誰も教えてくれないから

単刀直入に言えば、今の職場を退職することに決めた。

理由として、体力や精神的に参ってしまったこともあるのだが、お局のことを良くして頂いてる社員さんから聴いたことで揺れ動いた。

7連休明けの朝、出勤してきた私を見つけたその人は声を掛けてきた。
「休んだのは精神的なこと?」と問われて頷いたら、「何かあったら相談乗るからね」と言って別れた。
その日の帰りに片付けをしていたら、耳元でこそりと「精神的なことってお局?」と聴かれて、首肯を示した私。
その社員さんは、私が入社して1ヶ月ほど経った頃に異動してしまったのだが、その真相を知ることになる。

社員さんだから何でも分かるだろと何も分からない入社初日から目を付けられていたこと。
物を隠されたこと。
2人しかいない場所で殴る蹴るの暴力を受けたこと。
わざと聞こえるように大声で陰口や暴言を吐いたこと。
ロッカーにしまっていた休み届を水浸しになった状態で事務の方の手元に届いたこと。

さらに厄介なのは、お局は創業当時から在籍しているメンバーで、部長でさえ強く言えないこと。
上役の方に暴力で出来たあざを見せて「別の部署に異動させてくれないなら、会社辞めます」と伝えた所、異動という顛末に至ったと話した。

「この会社、可笑しいんだよ」。
いつも快活な彼女がそう吐き捨てたことを忘れない。
引っ掛かりを覚えていたのになかなか聞き出せずにいたのだが、前部署に在籍していた頃、お局に注意を受けたのにも関わらず、返事もせず無視していた理由に合点が行った。

自分がやろうとしていた仕事を取っていったこと。
新人2人を数日で辞めさせたこと。

いつかは最悪の事態、例えばいじめとかに発展するのではないか。
そう危惧していた私だが、既にもう起こっていたとは。
私は幸い?にも暴力や物隠しの被害には遭っていないが、物隠し被害を防ぐため、その次の日にロッカーの中身をからにしてきた。
もう2度と休憩室に立ち寄ることはないだろう。

「厳しい指導」の意味を分かっていない。
これでは、まるで「いじめ」だ、「パワハラ」だ。しかも同性。
まず、新人を初日から追い込むなんて間違えている。
仮に経験者とか天才だとしても勝手を知らないんだから、分からないのは当然なのに。理不尽極まりない。
しかも、言い訳が付くような状況で行っているから陰湿だ。
社会人として、いや人間としてあるまじき行為だ。

「あのお局だって、根拠はないけど、「嫌われ者」を演じているだけかもしれない。
職場という小さな世界にも色んな人間がいるから、あんな人も誰かにとっては必要なのかもしれないけれど」。
前回の記事で、そんな一縷いちるの希望を綴ったが、その希望でさえ打ち砕かれた。
そんな先輩の元で働きたくない、悪事に上も下も関係ないのに強く言えない部長もどうかしていると信頼の裏切りと怒りがふつふつと湧き上がった。

「殴られたり蹴られたりしたら言ってね」。
休憩室で先程の話の続きをしていて、帰り支度をしている私にその社員さんは去り際にそう声を掛けてくれた。

帰り支度を終えて、車に乗り込むと頭の片隅に置いてくれればと思いながら、私は派遣会社の担当者に電話にてその話をした。
厳しいということは、何件も相談を受けていたようだが(私もその1人)、暴力や暴言等までは把握していなかったようだった。

2日後、母親に「そういうことがあったから辞めようと思う」と話した。
罵倒されるかと思ったが、母親も「そんなことがあるんなら、あなたの身に何かあったら困る。働かす訳にはいかない」と了承し、「次の所でも頑張りなさい、合わなかったらまた探せば良い」と激励の言葉をもらった。

余談だが、その「次の場所」は派遣会社に相談した所、枠が空いているということで紹介してもらった。
辞めるか否かを逡巡していたので、現在、見学行ってみないかと誘われている状態だ。
そのことも母親には伝えたのだが、姉が数年前、勤めていたことが発覚した(が、勤務態度が宜しくなくすぐ切られてしまったらしい)。
「かなり厳しい企業だけど、あなたなら出来ると思う」と聞いて、唐突に掛けられた重圧で萎えた。

話を終えた後、め組の「YOLO」を聴いていた。
1度きりなのに先が分からない自分の人生だからこそ、「誰も教えてくれないから楽じゃない」。
思い通りに行かずとも粘り強く、自分で自分を信じられるまで挑戦すれば良い、と励まされたような気がした。
山あり谷あり、平坦な道じゃないのが「人生」というものではなかろうか。

とりあえず、派遣会社に辞意を伝え、見学に行ってからだ。
何度転んでも私は私と目の前に広がる道を信じる。
天職と思える職であることを祈りながら。