自然と口角があがる時
劇場版「きのう何食べた?」が公開された。
よしながふみさんの漫画が原作で、2019年の深夜にテレビ東京系で放送されていた連続ドラマの映画化である。「孤独のグルメ」といい、テレビ東京は深夜の飯テロが得意だ。
先日、映画館で予告編を見た。予告編の料理だけでお腹が減った。
おいしそうな食事もさることながら、西島秀俊さん演じる料理好きのシロさんの口角が、料理中つねにキュッとあがっているのが印象的だ。
シロさんは本当に料理が好きなんだなあと思える。内野聖陽さん演じる恋人のケンジが一緒においしそうに食べるから、尚更なのかもしれない。
料理シーンはほぼ台詞がなく、手順やコツがシロさんの声でひとり語りのように流れる。料理をたのしむ様子を口角と華麗な手さばきで表現する西島秀俊さんの演技力にも、舌を巻く。
自分はといえば、日に日にのびる影のように忍び寄ってくる繁忙期を前に、眉間にしわ、口はへの字になりがちだ。
わたしは何しているときに自然と口角があがっているのかなあ、と仕事中に遠い目をしていると、いただきものの子グマが「休憩しませんか」と熱い視線を送ってくる。
おとぼけフェイスがかわいい。
ぼくは渡島半島は持たないよ!とかわいい顔で北海道をわしづかむ子グマ。
中身を確認するより先に、手首のスナップをくるりときかせて裏面表示。
製造所 新千歳空港連絡施設3階。
連絡施設、という事務的な名称だったので、本館から別館へ続く通路で折りたたみ式の長机を並べて作っているところを想像した。文化祭かよ。
調べてみると、れっきとしたロイズの厨房併設店舗だった。名称とは対照的に、なんとドリーミーな施設。
ひたすらにたのしげ
おなかにピスタチオクリームをたくわえたクマは、この施設でひとつひとつ手作りされているのか。
おめめウルウルですごく媚びてくる
と油断してはならない。
ひらけ!瞳孔!
この個体差、まぎれもなく手づくりである。
他のパーツは差がないので、ダルマのように目だけ入れているのかもしれない。目は口ほどにものをいう。目の大きさや位置でだいぶ表情が変わる。
みんなちがって、みんないい。わたしと子グマと眼球と。
あと、表示に隠れタモリさんを見つけてニヤニヤした。
どうも、わたしは黙々となにかを観察して、どうでもいいものやおもしろいものを見つけたときに自然と口角が上がるようだ。
おいしくて、うつくしくて(かわいらしくて)、おもしろいもの。
この3種の神器があれば、わたしは自分の機嫌が自分でとれる。
「きのう何食べた?」は、おいしくて、かわいらしくて、おもしろい物語だと思う。まだ観に行けていないのだが、劇場版もたぶんそうだ。
クリスマスと歳暮と年末商戦12月を迎える前に、観に行きたい。まだ上陸したことのない北海道にも。
ひとしきり脱線したところで、さあ仕事に戻ろうと思い届いていたメールを開く。他の人が支店長宛に送ったメールのCCだった。よく見ると、宛名が「〇〇店長様」になっていた。
恣意的かつ大胆な降格に、思わず崩れ落ちた。一文字足りないだけなのに。
仕事も、見落としがちなところをよく観察すると、なかなか楽しい。
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