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小説について考える記事

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だいたい軽めのエッセイになりますが、小説論や創作論と少し絡めて書いています。
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記事一覧

「素粒子」を読む。成功者も落伍者も、愛だけは手に入らない。

(性的で露悪的な表現が含まれます)  いい加減に布団をきれいに洗濯しなければいけないな、…

はなし
1か月前
28

小説書きの同士に、改めて薦めたい本はない。しかし……

 おすすめの本はありますか?  noteに限らず、ネット上でありとあらゆる人が「名刺代わりの…

はなし
4か月前
44

「どくろ杯」「ねむれ巴里」を読む。民族的ルーツをもった風景。あと少し建築の話。

 なんとなく「風景描写を楽しめる小説は強い」と思っている。冒頭に入る花鳥風月や、登場人物…

はなし
6か月前
36

「雨を知るもの」を読む。誰にとっての「事件」だろうか?

(秋田柴子先生がやまなし文学賞佳作を受賞されました。 読者の内の一人として、僭越ではあり…

はなし
9か月前
36

「宙返り」を読む。理屈を超えた、瞳のちから。

 謝罪会見というのは、気が重いものである。  いや、実際に聴衆を集めて謝罪会見をしたこと…

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10か月前
30

「サージウスの死神」を読む・物語の主人公は呪われている

 佐藤究の「サージウスの死神」には、ギャンブルに取り憑かれている破滅的な主人公が登場する…

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1年前
24

人生のためにならない話も、漬物樽に入れておく

 この日はお昼のおやつを食べるために、駅前のマクドナルドに向かっていた。天からスポイトで一滴ずつ光が落下してきて、垂直に腹の底に波紋を作っていくような、さわやかな空腹感があった。空腹というのがこんなに明るいものなのかとみずから驚きながら、途中で横断歩道に差しかかった。信号が青になるのを待っていた。年齢も服装もバラバラの人々が真横に並んでいて、そのはすかいにある奥まった隘路から、絵画から飛び出してくる虎みたいに車が走ってきた。  そろそろ青になるかなと、一歩だけ前に進んだその

「テスカトリポカ」を読んでいます・構成は生き物だ

 (若干ネタバレあります)  今読んでいる佐藤究の「テスカトリポカ」の感想をノートにまと…

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1年前
25

なんの専門分野も持たない、子供が主人公の小説は「軽い」のか?

 読み始めた小説が、例えばいきなり食事中の雑談から始まると 「これって、エンタメとしては…

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1年前
22

初期の中村文則が描いていた当事者性

「私」ばかりの中村文則の小説  ふつう、「私は、私は、私は」という風に自分の話しかし…

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1年前
21

(現在編集中)共通のルールの下で争う物語

 僕は受験勉強をほとんどしなかった人間なのだが、たとえ生来のズボラな劣等生であっても、他…

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2年前
9

やる気のない疲れた探偵

 このあいだ久しぶりに探偵小説を読んでいたら、僕の内で、物語の主人公像というものへの見方…

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2年前
17

小説における個性的な登場人物と、普通の優しい人物が描くグラデーション

 小説を書いていると、ついエキセントリックな人物を出したくなるし、自分が読者でもそういう…

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2年前
12

これまで読んできた言葉を忘れたくない

 長く本を読んでいると、何かのきっかけで「この小説家さんはもういいかな」と思う時がある。そして実際にその小説家との関係を断ってしまう。理由は様々で、作風にマンネリが見え始めたとか、読者である僕の側に別の好みができたとか。とにもかくにも読者というのは気まぐれだし、僕も新しい物好きの俗物的なところがあるので、読むのを辞めた小説家さんは何人かいる。  しかし、最近になって彼らの小説を掘り出してもう一度読んで、関係を再構築したいという気持ちになった。  一冊一冊を回顧的に読むこと