ある男子大学生2人のチャット 12月17日 深夜1時

― ユースケさんが入室しました ―
― ユースケさんが翔歩さんを招待しました ―
― 翔歩さんが入室しました ―

翔歩:急にどうした

ユースケ:今日さ、ちょっとびっくりすることあってさ
ユースケ:なんか山の中を夕方くらいに歩いてたら、木の上に野生の猿がいたんだよ
ユースケ:やべーと思って逃げようとしたら、その猿が木から落ちてさ

翔歩:すご、ことわざじゃん

ユースケ:ことわざ? なにそれ

翔歩:いや小学校の時とか習ったろ、猿も木から落ちるって

ユースケ:猿が木から落ちることなんかわざわざ小学校で習う?

翔歩:いやちげぇよ、「猿も木から落ちる」ってことわざ習ったろ

ユースケ:だからその「ことわざ」ってのがわかんねーんだって

翔歩:まじかお前
翔歩:ことわざってのは何百年以上も前からある、人生の教訓みたいなやつを昔の人が比喩とかを使って表現したやつよ

ユースケ:なにそれ
ユースケ:例えツッコミのこと?

翔歩:例えツッコミはそんな昔からねぇよ
翔歩:ことわざは今でも普遍的で同じようなことが言えるからみんな共通認識として教訓に使ってんの

ユースケ:へー、そうなんだ

翔歩:なんでことわざって言葉知らないのに「比喩」とか「普遍的」とかは分かるんだよ

ユースケ:そんなの常識だろ、なめんなよ

翔歩:お前の常識どうなってんだよ

ユースケ:そんで、俺のさっきの話はそのことわざに似てるのか

翔歩:そうそう、それを比喩じゃなく実際に見たのがすげぇよ

ユースケ:いや、さっきの話ってまだ途中なのよ
ユースケ:その時は川釣りしに行こうとしてて山に入ってたわけなんだけど、釣りしてたら引きが強いやつがいてさ
ユースケ:でも川が緑に濁ってて何が掛ったか見えなかったし、結局逃げられてちゃって

翔歩:それは惜しかったな

ユースケ:そいつ信じられないくらい強い力だったから、あわや12月極寒の川に落ちるとこだったわ

翔歩:やばいな、よかった落ちなくて

ユースケ:俺もこれ以上は危険だなーと思ったから川に沿って山を下ってたら、この時期に川の真ん中で泳いでるやついてさ
ユースケ:見てよこれ

― 祐介が画像を送信しました ―

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翔歩:え、なんだこれ全然見えねぇ

ユースケ:暗いし手ブレしてるから見えないと思うけど、もしかしたら溺れてるかもと思って心配で近づいてみたわけ
ユースケ:そしたらそいつカッパだった
ユースケ:しかもケガしてて緑の血みたいなの出てたから、さっき釣りかけた大物がカッパだったんだと思う

翔歩:は?

ユースケ:逃した魚は大きかったんだろうなと思ったらカッパの川流れだったのよ

翔歩:おいやっぱお前ことわざ知ってんだろ

ユースケ:しらねーっつの
ユースケ:「逃した魚は大きかったんだろうなと思ったらカッパの川流れだった」ってそんなピンポイントな教訓あるのかよ

翔歩:そんなことわざはねぇよ

ユースケ:ないんじゃねーかよ

翔歩:ちがうって
翔歩:「逃した魚は大きい」「カッパの川流れ」ってことわざがそれぞれあんの
翔歩:だいたい 「川流れ」なんて言葉それでしか聞かねぇぞ

ユースケ:怖いくらい一致してるな
ユースケ:じゃあ、ついでにこないだ長野県に旅行いった時のエピソードも聞いてくれよ

翔歩:まだあんのかよ、もう聞くの怖ぇよ
翔歩:ってかなんで長野に?

