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Fieldism New Songs Selection January 2022 (Part.3)

↑Part.1とPart.2はこちらから

 早いものでもう1月終わりましたね。1月終盤はKeyの短編ノベルゲーム「LUNARiA -Virtualized Moonchild-」を終わらせて、あの「ぬきたし」を手掛けたQruppoの最新作「ヘンタイ・プリズン」をプレイしようとしているところです。相変わらずOPがカッコいいですね。Ryotaです。

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 以前からもやもやしていた物事として「音楽なんてカッコよければジャンルなんて関係ない」って言葉あるじゃないですか? 一見「ジャンルに分け隔てなく平等にカッコいいものはカッコいい」って意味に聞こえますよね。確かにその意見や考え方も理解できるし、実際にジャンル間の壁を越えてカッコいいと幅広いリスナーに言わせれるアーティストもいるのはわかってるんですが、穿った見方をすると「作り手が曲に込めた想い・思想には興味ない」とも聞こえてしまうんですね。
 他のリスナーがどう考えてるかはわかりませんが、少なくともイベントを主催ないしこの記事を定期的に執筆している自分は作り手の思い・思想を理解しようとするスタンスだけは崩さないようにしたいです。
「特定のジャンルに固執・特別視して、他のジャンルとの優劣をつける」という意味では決してありません。)

前置きが長くなりましたが、今回も行ってみましょう。選出は完全に筆者の独断なので「○○入ってないやん」とかはナシでお願いしますね?

リストアップの条件ですが、下記2点です。
1. 1/21~1/31にフィジカル/ストリーミング/DL販売/MVのいずれかが解禁された作品。
2. リリース時期が明確にアナウンスされている作品の先行シングル、および既存楽曲のリマスターやカバー等は除く、ただしアルバムのデラックス盤のみetc.に収録予定の楽曲は例外。


1. Heartlistener: Perspectives
アルバム (ストリーミング: 1/21)

 ブラジル南部のポンタ・グロッサ発メロディックハードコア/メタルコアバンドの1stフルアルバム。主にCounterparts, Defeater, More Than Life, The Ghost Insideから影響を受け、ツービートでファストなトラックと共に、メロディック+メランコリックな雰囲気とアグレッシブで激情的な衝動が同時に押し寄せるタフガイなサウンドは、知名度が低くともメロディックハードコアリスナーには刺さるものがきっとあると思います。

 半年前から先行シングルをリリースし続けていた音源を全て収録して今作のテーマは、パーソナルな内容としては「インポスター症候群」を取り上げたTr.2 ''Counterfeit''や家族との喪失に対する悲しみを歌ったTr.3 ''All the Art of Living Lies in a Fine Mingling...''、そしてより大きなテーマとしては、Architectsの''These Colours Don't Run''ばりにブラジル国内の社会政治を批判したTr.5 ''Wolf Among Us''などバラエティに富んでおります。個人的にはカオティックハードコアに片足突っ込んだショートチューンTr.7 ''False Prophets''がブチギレてて最高でしたね。

 地球の裏側からやってきたメロディックハードコア、是非彼らのアツいサウンドに触れてほしい。


Thornhill: Arkangel
シングル (ストリーミング: 1/24)

 オーストラリア・メルボルン発のポストハードコア/メタルコアバンドの最新シングル。近年オーストラリア若手勢の隆盛が著しいのはこのnoteの読者ならご存知の方も多いでしょうが、その中でも最もボーカルラインが頭一つ抜きんでいるのがThornhillだと思います。アンニュイで耽美な雰囲気を見せるVo. Jacob Charltonのボーカルアプローチ、プログレッシブな変則性から生まれる地を揺るがすグルーブ、そしてIn Hearts WakeNorthlane直系の「澄んだ空気」に曇天の空のような少し陰りのある重厚感を加えたアトモスフィアが合わさり独特の美しさを放ちます。

