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Fender LEADシリーズに対するレゾナントピーク(Resonant Peak)の微調整

 今回は、世間的には決して高評価とは言えないLEADシリーズの音色について、コンデンサを用いて微調整を図りたいと思います。


きっかけ(元ネタ)

 きっかけと申しますか、元ネタは下の動画です。端的に言えば、ピックアップやコントロール部に電源を必要とする回路を持たないエレキギターの出力において、ホットとコールドの間に小さな値のコンデンサを配線(並列接続)することにより、ピックアップの持つレゾナントピークを(見かけ上)変更するというものです。興味深い内容であったため、簡易な実験装置を作成して追試を行いました。


コンデンサ(キャパシター)

 コンデンサ(キャパシター)とは、電気を蓄えたり放出したりする特性を持つ電子部品で、(パッシブピックアップ搭載の)エレキギターにおいては主にトーンコントロールを構成する部品として用いられます。

Low Cut Tone Control回路図
High Cut Tone Control回路図

 コンデンサによるトーンコントロール回路については、過去記事で何度か触れています。静電容量に比例して交流の通しやすさが変わる(静電容量が大きいほど低い周波数まで通しやすい)という特性を利用して、可変抵抗器と組み合わせ高い周波数の信号をアースに落とすハイカットトーン回路の搭載が一般的ですが、その逆のローカットトーン回路やインダクター(コイル)と組み合わせ、ある周波数帯域だけを減衰させるノッチフィルターを切り替えて使うバリトーンスイッチ回路なども幾つかの機種で採用されています。

画像向かって左上から下に向かって0.022μF、0.047(473)μF、0.1(104)μF
向かって右上から下へ0.05μF、0.1μF
画像向かって左から0.0003(301)μF、0.00068(681)μF、0.001(102)μF

 ハイカットトーンコントロール回路で採用されるコンデンサの値は0.1~0.022μFが多く、ローカットの場合には0.001μFなどがよく用いられているようですが、今回の微調整に用いるのは0.0003~0.001μF程度と比較的小さい値のものとなります

コンデンサの値の読み方

※文中では単位を統一したほうがわかりやすいと考え「μF」で表記を統一していますが、実際には0.001μF=10000pFと「pF」に単位が変更されることが多いようです。


レゾナントピーク

別記事ですでに述べたとおり、ピックアップの周波数特性に関係するレゾナントピークについては、ESP社のSeymour Duncan社製品に関するページに詳しく書かれています。抜粋すると「ピックアップ固有の特出した周波数帯ポイントのことを、レゾナントピークと呼びます。レゾナントピークが高ければ高いほど、ピックアップの音質は歯切れのよい明るいものになります。(8KHz前後まで。10KHzの辺りから、ピックアップはとてもフラットな音になり始めます)。」とのことです。

Resonant peak and Q factor
Millan, Mario. 2007. Pickups. California: CENTERSTREAM publishing, p93

 レゾナントピークについてはその周波数だけでなくQ値(Quality Factor)についても考慮する必要があります。Q値は、共振周波数(レゾナントピーク)における信号の「鋭さ」のことで、電子回路においては「(共振周波数での)信号の強さ/バンド幅」と定義されます。図では、比較を容易にするために、2つの架空のピックアップのピークが同じ周波数で発生するように示されています。

Millan, Mario. 2007. Pickups. California: CENTERSTREAM publishing, p93

 ピックアップの持つレゾナントピークは、エレキギターの回路中で接続される可変抵抗器(POT)によってピークの高さと幅が変わります。具体的には、抵抗値の減少に比例してピークの高さは減少し、幅は広がり、中心周波数も下がります。つまりQ値の減少が起こるわけです。
 実際、ほとんどのシングルコイルピックアップでは、高域が耳障りになるのを避けるために低目の値のPOTが用いられ、逆に、高出力のシングルコイルやハムバッカーでは、高域の減少を避けるべく高目の値のPOTが採用されることが多いと思われます。
 つまり、POTの値を変更することによるレゾナントピークの調整は可能ということになります。しかし、市販されているPOTの値にはバリエーションが少なく、微調整というのは困難そうですし、脱着を繰り返す手間も馬鹿になりません。
 それと比較して、前述の動画で示されているコンデンサの配線内追加という手段は、値の異なるコンデンサを数種類用意して、回路内に配線すればよく、非常に手軽だといえます。

 上の動画では6分30秒ぐらいからコンデンサを回路内で並列接続した場合の変化について、詳細が説明されています。前述の通りPOTの交換では抵抗値の減少に伴いQ値も減少しますが、コンデンサの接続ではQ値は大きく変わらないままにレゾナントピークの周波数が移動すると説明されています。また、コンデンサとPOTを組み合わせた場合、つまり最も多用されているハイカットトーンコントロールの場合では、レゾナントピークとQ値の両方が下がるようです。