ユースケ:行きたいとこがあったんだよ
ユースケ:そういや目的地に行く途中に一心堂って店があって、寄ってみたら餅がうまくて最高だった
ユースケ:やっぱ餅は餅屋だな、専門でやってる店が一番

― 祐介が画像を送信しました ―

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翔歩:そうか、おいしそうだな

ユースケ:そんで店から出たらなんかでっけー牛が歩いてたから、なんとなく付いていったわけ
ユースケ:周りにジロジロ見られてハズかったわ

翔歩:行きたいとこあったんじゃねぇのかよ

ユースケ:それが、気づいたらいつの間にか目的地の善光寺に着いちゃってさ
ユースケ:まさか牛に引かれて善行寺参りするとは思わずめっちゃ笑ったわ、思わぬ幸運だった
ユースケ:これ、その牛の写真

― 祐介が画像を送信しました ―

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翔歩:おいバイソンじゃねーか!バイソンを牛のカテゴリに入れるなよ

ユースケ:善光寺に行ったあと、近くに弘法大師とかっていう偉いお坊さんの像があるって聞いて行ってみたんだよね
ユースケ:その人、習字がべらぼうにうまかったらしいよ、知ってる?

翔歩:知ってるよ、けどそれよりバイソンがいる方が気になりすぎるって

ユースケ:それはいたんだからしょうがねーだろ
ユースケ:話し戻すけど、その像の近くに飾ってた弘法の字を見たらまじで美文字だった
ユースケ:でも漢字の止めるとこハネてやんの笑
ユースケ:弘法も筆の誤りすんだな、プロでもミスするなら俺らもミスして当然だわ

翔歩:偉人の揚げ足とって自分を正当化するなよ

ユースケ:なんだかんだあの旅行楽しかったな
ユースケ:光陰が矢のごとくすげースピードで過ぎていった感じする
ユースケ:こんな感じかな
ユースケ:このエピソードはどうだった?

翔歩:ふざけんな

ユースケ:え?

翔歩:「餅は餅屋」「牛に引かれて善行寺参り」「弘法も筆の誤り」「光陰矢の如し」
翔歩:お前ことわざ博士だろ、ちゃっかり意味まで添えやがって

ユースケ:めっちゃ入ってんじゃん笑
ユースケ:先に言ってよ

翔歩:最初の「猿も木から落ちる」「逃した魚は大きい」「カッパの川流れ」も合わせたら全部で7つもことわざ知ってんじゃねぇか!!!
コトワザボールが揃ってことわざ神龍が登場するだろうがよ、どうすんだ、永遠のことわざでも願うのかよ、それともギャルのことわざ貰う気か

ユースケ:なにいってんだ、落ち着いてくれ、なんだギャルのことわざって

翔歩:そもそもおかしいだろ、なんでお前それまで知らなかったお坊さんを「弘法は」とか呼び捨てしてんだよ

ユースケ:習字がうまいお坊さんだろ?
ユースケ:甥っ子みたいなもんだろ

翔歩:どんな距離感なんだよ、せめて弘法は叔父であれよ
翔歩:そんで時間のこと「光陰」とかいうのことわざだけだし、似てることを「ごとく」とかいうキャラじゃねぇだろお前は

ユースケ:お前が俺の言語感覚を決めるなよ、言うだろ光陰くらい

翔歩:あとお前「猿も木から落ちる」「カッパの川流れ」「弘法も筆の誤り」でことわざスロットがジャックポットじゃねぇか

ユースケ:まじで落ち着いてくれ
ユースケ:たしかにどれも「その道のプロでも失敗するんだな」とは思ったけど

翔歩:このことわざ詐欺師がよ
翔歩:なにが「まさか牛に引かれて善行寺参りするとは」だよ、わざわざそのために長野県なんか行くな

ユースケ:そんなギャグマンガみたいなニッチな状況がことわざにある方がおかしいだろ

翔歩:最初の「ことわざ? なにそれ」もだんだんムカついてきたわ

ユースケ:でもお前にその質問しといてよかったわ、聞くは一時の恥だけど聞かぬは一生の恥だしな

翔歩:ことわざ知ってるじゃねぇか

― 翔歩さんが祐介さんを退室させました ―

― 翔歩さんが退室しました ―

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