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赤砂のガンマン

 枯草の塊が風で転がってきた。
 合図はない。どちらともなくホルスターから銃を抜き、そのまま相手目掛け引鉄を引く。
 銃声が二つ。流れる血は一筋。俺の勝ちだ。
 やつはその場であお向けに力なく倒れた。赤い砂が舞って、やつの死にざまをわずかばかり彩った。
 俺はやつに近づき、革ベストの内ポケットからスマートフォンと無線接続の血液検査キットを取り出し、やつの血を採取しつつ、その死に顔をカメラで撮影する。
 写真と血液のデータを転送すると、数秒で手配書との照合が終わる。口座に懸賞金が振り込まれたという通知が画面にポップアップした。金額を確認すると、俺はそのままスワイプして通知を消した。
 足元に枯れた火星ネギの塊がまた転がってきた。近くに放棄された農場があるのだろう。火星移住計画が事実上凍結されてから二十年が経った。開拓民の情熱もとうに消え失せ、皆、いつ終わるとも知れないその日暮らしの中にいた。
 「エディ・ザ・ドリフターね?」
 背後から突然声をかけられた。振り返ると女がいた。黒いジャケットと黒いパンツ姿に黒い帽子を目深に被っていた。まるで影絵のような出で立ちだったが、それが逆にその蠱惑的なボディラインをくっきりと見せつけていた。
 「仕事を頼みたいの」
 低く、妖しい、男を惑わせる声だった。
 「報酬は?」
 「50万ダイム。前金で5万ダイム払うわ」
 「高すぎる。胡散臭いな」
 「それだけの仕事ということよ」
 女は帽子のつばを指でつまんで上げながら言った。
 「あなたにしか頼めないの」
 美しく、しかし、危険な顔だと思った。行くところ死を運ぶ美貌。だが、それは火星での飯の種ということでもある。
 「誰を殺る?」
 「……ヒックマンよ」
 「アマゾニスの?そりゃ高いわけだ」
 美女。高報酬。暗黒街の帝王。何もかも嫌な予感しかしない。だが、この惑星にはもう良い事など何一つないことを俺は思い出した。
 

【続く】

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