実験装置

Stratocasterタイプに対するコンデンサの値

 元ネタの動画では、Stratocasterタイプのギターのピックアップセレクター部でピックアップごとに値の異なる(ネック・ミドルピックアップ:560pF=0.00056μF、ブリッジピックアップ:2.7nF=0.0027μF)コンデンサを並列に接続していますが、実験ではそこまでするのも面倒ですので、アウトプットされた信号に対し適当なコンデンサを簡単に並列接続して比較できるようにしてみました。

 実験のため新たに入手したのはブレッドボードと各種値のコンデンサセットです。

Multiple Line Selector Box / Custom Audio Japan

 CAJ社のラインセレクターは、ギターからの信号をアウトプットAのみと、アウトプットAとBの両方に出力するのを切り替えられるモードがあります。

 上の画像(向かって右)でLEDが点灯している場合、Inputからの入力はOUT Aのみに出力されますが、LED消灯時には(向かって左)Inputからの入力はOUT Aに加えOUT Bにも出力されます。

サンハヤト SAD-101 ニューブレッドボード:ブレッドボードの使い方 サンハヤト株式会社

 Bからのホットとコールドは、上のブレッドボード画像「電源ライン」に接続(ホット:赤、コールド:黒)しています。

画像向かって左:コンデンサあり
画像向かって右:コンデンサなし
回路模式図

 つまり、LED消灯状態でコンデンサをブレッドボードに挿せば、回路内でコンデンサを並列接続したことになるわけです。

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/225202/

 CAJ社のラインセレクターは生産完了品ですので、ABYモードを持つセレクターか、Yケーブルなどを利用すれば似た事は可能ですが、比較の際にコンデンサの有無をスイッチ一発で切り替えられるに越したことはないですね。

コンデンサセット

 元ネタ動画で示されていたコンデンサの数値を参考に、コンデンサセットを入手てみましたが、画像の通りのバリエーションで元ネタと同じ値のものは入っていませんでした。

 ただ、コンデンサは並列に接続すると値が足されるので画像のようにして(200pFと300pFを並列接続=500pF)、似た値を目指しつつ実験してみました!

実験結果

 所有するLEADシリーズの中で、音的にやや微妙さのある個体を対象に実験を行いました。

向かって左:Player LEAD2(Crimson Red Trans)、ボディー材:アルダー
向かって右:オリジナルLEAD2(Capri Orangeリフィニッシュ)、ボディー材:アッシュ

 上のLEAD2は、電装系はいずれもオリジナルLEAD2(ピックアップ:X-1)のもので、ネックはどちらもメイプル1ピースですが、ボディーはPlayer LEADがアルダーでオリジナルはアッシュです。
 X-1にはX-1の良さがあるのですが、耳に痛い高域が無いといえば嘘になります。

向かって左: オリジナルLEAD3(Black)、ボディー材:アルダー
向かって右:PlayerLEAD3(Black)、ボディー材:アッシュ

 黒い2本ですが、オリジナルLEAD3はピックアップにWide Range Humbuckerを搭載してTelecaster Deluxeのコスプレをしており、Player LEADのピックアップには、外見的にWide Range Humbuckerに似たShawbucker Tを搭載しています。
 別記事では「Wide Range Humbuckerとの比較では、Shawbucker Tの方が充実した中域であるように感じます。」と記しましたが、Wide Range Humbuckerのようにシングルコイルっぽい抜けの良さのまま若干パワフルな感じと比べると、抜けは今ひとつと感じます。

Boss BP-1W

 前述の実験装置で耳を頼りにコンデンサの値を決めていきます。小さすぎると殆ど変化を感じとれず、大きすぎると単にこもっただけの音になるため、元ネタ動画を参考に音に艶の出る感じの値を探すのですが、指標となる値があるとはいえ全て音は異なり、だんだん何がなんだかわからなくなってきました。そこで、所有のBoss社BP-1Wを接続し、お気に入りであるREモードにしたときの感じと傾向が近づくように値を決めることにしました。

コンデンサ追加(0.00068μF)

 実験した結果、Capri OrangeのオリジナルLEAD2には0.001μF、Crimson Red TransのPlayer LEAD2には0.00068μF、BlackのPlayer LEAD3には0.0003μFを採用することにしました。ピックアップが同じでもギターの木部に違いがあれば当然出音も異なりますが、それを好きな感じにしていく中で違う値を選択することになりました。また、ハムバッキングピックアップでは最も小さい値のものを選択することになりました。

終わりに

Stratocasterへの搭載(0.00068μF)

 今回の実験ですが、LEADシリーズのみならず色々なギターへの応用が可能です。上の画像ではStratocasterに搭載してみましたが、ピックガードすら外す必要がなく、気が変わればコンデンサを外すことも簡単なため、大変お気軽です。
 実験装置さえ用意できればコンデンサの値を変更するのも非常にお手軽で、音決めの判断が悩ましい点以外は全力でお勧めできます!

【了】

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