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七夕祭り、涙がキラリ

窓や濡れた地面に跳ねる雨音が、てんぷらを揚げている音に聞こえてくる。どちらにしても、カラッとあがりますように。

深夜1時、土砂災害警報を知らせるエリアメールの爆音に覚醒してしまい、そんなくだらないことを考え気を紛らわせた。

もうすぐ七夕。

ここ数年、関東の七夕は大体雨か曇天だ。梅雨時だから仕方がないのだろうか。あんなに「映える」イベントなのに、いまいち盛り上がりに欠けるのはそのせいかもしれない。

一昨年の8月4日、わたしは所用で仙台にいた。三越から藤崎百貨店へ移動するため、中央通り商店街へ向かうと、何やら騒がしい。

青いシートから飛び出した緑色の長いものや、赤や黄色の色鮮やかな飾り、頭に白いタオルを巻いた褐色の男たちが、通りの真ん中を占拠している。

理由はこれだった。

七夕まつりは本来、旧暦7月7日の行事として全国各地に広まっていました。 仙台七夕まつりでは、その季節感に合わせるため、新暦の1カ月遅れの暦である中暦を用い、現在の8月6日から8日に開催されています。

翌々日から開催される、仙台七夕まつりの準備真っ最中だったのだ。

そういえば、仙台駅構内にもあでやかな飾りがあったな。目に入ったのがこの写真の飾りだったので、仙台は笹かまぼこ激推しなのか、地元愛がすごいな、くらいにしか思っていなかった自分を恥じた。

通りと平行に置かれた何本もの竹(もはや笹ではない)は、脚立やロープを使い、屈強な男たちによって豪快に地面と垂直に立てられていく。なんと、商店街の歩道には、竹飾りを立てるための専用の穴があるではないか。

当日朝に、七夕飾りを用意に取り付けする工夫を施すのが、8月4日の準備における一番の作業ポイントです。七夕飾りを取り付けしたり、高さを調整するために、いくつかの道具を竹に施します。竹のどの辺に七夕飾りを下げるかを決める位置取り、そのポイントに七夕飾りを下げるために滑車を取り付けます。

次に七夕飾りを上下に上げ下げできるようにする紐の取り付け、紐が絡まることがないようにするガイドの取り付け、まとめた紐を固定するトンボなど、仙台七夕まつりの下準備はお店や業者さんの工夫が満載です。

雪国のロードヒーティングや、縦型の信号機など、地域の特性に則した設備だ。殊に、竹専用の穴は1年に1回、この3日間にしか使われない設備なのではないか。伊達政宗公の時代から400年の歴史を誇る伝統の祭りを、地元をあげて大切にしている様子に、涙がキラリ。

ホームページで過去の祭りの様子を見れば見るほど、この目で仙台七夕まつりを見たくなった。あでやか、きらびやか、はなやか。伝統を受け継ぎつつ、現代的な要素も取り入れたキラリと光る飾りたち。

しかし、日帰りで神奈川に帰らなければならない。情報を事前にチェックしていたら、ここで夏休みをとってもう少し滞在を延ばしたのに。自分の知識不足に、またもや涙がキラリ。

準備段階を見られたのも貴重な体験だったが、来年は祭り本番を見に来よう。そう記憶の片隅に居座らせ、気仙沼で水揚げされたというカツオ丼を食べ、笹かまぼことずんだ餅と萩の月を連れて帰路についた。

2020年。仙台七夕まつりは感染症拡大防止のため中止になった。


戦後初の中止だったという。
あのウィルスは、風物詩や伝統や地域の誇りも奪っているんだな。

わたしの会社も、この時期には七夕向け商品を展開している。
「祭りが中止になってしまったので、展開休止します」と連絡をもらった時の、現地営業の残念そうな声は忘れられない。

そして今年。


現地営業からは「今年も中止みたいです・・・」と聞いていたが、つい先日、規模を縮小しての開催が決定したというニュースを見た。ただし人流を抑えるため、県外からの来場はお控えくださいとのこと。

竹飾りを立てる穴も、屈強な男たちも、みな2年ぶりの出番だ。

来年こそ、二度と戻らないこの時を、キラリと光る七夕飾りを、目に焼き付けに行こう。

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