだけでなく、楽器隊が全員作曲できるから新曲ができるペースが滅茶苦茶早いのも特徴です(昨年末の段階でアルバムもう一枚できるレベルのストックはあったとかなんとか)。アルバムリリース以来精力的なライブ活動を続けているのはもちろん、今年は先述の通り6回の自主企画、海外アクトとの共演、BLOODAXE FESTIVALのオープニングアクトと数々の修羅場を乗り越えその存在感を大きく知らしめています。

 BLOODAXEもAsiaでのライブも行けなかったので体感での比較にはなるんですが、今まで観た中で一番圧倒されました。転換終わってからVo. Rikuの「よっしゃ行こうぜ」という言葉と共に不穏なSEと緑の照明が光った瞬間その光景に鳥肌が走りました。そこから企画名にちなんだ ''Hellish Sight'' が始まり、重量感とスピード感を感じる暴走パートから容赦なくビートダウンに移行する変幻自在な楽器隊のグルーブ、ステージの最前に身を乗り出し中指を立てながら迫力溢れるグロウルを放つRikuでフロアのモッシャーも大歓喜。


 アルバム収録曲 ''Playing The Victim'' ''Blesphemy'' ''Redrum'' など「オルタナティブ・デスメタリックハードコア」を標榜するにふさわしい多彩なアプローチを取った楽曲も相変わらず個性的でカッコいいです(セトリの記憶曖昧なので間違ってたらすいません)。メロデス由来の単音リフから地獄のような単音リフ、随所で挟まれるデモニックなGt. Yamatoのギターソロ、Rikuのグロウルとは対照的にブラックメタルじみたシャウトを放つGt. SYのパフォーマンスを観てても「メタル」「ハードコア」という共通項はありながらも5人それぞれ違った解釈が伺えるのもこのバンドの魅力です。それは今年の6回の企画にも表れていて、各回毎にメンバー内で主催を変えて企画を組んだとのこと。


 この日のハイライトは二つあって、一つ目はデビューシングルにも収録されている ''Gehenna'' のイントロドン、あの時一気にピットが開いた瞬間戦慄しましたね。確かに皆極悪メタリックハードコア/デスメタリックハードコアのリフが始まった瞬間ぶち上がると思うんですが、今回は本当に震えました。他にも''Gehenna''の時じゃなかったと思うけど、Rikuがマイクスタンドをフロアにぶん投げたり、Ba. Friskがマイクを持って煽り散らかしたりするのもこれまで以上にピリついた雰囲気を感じて最高でした。


 あとはセットリスト最後の ''Wicked Monarchism''、演奏自体も最高だったんですが、最後にRikuがクラウドサーフで運ばれてバーカウンターの上で叫ぶ光景が印象に残りました。というのも、彼とFriskが別で所属しているバンドHATE CREATURESやMZKが当時在籍していたCloud9がaSPの企画に出た時のこと、HATE CREATURESの時最後の曲でRikuがクラウドサーフで運ばれてからバーカウンターの上に立ってパフォーマンスしたんですが、その時言ったMC「憧れだけじゃ終われねえんだよ!」って言葉が今になって伏線回収されてて感慨深いです。ケツをたたかれたその日から丸4年半経った後にaSPの背中を押すことになるとは、しっかりとつながっていて個人的には熱かったです。

当時の様子の動画、いくら探しても見つかりませんでした


 10年以上のキャリアを持つ先輩たちにも負けないパフォーマンスでその成長と存在感を示したDecasion、11月には東海地区でも有名なハードコア/メタルイベントLEGENDS NEVER DIEやGrind Freaks、12月にはUSオルタナ/グランジSoul Blindの来日リベンジツアー名古屋編(画像)にも出演と、ハードコアに限らず活躍の場を広げる彼らには注目です。



Otus

 大トリは東京が誇るダークハードコアOtus、レコ発ツアー名古屋編としてこの日の大トリを務めます。90'sのメタリックハードコアに陰鬱な空気と現代的なヘヴィさを加えて昇華したブルータルなサウンド、脳が揺れる骨太なグルーヴには定評があり、海外バンドの来日ツアーも幾度となくサポートしてきた実績があります。結成10周年となる昨年末にリリースされた最新EP ''Morgue'' では、「自分の価値観と違う他者を排斥/否定し、共同体の中で自己を滅することで社会に適合することを強いられる」様子を「霊安室・遺体安置所」と形容した、ブルータルなサウンドの中にも一種の知的・皮肉が込められていて素晴らしかったです。

