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耳で出来る!フィドルのチューニング

「チューナーで合わせるのがフィドラー、重音で合わせるのがクラシックヴァイオリニスト」と聞いたときは、驚きました。確かに、フィドルでは、チューナーを使う人が多く、クラシックヴァイオリンでは、重音でチューニングしている人をよく見かけます。けれども、そう見えるという以上に根拠がなく、フィドルとヴァイオリンの違いについておもしろおかしく語られる、冗談のひとつではないかと思います。今回は、フィドルのチューニングについてお話し、最後に、重音でのチューニング方法をお教えします!


フィドルのAは何Hz?

フィドル音楽において、ピッチ(音の高さ)に決まりはありません。実際に、(Aが440Hzより)高かったり低かったり、さまざまなピッチの古い音源が残されています。このように、フィドルソロでは、Aのピッチは常に自由です。例えば、私は、家で弾くとき、ケースから出したそのままのAで他を合わせたり、もっと低く、全体を一音ほど落としたりします。そうすると、音域が耳に優しく、また、弦の張力も緩まるので、左手も楽に弾けるという効果もあります。

フィドルのピッチは、他の人と一緒に演奏するときに初めて問題になります。現在、基準のAを440Hzにすることが一般的です。(クラシック音楽では、441Hzか442Hzにすることが一般的なので、クラシックをしていた方だと、440Hzだと少し低いと感じられるでしょう。)

一緒に演奏する人が合わせてくれるのなら、Aを440Hzより高くしても低くしても音楽上、何の問題もありません。ただし、ピッチが固定されているアコーディオンのような楽器と合わせる場合には、当然のことながら、フィドルの方が合わせます。場合によっては、全体に一音高くしなければいけないこともあります。

このように、フィドルは、チューニングにおいて、自由度の高い楽器であり、音楽自体もまた、ピッチが自由なのです。

(今回は、5度チューニングのお話です。非標準チューニングのお話は、また、別のところで・・・。)


ヴァイオリニストだけでなく、フィドラーも重音でチューニングする

もし、「4弦をチューナーで合わせるのがフィドラー」ならば、チューナーがなかった時代には、フィドラーは、いったい、どうやってチューニングをしたというのでしょうか??

5 度調弦としての楽器の特長を生かして、重音で合わせた以外に考えられません。

5度調弦とは、例えば、A線とE線が、ラ、シ、ド、レ、ミ と5度離れているように、それぞれ隣り合う2弦を5度に取ってチューニングする方法です。5度は、2音の波形が重なり、響き合って、音量が大きくなって聴こえます。それは、体感的に、楽器が急に鳴り響く感じです。その完全5度の協和音を聴き取ってチューニングするのです。

実際に、昔のフィドラーが重音でチューニングしている動画がありました。アイルランド北部のドニゴールのフィドラー、ジョン・ドハティが、重音でチューニングをしています(3:03~)。彼は、3世代以上遡るフィドルの家系で、彼自身も、子供の頃から楽器によくなじんでいます。楽器の知識と経験があれば、フィドラーも、このように耳でチューニングするのです。



楽器初心者は、迷わずチューナーを使おう

けれども、楽器に慣れていないと、右手で2弦を同時に弾きながら、左手でペグやアジャスターを回すのは至難の業です。また、5度の協和音を正確に聴き取るには、年季がかかります。

重音のチューニングに苦労するくらいなら、チューナーのメモリを正確に読んで行う方がずっといいと思います。せっかく、便利な道具があるなら、クラシックヴァイオリン、フィドルに関わらず、それを使わない手はないですよね!


各チューナーにはそれぞれ利点欠点がある

チューナーには、機械と、スマホを使ったアプリの2種類あります。機械は、「ギター用(平均律)」ではなく、「バイオリン用(つまり、完全5度)」に設定しましょう。※「バイオリン用」となっていても、完全5度になっていない機種もあるので注意しましょう。スマホアプリのほとんどが平均律のようです。

機械は、楽器に取り付けるクリップタイプのものと、置き型の2種類あります。クリップタイプは、楽器の振動で音を取ってくれるので、音を安定して音を出すことが難しい初心者に適しています。

こちらは、完全5度に設定できるクリップタイプです。小さいので、楽器ケースに収まり、便利です。


置き型は、そのまま使えば、空気振動で音を拾いますが、(別売りの)チューナーマイクを楽器に取り付ければ、クリップタイプ同様に、楽器の振動で音を拾ってくれます。そうすれば、騒々しい場所でも使えるようになります。

こちらは、完全5度に設定できる置き型です。メトロノームが付いているのは利点ですね。

静かな場所以外では、クリップマイクは必携です。


スマホのアプリも、完全5度の設定があるかどうか確認しましょう。また、最近のブルートゥース対応の機種では、チューナーマイクの差し込み口がなくラインが取れないので、たいてい、空気振動で音を拾う形式になります。空気振動で音を取るタイプは、静かな環境では問題ないのですが、騒々しい場所では、使えないのは欠点です。

iphone用 こちらは無料。


Android用

gStrings  Google Playからアプリをダウンロード 有料650円 完全5度にするには、さらにセッティングが必要です。


重音でのチューニングを行ってみよう

重音で行うチューニングは、技術が必要で、しかもそれができるようになるには年季がかかります。けれども、道具が要らず、正確で、早くでき、騒がしい状況下でもチューニングできるという、大きな利点があります。

しかも、重音を聴き取っていると、耳が正確な音程が聴き取れるようになるという、おまけがついてきます。さまざまなピッチのチューニングや非標準チューニングもできるようになります。

もし、重音でのチューニングをやってみたい!と思われるなら、以下の練習を取り入れてみてください。

まずは、音の響きを聴く練習から始めます。完全5度のチューナーで(A、D、G、Eの順で、これを2巡行い)正確に合わせた後に、A線とD線、D線とG線 、A線とE線の組み合わせの順で、重音を弾きます。これを2~3ヶ月の間行ってください。次第に、耳が慣れてきます。日々、重音の練習をすることで、ボーイングのコントロールもよくなってくるはずです。

2.

次に、A線とD線の重音を弾きながら、左手を使えそうなら左手で(無理なら右手で)、D線のアジャスターを左方向に回し、いったん音を低くします。それから、重音を鳴らしながら、少しずつ上げていきます。急に楽器が響くポイントがあります。2音がハモっている感覚をつかみましょう。通り過ぎてしまったら、もう一度、やり直してください。

他の弦(D線とG線 、A線とE線)でも同様に行いますが、最初からすべての弦で行うのではなく、1ヶ月間はA線とD線だけを集中して取り組む、という方法が脳の回路ができやすいのでお薦めです。

3.

同じように、ペグを回しながら行う方法でもやってみましょう。左手でペグを回して、いったん音を下げて、それから少しずつ上げていきながら、音が響くポイントを探します。このとき、ペグが思い通りに動いてくれないと、上手く行きません。ペグをキツく押し込み過ぎて固くなっていか、逆に、引っ張り過ぎて緩くなっていないか、ペグの状態を確認しましょう。それでもダメなときは、ペグを外して、ペグにペグチークをすり込むと解決します。

4.

最終的に、2.と3.を逆にして行えるようにします。つまり、ペグで合わせてから、微調整をアジャスターで行います。実際のやり方は、この動画がとてもよくできているので、本文と併せて参考にして下さい。



フィドラーは、ビブラートを行う代わりに共鳴音を生かして演奏します。そうした共鳴音も、正確なチューニングがあってこそ生れるもの。すべてのフィドラーにとって、チューニングは大事なのです。


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