五十音で記憶の字引網
思い出せないループにはまった。
4文字の、南仏の菓子。
Eテレ『グレーテルのかまど』で初めて知った菓子。
ひし形のような、切れ長の目のような、ちいさな葉っぱのような形の菓子。
ずっと気になっていて、DEEN&DELUCAならあるかもしれない、とふと思い立ち寄ったのだが、名前が思い出せない。
頭文字「カ」まで出ている。
頭の文字が確定しているので、これは五十音を順番にたどっていけばいずれたどり着ける。五十音の地引網の中に、正解は入っているのだから。
2文字目が出ればなんとかなるだろうと思い、漁を始めた。
カイマン…?
いきなりいかつい爬虫類。
カウベル…?
哺乳類の首につける鈴、あるいは楽器。
カエサル…?
違うのは分かっているが、賽は投げられたので、ここで引き返すわけにはいかない。ルビコン川を越えたい。
カキモリ…?
東京のブルックリンと呼ばれる、蔵前の文房具屋。オーダーインクを作ってみたいと思うものの、使い道がないので眺めるだけになりそうだ。
カクテル…?
多くの音の中から、自分が必要としている情報や重要な情報を無意識に選択することができる脳の働きをカクテルパーティー効果というらしい。
わたしの頭の中はカクテルパーティーできていない。
カステラ…?
探しているのは南仏の菓子だ。ちょっと西に行き過ぎた。
カノッサ…?
教皇に逆らった皇帝が破門され、仲間にも見捨てられ、場外の雪中に3日間立ち尽くして許してもらった事件。わたしもいま、城外に立ち尽くしている。記憶から破門されないように。
カメイド…?
東京・三鷹から千葉までをつなぐ、JR総武線の駅のひとつ。よく使う路線なので見慣れた駅名だが、意外と難読地名なのだろうか。全長3.4㎞の東武亀戸線も通っている。スカイツリーを臨む、東京の下町。
カメリア…?
亀戸駅の近くにはカメリアセンターがある。カメリア=ツバキだが、この倍は亀戸の面影を色濃く残しているように感じる。
カリメロ…?
イタリアの人気キャラクター。今度はちょっと東に行き過ぎた。カリメロとは「美しい脚」という意味らしい。もっと他の部分にインパクトがあるように思うのだが。
カリメン…?
神奈川県民が「二俣川に行く」と言えば運転免許センター。
カリマン…?
かりんとうのような揚げたてのカリカリの皮の中に、あんこが詰まった宇都宮の和菓子。これはたいそうおいしかった。
しかし国内に戻ってきてしまった。なんとなく正解に近づいている気がするのだが、探している正解は南仏にある。
カルメン…?
ちょっとフランスに戻る。
カルタゴ…?
おぼろげな記憶はあっという間に大陸を越えてしまった。
カレイド…?
もはやわたしの中で「カ」のつく4文字が万華鏡のようにぐるぐるさまざまに変化している。
カロチン…?
着色料で使われているだろうけど違う。そろそろ五十音の選択肢がなくなってきた。
カンテラ…?
わたしの記憶にあかりが灯らぬまま、五十音を使いつくした。
記憶の地引網に失敗したようなので、賽ではなく匙を投げた。
求めていたおさかなはこれだ。
~カリソン~
カリメンとカリマンが相当惜しかった。
そして、立ち寄ったDEEN&DELUCAでは、残念ながら扱っていなかった。東京・広尾で買えるらしいが、おしゃれタウンすぎて行きづらい。
どこか、わたしが行きやすいところで売っていないだろうか。
なんと、両国にあったのか。
カメイドも、物理的にかすっていた奇跡。
あと、川を渡った先に、蔵前のカキモリ。
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