 Otusは2019年に一度だけ東京で観たことがあり、その時は秋葉原音楽館で行われたBEFORE MY LIFE FAILSの限定リユニオンオールナイトイベントだった記憶なんですが、あの時は喰らいすぎましたね。 


 序盤は2020年アルバム ''Murk'' から ''Drop Back'' ~ ''Palace of Delusion'' までの4曲を通しで披露。Dビートやブラストなど交えながらデスメタル影響下のスタイルに、時折トライバル要素を加えた手数の多いドラミングをこなすDr. Sekino、ギターと同列にリフを奏でる攻撃的な弦楽器としてバキバキに鳴らされるBa. Takashiのベース(本当にギターのアンプを使っててビビりました)、鬱屈した雰囲気のコード感あふれるフレーズ/不協和音からスピード感あふれる単音リフまで轟音を司るGt. Tatsunobu、そして長髪に白い衣装に身を包み柵に身を乗り出しては迫力あるサウンドに負けないシャウトを繰り出すVo. MAKIと、「深淵に闇を抱えていそうな人たち」4人だからこそ成立する独自の世界観を作り上げていて圧倒されました。


ただ、曲間のMCの様子を見ていても決してアグレッシブ一辺倒というわけではなく、MAKIのMC「aSPで感情がいっぱいになって、Decasionで喰らいすぎた後なんで正直やりづらさあるんですが…」だったり「仕事や家庭でしんどいことがあるかもしれないけど、いつでも帰ってこれる場所があるってことは素晴らしいことだと思う」と、その迫力あるパフォーマンスとは裏腹に実直でまじめな方だな…という印象でした。

 セットリスト中盤には新譜 ''Morgue'' から ''Divided by the Line'' ''Protagonists'' などを披露。個人的に ''Divided by the Line'' はEPの中で一番気に入っている曲で、人をなぎ倒すかのようなスピード感やトライバル感あふれるドラムワークが癖になるんですが、終盤に一気にテンポが変わる部分が一番の聞きどころ。ビートアップに近いかもしれませんが、ここはBLOODAXE FESTIVALでもモッシュパートになってましたね。


 セットリスト終盤は ''Breathe'' ''Resignation'' ''Morgue'' で締めくくり、30分のセットリストをあっという間に駆け抜けていったかと思いきや…フロアからはアンコールの声が。最後にやってくれたのがOtusの始まりの曲とされている ''Watching Your Nightmare''。ラストのラストで見せる暗黒世界へと引きずり込むように沈み込んでいくビートダウンは本当に魅入られたら一生戻れなさそうで危なかったです。


 次のライブはHOSTILE EYESと同じくJesus Piece来日ツアー最終日(11/5)ですが、その他にもleave them all behind 2日目 (11/12)やSoul Blind来日リベンジツアー最終日 (12/3)など東京を中心にライブが決まっている様子で、11/25には新潟で行われるGRANDSIDE FEST 2023に出演 (詳細下記)。a crowd of rebellionFIRE ON FIREとの共演とかここでしか観れないと思います。



末筆

 この4~5年名古屋のライブは決まってザイオンでしたが、この日のライブは今まで行った中で一番楽しかったです。それまでは先述のa Soulless Painの ''Naked Faith''かSTAY DUDE COLLECTIVE主催の ''ANSWER FOR LIFE Ver. Final'' かなと思っていたんですが、今回はそれ以上でしたね。

 筆者は大阪在住で10年前の名古屋のバンドシーンがどうだったかっていうのは過去のフライヤーか動画でしかわからないのが口惜しいですが、10年以上のキャリアを持つ先輩たちとハードコアシーンの最前線で戦っている若手が共鳴した一日は並々ならぬ意義と重みを感じました。ここ最近プライベートでも仕事でも上手くいかなくて病みそうになってたんですが、この日には救われた気がします。

 書きたいこと書いてたらいつの間にか13,000字くらいになりましたんでそろそろ締めますが、やっぱり忘れられないライブこそちゃんと形に残るようにしたいと思ってるし、「自分の頭の中で繰り広げられていることを形にすることで、他社と共有できる部分を増やしたり感情を詳細に伝える」ことができるのは文章の一番の強みだと思ってます。人によって見方は違うし、「いや俺はこう感じた」って考えを知るのは楽しいので、コメントとかもらえると嬉しいです。企画も落ち着いたので今後ライブレポも可能な範囲で上げていこうと思うので、今後ともチェックしてくれると嬉しいです。

 そしてこの記事を読んでくれる方が一人でも興味を持っていただき、是非名古屋のライブハウスに遊びに来ていただけると最高です。

所々記憶が飛んでて不正確な情報もあるかもしれませんので、その時はDMでこっそり指摘してください。すぐ対応します。

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