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短編童話『きょうは、何のにおい?』

ヨタ先生は、とってもタバコくさい。だから、トヤは苦手だ。

おとなたちは、タバコなんて吸わなければいいのに、ってずっと思っている。
そんなに煙が好きなら、お香を焚けばいいのに。と思っている
そんなことを考えながら、トヤは学校から家に帰る途中、神社に立っている大きな樹のまわりを三回まわって、樹の幹をポンポンとたたいた。

すると、次の日。ヨタ先生が教室に入ってくると、いつもとちがって、とてもいい匂いがした。
「先生なんかいいにおいするよ?これなに?」
と一番前の席に座っているトヤはきいた。
「あぁ、これかい? これはお香を焚いたんだけど、“びゃくだん”っていう種類なんだ。インドの方でよくとれるらしい。さぁ、社会科の授業をはじめようか」

次の日、先生は昨日とはまたちがった匂いをつれてきた。
「先生、きょうはなんの匂い?」
「あぁ、これはな、“りゅうのう”と言うんだ。書道でつかう墨のにおいがするだろう? この「りゅうのう」が書道用の墨には入っているそうなんだ。よし、じゃあ書道の時間をはじめよう」

また次の日、先生は、書道の墨とは全然ちがう匂いをまとっていた。
「先生、この匂いなあに?」
「あぁ、これはな。“けいひ”と言うんだ。シナモンって聞いたことあるかい? そうそう、給食のあげパンにたまにかかってるよね。お香にもなっているみたいなんだ。さあて、家庭科の授業をはじめよう」

またまた次の日、
「先生、この匂いなあに?」
「あぁ、これはな。“だいういきょう”と言うんだ。ちょっとスパイスっぽい香りだけれど、食欲をアップさせる効果もあるんだ。さあて、腹減ったな。給食にしようか!」

その半年後、
「先生、この匂いなあに?」
「ああ、これはな。“きっそうこん”と言うんだ。ちょっと臭いような匂いだけれど、夜よく眠れない人が、ぐっすり寝られると言われているんだ。よし、じゃあ、昼寝の授業をはじめよう」

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