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#081 スカンノへの旅 (その20) 目標は達成できたのか?

 壮大な光景が目の前に広がっている。一つ一つの建物が数百年という歴史をもっている。ドアや窓の形・デザインが素晴らしい。窓辺の花が嬉しい。壁の表情が堪らなく豊かだ。これらを全部描いて持って帰りたい。建物だけではない。建物で囲まれた広場の空気感。それも表現したい。この空間にあるもの、この空間で感じられるもの全てを描いて、全てを持って帰りたい。
 コロナ禍で数年間、海外へスケッチに行くことができなかったこともあり、イタリア・スカンノで久し振りにスケッチをした私は、少々興奮していた。
 だがしかし、今回のスケッチツアーでは一つの課題を持って臨んでいた。それは、作品の中の主役と脇役を明快にすること。魅力的で描きたいものは多い。しかし、それら全てを描いてはならない。描くとしても、どれが主役でどれが脇役なのかが分かるように描く。主役以外は少し省略して描く。画家の古山さんに、もう何度言われたことか。何度言われても、現実に壮大な光景を目の前にすると、私は理性を失い、誘惑に負けてしまうのだった。
 目の前の感動的なものを全て描こう。全てに感動しているのだから仕方がない。自分の気持ちに正直になろう。全てを描く。そんな作品もあっていいじゃないか。
 そう思いながらも、それは見る側の人にとっては退屈でしかない絵になってしまうことが多いものだと自覚している。素人であっても、描くなら魅力的な絵を描きたい。絵画とは何かを勉強したい。
 だから、今度こそ・・・、今度こそと決意した。今回のスカンノのスケッチでは改善してみよう。結果を残そうと思い、スカンノの町に乗り込んだ。

 結果はどうだったのだろう。スケッチブックには十数枚のスケッチが残っている。基本的に私は、海外でのスケッチに帰国後手を加えない。スケッチをしたときの感動や空気感をスケッチブックに閉じ込めておきたいのだ。

 まあ、主役・脇役を明快にした作品は、現地で撮ってきた資料写真を見ながら描けばいいよ。現場でのスケッチでは、自分の気持ちを大切にして描けばいいよ。・・・と自分を慰める。

 帰国後、たまたま手に取った、ある作家の本に「モチーフに何を選んでどのように省くか、どうしたら自分が描きやすくなるかを考えることは決して楽な作業ではなく、そこはしっかりと集中しなければなりません」「その瞬間に絵作りを意識しなければならないので、大きなエネルギーを必要とします」とあった。そうなのか。作家でもそうなのか。やはり、主役と脇役の問題は難しいことなのだ。私は少し救われた気持ちになった。

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