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【短編童話】火をわけてもらう旅

※以下のものがたりは、stand.fmで録音したものの原稿です。
※山形県朝日町のハチ蜜の森キャンドルさんの蝋燭との出会いから、このものがたりは生まれました。

     *     *     *

「さあて、、、どこに行こうかな、、、」
オレンジ色のサイコロの形のロウソクは、湖のほとりにたたずんでいました。

きれいな三角の形をした山のふもとには、まんまるの形の湖があって、水辺のわきに一人のロウソク職人さんが住んでいるのです。
火を焚いて、ロウを溶かして、長くてほそいもの、たまごの形のものなどいろんな形のロウソクをつくっていました。
そうして一つひとつ形ができあがると、
「さあ、旅にでておいで」
と言って、ロウソクたちを送り出すのです。
「行った先で会った他の、火がついたロウソクたちに火をわけてもらうといいよ。ここにまた帰ってきてもいいし、そのままずっと旅を続けてもいいんだ」
ロウソク職人さんは、毎日そうやってたくさんのロウソクを見送っていました。

サイコロの形のロウソクも、形ができあがると、自分も旅に出られるのだとワクワクしていました。
ところが、めずらしいことにロウソク職人さんの顔がくらいのです。
「ちょっと、こまったことになった。なぜだか分からないが、あちこちにガラスのようなものが張り巡らされて、火のついたロウソクを見つけても、ガラスが邪魔して、どうしても火がつかないらしいんだ。さっき、こちらに帰ってきた松ぼっくりの形のロウソクが教えてくれてな。
理由がわからないから、おれも今は手の打ちようがない。ここにいてもいいけれど、こういうときだから出会えるものもあるとおもうんだ。
・・・気をつけてな」


そんなロウソク職人さんのことばを思い出しながら、サイコロの形のロウソクは湖のほとりで、ゆっくりしていました。
――すると、湖の水面がぴちゃぴちゃさわがしくなっています。よくみると、モグラの子どもがバタバタおぼれてしまっているようです。
ロウソクは、サイコロのようにコロコロと勢いをつけて水のなかに飛び込んでゆきました。モグラの子どもがしがみついてきて、そのまま岸辺へ行き、地面の上ですっかり安心したように一息つきました。
ロウは水をはじくので、濡れずにすみました。モグラの子どもは濡れた体をぶるぶるすると、ちかくの穴へかけこんでゆきました。

サイコロの形のロウソクは、湖にそってコロコロあるいてゆきました。
そうして、とうとう岩かげに灯っている大きな一つのロウソクを見つけたのでした。
「火をわけていただいてもよろしいでしょうか?」
「わしはいっこうに構わんが、どうやらそちらとこちらの間に、どうも変な仕切りがあって、向こうの景色は見えるのに、それ以上近寄れなくなっているのだ。どうしたものか・・・」

そのとき、足元からポコポコポコッともぐらが二匹出てきました。
「カアチャン、あのロウソクさんだよ、おいらを助けてくれたのは」
なんと、さっき湖でおぼれていたところ助けたモグラの子どもでした。
「ああ! あなたがあのときの。わたしがうっかり目を離してしまった隙きに大変なことになって・・・・・・本当になんとお礼をしたらいいか・・・。ああ、あなたはこれからどちらへゆくのですか?」
「あそこの、長くて大きなロウソクさんの立っている方に行きたいんですけど、なんでか透明なカベがあるみたいで、どうしてもあっちへ行けないんです」
「ああ、そんなことなら・・・・・・」

そういってかあちゃんモグラは、あたりの地面をちょっと探し回ると、
「ありました、ありました。この穴を進んでゆけば、あちらで灯っているロウソクさんの近くにでるのは、わけないはずよ。ついてきて」
そういってかあちゃんモグラは穴のなかへ。サイコロの形のロウソクもえいっと穴のなかへ転がりこみました。
なかはまっくらでしたが、後ろからもぐらの子どももついてきてくれているので、怖くありませんでした。
反対側の地面の上にでるときは、かあちゃんモグラと子どもモグラが、後ろからよいしょよいしょと押し上げてくれました。

まっくらな地面から出ると、目の前には、灯りのともったあのロウソクさんが立っていました。まぶしくて目をほそめます。
「なるほど。そういう手があったか。今までどのロウソクもこちらへ来れずに、引き返していったなぁ」
手をふりながら土のなかへもどってゆくモグラの親子を眺めながら、大きなロウソクはいいました。
「火をわけてあげようね」

サイコロの形のロウソクの芯が、ぼおっと燃えてあかりがともりました。最初はとても小さな火でしたが、やがていきおいのある、あかりになりました。

「ようし、じゃあ、わしが火をわけてもらったときの話をしようか・・・。この話は、誰にも話さないと約束してくれるね・・・?」

鳥が飛んでいったさきに、日が落ちていって、同じ空に月がしずかにおりています。
長さもちがう、形もちがう二つの炎が、わらうように、ゆらゆら、ゆらゆら。
その近くで、ボコボコボコッ?
――お? モグラの子どもが、また来たみたいです。

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