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雷雨もたのしめちゃう、その心意気。

田んぼに水が張られて、田植えが終わると、雷の季節になります。

雷 = 稲妻

ということばは、よく考えてみると不思議ですね。
ネパールに行った時、現地で知り合った人に、「日本の農村地域は、どんな感じなの?」と訊かれたとき、「田んぼに稲が植えられたら、雷が鳴るんだ。漢字では稲の妻って書くんだよ」と説明すると、不思議そうな顔をしていました。

鳥取県智頭町で、天然菌によるパンとビールづくりを営んでいる渡邉格氏の『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(講談社、2013年)の本の中には、著者が自然栽培のある農家の方から、稲妻の由来について教わったくだりがあります。

「雷がドンと鳴ると、空気中の窒素が水に何トンと溶けるんだよ。空気中の窒素が雨に溶けこんで、それが土を肥やして米を実らせる。だから、『稲』の『妻』なんだ。昔の人は、科学なんて知らなかったけど、五感と経験で、自然のことをよく知ってたんだ」

雷にこんな作用があったのか! と文系人間の私にはびっくりでした。

渡邉格氏の説明によると、作物にとって大事な養分である窒素は、空気の約8割を占めているが、ほとんどの植物は、空気中の窒素を直接取りこむことができず、大気中から土に吸収された窒素分を、根っこから吸収するのだそうです。
大気中の窒素が土に吸収されるルートは、大きくふたつしかない、とも。

①雷の放電作用
②マメ科の植物(大豆やレンゲ等)の根っこに棲み着く菌の働きによるもの

※藤原辰史氏の『戦争と農業』(集英社インターナショナル、2017年)によると、空気中の窒素を、植物が吸収できるような窒素態であるアンモニアに変えてくれる微生物=空中窒素固定細菌がいるようです。代表格は根粒菌で、例えばレンゲの根にびっしりくっついている根粒菌が、耕起前の田んぼにいっぱいのアンモニアをもたらしてくれるので、以前は春先の田んぼにはレンゲの種がよく蒔かれていたようです。ちなみに植物が吸収する窒素は、植物や動物の死骸を微生物が分解することによっても得られるとのこと。

渡邉格氏は、

自然の状態や変化を嗅ぎとる感性があるからこそ、自然の力を借りることができる

とも書いています。そんな感性をできるだけ弱めていかずに、自然界と関わりながら生業をしている方も素敵だと思います。

今まではびくびくしながらやりすごしていた雷雨の日も、気分的にはちょっとたのしくいれるかもしれません。地上に降り注ぐ、窒素まじりの雨が、恵みをもたらしてくれるのを思いながら。

科学の知識で分かったような気になって、忘れ去られてしまった力がきっとある。

渡邉格氏のこんな指摘のように、「稲妻」と名付けた先人の確かな目と力に思いを馳せたいなぁと。そして雷雨の日もたのしく。

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