 耽美なビジュアルになり、オルタナティブかつ大会場が映える''Casanova''をリリースして3か月、新曲''Arkangel’’は彼らが子供だった時に流行っていた90年代~00年代前半のポップカルチャー、特に当時放送されていたドラマ ''バフィー 〜恋する十字架〜''からインスピレーションを受けていると公言しています。また、Vo. Jacobは「もっと楽曲を脚本や映画の物語みたいに仕上げたかったから歌詞やメロディを作るときの流れを変えた」と語っており、共依存とも取れる危ない関係にあるカップルの物語をThornhillの独特な世界観で表現しております。


Orphan: Memorundum
シングル (ストリーミング: 1/25)

 2021年に解散したアメリカ・オクラホマ発''Pure Slamming Hate'' Strangled。その人の心が無さそうなビートダウンやスラムパート、なにより極悪ボーカル兄弟のヘイト満載・ブチギレ具合は、一部のリスナーが暴力的な衝動に駆られたと聞いております。特にSlam Worldwideから公開されているラストライブはFワード連発の煽りや終始立てられる中指、しまいにはボーカル二人が殴り合ったりステージで嘔吐したりなど、怒りと狂気に満ち溢れていた当時の光景が生々しく収録されております。

 そのボーカル二人が新しいバンドOrphanを立ち上げ、デビュートラックの''Dying Light''がイントロ含めて叙情系の雰囲気を漂わせ、路線変更と思いきや相変わらずの暴力サウンドとブチギレボーカルで安心したのも記憶に新しいですが、先日リリースされた新曲も平常運行でダウンチューニングのビートダウンでリスナーの耳をレ○プするような勢いです。多分この曲の衝動に駆られてムカつく人間を○しても5人くらいまでなら罪には問われないと思います(大嘘)。

 リリースは未定ですが、ミックス・マスタリングにBodysnatcherのDr. Chris Whitedをフィーチャーしたアルバム''Porcelain''も制作中らしいので楽しみですね。



yozitsu: 人間失格
シングル (ストリーミング: 1/26)

 大阪を拠点に活動するメロディック・ロックバンドyozitsu。2019年の始動当初から「人間が皆生きる上で経験する物事に対する考え」を直情的かつ繊細でエモーショナルなロックサウンドに乗せた楽曲や、「無機質かつ人間的」な一見矛盾しているようで納得してしまうそのミステリアスな雰囲気は、筆者を含むリスナーの感覚に静かに染み込んでくることで定評があります。そんな彼らは先日、太宰治の名作中編小説 ''人間失格'' にリスペクトを込めたシングルをリリース。

 Gt. 神谷が ''聴く小説'' をコンセプトに作詞・作曲を手掛けた今回の楽曲は、原作のテーマである「表の顔と裏の顔を演じ分ける人間の営みへの違和感を覚えながらも、道化を演じることでしか人とつながることができない矛盾」をyozitsuらしく悲壮的かつ愚直に表現。大サビ前の原文を引用したポエトリーパートやVo. 旭のコーラスワーク、そしてピアノアレンジと叙情的緩急を交えた楽曲は、悩みながら生きているリスナーの琴線に刺さることは間違いないかと思います。

 PerLeとのツーマン(PerLeラストライブ兼yozitsuシングルレコ発, 1/28から延期になりました)で生で観れるのが楽しみです。


END ALL: Dead Future
シングル (ストリーミング: 1/26)

 アメリカ・ニューヨーク州ロチェスター発メタルコアバンドSilens & Sailors。後述のSailing Before The Windに多大な影響を与えたそのカッチリとしたステージングは筆者も衝撃を受け、6年前に彼らのライブをアメリカで観れたことは一生イキリ散らかしても罰は当たらないと思うのですが、昨年そのSirens & SailorsのVo. Kyle Bihrle, Ba. Steve Goupil, Dr. Doug Courtの3人を中心に新しいバンドEND ALLを始動。始動と同時にリリースされた ''Mental HELLth''は、よりヘヴィでブルータルなビートダウン/モッシュパートと暗黒・モノクロの雰囲気が特徴的です。

 そんなSirens & Sailorsにステロイドを打ちこんだ様なEND ALLですが、先日新曲''Dead Future''をリリース。イカツい咆哮を放つVo. Kyleのパフォーマンスは相変わらず健在。前回の楽曲同様暗黒で狂気に満ちたアトモスフィアを放ち、ローチューニングでブルータルにすべてをなぎ倒していく暴力的なサウンドは変わりませんが、随所にバックで鳴らされる不穏ながらも壮厳なオーケストラ調のシンセやクワイアがある種のカタルシスを生んでおります。


