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二宮豊「駆除屋」



 扉を開ける前に、いちど間を置いた。ノブに手をかけると、向こう側に満ちた空気を感じた。扉を開けた瞬間、陽圧の空間から大量の空気が溢れ出し、わたしはお馴染みの拒絶で迎え入れられた。空気の濁流に体を押入れ、わずかな隙間に体を捩じ込んだ。目の前には、もう一枚、扉があった。わたしは、壁に設置されたボタンを押し、入り口を陰圧にし、それから扉を開いた。今度は、巣からの空気を、入り口が吸い込み、またもわたしは空気の濁流に呑み込まれた。わたしは、濁流に奪われそうになる扉をゆっくりと閉じ、そこでようやく帰宅した。
 巣に戻り、ソファに腰を降ろしたが、座面は、どこまでも平坦で、快適さはとうの昔に失われていた。脳裏には、長かった出張が蘇ってきた。もはやウシたちの生息域を押し返すことなど不可能だった。彼らはこれまで、わたしたちの居住区域に立ち入ってくることはなかった。しかし、半年前の大移動で、ウシたちはわたしたちの区域をルートにした。ウシたちが川渡りに使っていた大河に崩壊した放棄ダムの貯水が流れ込んだことが原因のようだった。道を失ったウシたちは、彼らが習性的に使ってきたルートから、何百キロと離れたわたしたちの上を通ることにしたのだ。

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4,235字
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さまざまな個性を持った7編の小説からなるアンソロジーです。参加作家は、佐川恭一・河野咲子・旗原理沙子・林やは・二宮豊・竹中優子・和泉萌香。…

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