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#059 スカンノへの旅 (その6) 裏路地の秘密

 知らない町を歩くことの魅力の一つ、それは道に迷うこと。
 ヨーロッパの町の小径は入り組んでいて迷路のようだ。文字通り迷う道。蟻の巣のように右に左に、上に下にと複雑に交じりながら続いている。狭い道もある。ここを進むとどこに出るのか…と行ってみたくなる。その結果、迷ってしまい、元に戻ろうとすると更に迷ってしまう。自分の無力さを感じる。不安だが、それが楽しい。どんどん歩いていくと、見覚えのある場所に辿り着いたりする。不思議だ。
 スカンノの町でスケッチをしながら、ありとあらゆる道を歩いてきた。行きたい道を好きなように歩いて行くことの楽しさ。先を急ぐ旅ではないからできること。

 スカンノの小径という小径を歩いた私は2つのことを発見(?)した。1つは、多くの家の窓に鉢があり、花が咲いていること。ヨーロッパではよく見られる光景だが、ここスカンノは南北に位置する家と家は、道を挟んではいるものの、その道は狭く、結構接近している。しかし、窓に置かれた鉢の花が美しく咲いている。光が当たらなければ植物は育たないし花は咲かない。家の南側の近い所に隣家があれば太陽の光は遮られるはずだ。なのに花が咲いている。見ると実際に光が当たっている窓がいくつもある。家の南側に他の家が建っているのに、その家の南側の窓に光が当たっている。何故だ? 屋根の形状に何らかの工夫があるのか? 建物の形状や角度を計算し尽くしてあるのか? 1軒1軒と観察しながら狭い道を歩いていった。

 スカンノでの2日目に、その秘密の訳を理解した。それが2つ目の発見だ。発見というほどのことはない。簡単な理由だった。
 イタリアの山地の町では、斜面の高い所に教会と広場があり、その下の斜面に家々が建っているという構造になっている。スカンノもそうだ。南向きの斜面に、家々は太陽の光を等しく受けることができるように建っているのだ。南側の家は低い位置に建っているので、太陽の光を遮ることはない。だから、どの家も太陽の光を等しく受けることができ、窓辺の花も咲くことができるという訳だ。
 石段を下がるとき、まるで穴の底にでも行ってしまうのではないかと不安に思ったことがあったが、そうではなく、斜面を下っていただけのことだった。石段の上でも下でも等しく太陽の光は届くのだ。平地で暮らしている私にとっては発見であったが、気がついてみれば当たり前のことであった。
 このようなささやかなことでも一大発見のように感じられるのも、旅情というものかもしれない。 


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