Valiant Hearts: YONDER
アルバム (ストリーミング: 1/28)

 オーストラリア在住のVo. Tom Byrneとロシア在住のGt. / Songwriter Igor Serokvashaの二人が、国境を超えてインターネットの海で活躍するポストハードコア・プロジェクトの3rdアルバム。筆者は宇多田ヒカルの''Sanctuary'' カバーと前作のアルバム''Odyssey''で彼らの存在を知ったのですが、Vo. Tomの伸びやかでパンキッシュなボーカルアプローチとIgorが手掛ける泣きのメロディに特化した楽曲は、アルバムのアートワークのようにどこか浮世離れしており、アルバムのタイトル通り放浪と冒険の長い旅に連れて行かれた気分になりました。

 2年ぶりの新作 ''YONDER'' では今までの泣きのメロディと伸びやかなクリーンは更にブラッシュアップされつつも、よりニューコアへの系統が見られた印象。特にVRSTYのVo. Joey Tylerをfeat. したTr.7 ''Karma''を始めとした随所で見られるTomのラップパートなど、意欲的なアプローチが見られます。また、「身近な人間がメンタルヘルスで悩んでいるのに、どうすればいいのか・なんて声を掛ければいいかわからず傍観するしかないもどかしさ」をテーマにしたTr.3 ''Banshee'' は日本からSurvive Said The ProphetのVo. Yoshが参加しております。

 独特の浮遊感を持つValiant Hearts、その浮世離れした幻想的な雰囲気に身を委ねてみてはいかがでしょうか?


Sailing Before The Wind: Illuminator
シングル (ストリーミング: 1/28)

 中心人物のBa. Bitoku氏を中心に、東京を拠点として活動するメタルコア・ヒーローの最新シングル。昨年リリースされた結成10周年記念のEP ''Immemorial''は、オリジナルメンバーのVo. Kneeya (現ovEnola)とGt. 孝哉 (現SLOTHREAT)の二人が参加。初期楽曲の再録・リアレンジ+新曲を交えた楽曲陣は、いかにメタルコア特有の「速さ」「攻撃性」に頼らずにメロディセンス+曲・作品の構成力+緻密なリフワークなど論理的で知性溢れるアプロ―チを重視してきたのか、その積み重ねの説得力を思い知らされた1枚でした。

 今回の新曲も知性溢れる「オタク」な、主にElitistThe Air I BreatheThis Or The Apocalypseあたりから影響を受けた、論理的なブレイクダウン・綿密なリフワーク・様式美あふれるリードのメロディからあふれ出るドラマ性は、美術館にメタルコアの音源コーナーがあったら飾られてもおかしくないくらい芸術点が高いです。本人のnoteでも触れられておりますが、真っ暗なトンネルの中でブレないサウンドを続けてきたSBTWの確固たる信念を体現する楽曲だと改めて感じました。

 今年でライブ活動を始めて10年になるSBTW、まだまだ日本のメタルコアの新しい可能性を提示し続けるでしょう。


We Struck Gold: Giving Up On Giving In
シングル (ストリーミング: 1/28)

 イギリス・ブリストル発メロディックハードコアバンドの最新シングル。筆者はフルアルバム''To Conquer A Fear // All Life Is Divine''で彼らを知ったのですが、The Ghost InsideやCounterpartsを始めとするタフガイな叙情ハードコア・メタルコアを昇華し、''The Stride'' ''High Horse''のように力強さを前面に押し出す一方で、''Dissolve''のように「聴かせる」ことに重点を置いた海のようにドラマ性とメリハリあふれるサウンドで筆者の注目を惹きました。

 約2年弱ぶりになる完全新曲''Giving Up On Giving In''も、生きる上で抱える苦悩や不満や無力感をクリエイティブに表現した、ファストで力強いメロディックハードコア・メタルコアサウンドは変わりません。インタビューでもメンバーが言及している通り、愚直なまでにアグレッシブなリフとシンガロング必至のコーラスワークもいい意味でブレていません。楽曲のテーマも忍耐と根気強さをメインに据えたPMA (Positive Mental Attitude)で一貫しております。

 「どんなに苦しい状況でも希望はある」と力強く語りかけてくれる彼らのサウンドは、今のコロナ禍で悩み生きる我々に響くものがあるのではないかと思っています。


Exit Dream: Kaleidoscope
シングル (ストリーミング: 1/28)

 かつてイギリスの叙情界隈を牽引していたNapoleonCasey、Napoleonはそのプログレッシブメタル・Djentからも影響を受けた滑らかな美しさと技巧派なインテリジェンスがドラマ性を放つサウンドで、Caseyは疾走感とパッションを前面に押し出す一方で哀愁と繊細さを漂わせるエモーショナルなメロディも引き出すメリハリで注目を浴びていました。2バンドが解散して数年、ex-NapoleonのVo. Wes Thompsonとex-CaseyのGt. Liam Torrance & Dr. Max Nicolaiが在籍・新しく結成したのが、このExit Dreamというバンドです。

 デビューシングルになる''Kaleidoscope''は、シューゲイズの幽玄さ・古き良きポストハードコアの湿った空気・ポストロックのロマンチックさがうまい具合に絡み合っている不穏ながらも美しい楽曲。Napoleonでもそうでしたが、Vo. Wesの伸びやかなクリーンボーカルはこのバンドでも健在のようです。若干Loatheっぽいなと思ったのですが、実際にLoatheのGt. Erik Bickerstaffeがボーカル面でプロデュースしています。他にはCounterpartsのGt. Jesse Doreenも楽曲の制作に携わっております。

 伝説のバンドで活躍していたメンバーの新バンド+MVを含む携わったメンバー陣の豪華さに湧きあがらないわけがない、リリースの度に注目されること請け合いでしょう。


Kings and Queens: SORRY, WHAT'S YOUR GENRE AGAIN?
アルバム (ストリーミング: 1/30)

 名古屋を拠点に活動するポップパンク・イージーコアバンドの1stフルアルバム。昨年は2020年12月に''Piece of Peeps''を公開後、相次いでメンバーが脱退したことにより一時期メンバーがVo. Ayatoだけになっておりましたが、先月Gt. Masao & Yoji, Dr. Kotaroの加入により新体制での活動、本作のリリースならびに自主企画(2/19)の開催を発表。昨日リリースされた新譜は国内ポップパンク・イージーコアの未来を提示した作品になっております。

 ポップパンク・イージーコア基軸にトラップ・チルアウト調のビートが随所に挟まれる自由で肩の力を抜いた楽曲の数々、特にTr.1の''Intro''のオールドスクール調のビート→バンドサウンドの流れが完璧すぎて、椅子から立ち上がって「コレだよコレ」ってガッツポーズ決めました。また、少年のように明るいクリーンだけでなく、大人びたメロウで甘いアプロ―チや厳ついグロウルや甲高いラップ、しまいにはメロディーをなぞったシャウトまでこなすVo. Ayatoの多才なボーカルアプローチが楽曲を極限まで魅力的に仕上げます。

彼らに「ごめん、あんたのジャンル何?」って聞くのは野暮でしょう。実際冒頭に書いた「ジャンル間の壁を越えてカッコいいと幅広いリスナーに言わせれるアーティスト」の好例に当てはまるのですから。



というわけで今回は10バンドピックアップしました。以前活躍していたバンドたちが帰ってくるってやっぱりうれしいですね。

 冒頭で述べたあの問題提起、穿った見方でもありますが是非好きなバンドがいたら、彼らの楽曲のことをもっと知ってみようとしてもいいんじゃないかなと思います。そうなると今よりももっと愛着がわくと思いますので。このnoteがそのきっかけの一つになってくれれば幸いです。

 ここまでお読みいただきありがとうございました。Twitterや当記事のコメントなどでフィードバックなど頂けるとすごい嬉しいです。皆様のお勧めの音源も是非教えてほしいです。





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