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【論文】マインドフルネス瞑想トレーニングが内受容的注意の皮質表象を変化させる


1. どんな論文か

この論文は、マインドフルネス瞑想トレーニング(mindfulness training,MT)が内受容的注意(interoceptive attention, IA)に関する脳の皮質表現をどのように変化させるかを調査したものです。
マインドフルネスの中でもマインドフルネス低減法(Mindfulness-Based Stress Reduction,MBSR)コースを修了した人々と待機リストにある未訓練のグループを比較し、瞑想の実践が内受容的注意を高め、脳の柔軟性や適応能力を引き起こすかどうかを検討しました。

マインドフルネス低減法(MBSR)とは?

ストトレスの軽減と全体的なウェルビーイングの向上を目的としたプログラムです。ジョン・カバット・ジン(Jon Kabat-Zinn)によって1979年に開発されましたプログラム。

内受容的注意(interoceptive attention, IA)とは

体内の感覚や内部の状態に注意を向けることを指す。
例)呼吸のリズムや感覚を感じ取る。心拍や脈拍の変化を意識する。空腹感や満腹感、消化の感覚を観察する。体の特定の部分の緊張やリラックスを感じる.

外受容的注意(exteroceptive attention, EA)とは

外部の環境や外部からの刺激に注意を向けることを指します。外受容器である視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚からの感覚情報に意識を集中させること
例)目の前にある物体の形や色に注意を向ける、周囲の音や音楽に集中する、触覚を通じて物体の感触を感じ取る、匂いや香りに注意を向ける、食べ物の味を味わう

2.研究対象と方法

研究対象

  • 参加者はマインドフルネス低減法(MBSR)プログラムに登録した成人で、ランダムにトレーニング群または未訓練群(未訓練の待機リスト者)に割り当てられました。

  • トレーニング群には20人(女性15人、男性5人)、未訓練群には16人(女性12人、男性4人)が含まれました。

方法

  • MBSRトレーニング: 8週間のプログラムで、週1回のグループセッションと、日々の自宅での瞑想とヨガの実践が含まれます。

  • 実験課題: fMRIデータ取得前に3つの実験課題、呼吸のモニタリング(「Breathe」)、認知抑制(「Suppress」)、および作業記憶の維持(「Maintain」)のトレーニングを受けました。

    • 呼吸課題(Breathe task):

      • 参加者は呼吸のすべての感覚側面(鼻、喉、胸、横隔膜)に注意を向けるよう指示されました。

      • 呼吸のリズムを意図的に変えず、目を開けたまま行います。

      • 注意が散漫になった場合は、静かに注意を呼吸に戻すよう求められました。

    • 認知抑制課題(Suppress task):

      • 参加者は中央に提示された単語を読みながら、認知的または感情的な反応を抑制し、心を空に保つよう指示されました。

    • 作業記憶の維持課題(Maintain task):

      • 参加者は視覚的に提示された単語のシーケンスで、単語が繰り返されるたびにキーを押すよう指示されました(「1-back」課題)。呼吸モニタリング(内受容的注意)、認知抑制、作業記憶の維持(外受容的注意)の3つの課題をfMRIスキャン中に実施。

  • データ収集: fMRIを用いて脳活動を測定し、実験課題(トレーニング群 vs 未訓練群)による脳の活動と機能的結合を比較。

図 背内側前頭前野(DMPFC)の活動

3.わかったこと

  • 呼吸タスク(Breathe)において、未訓練群のDMPFC(背内側前頭前野)の活動は基準よりも高くなっているのに対して、トレーニング群のDMPFCの活動は基準よりも低くなっています。これは、マインドフルネストレーニングがDMPFCの活動を抑制し、内受容的注意を効果的に行えるようにしている可能性があります。

  • また、トレーニング群は未訓練群と比較して逆に、島状部(体の感覚を感じる部分)の活動が増加した。

4.論文から得た学び

DMPFCとは?

脳におけるDMPFC(背内側前頭前野)の機能を生み出す根本的なメカニズムもまだ解明されていないが、DMPFCは、自己感覚の処理、社会的印象の統合、心の理論、道徳的判断、共感、意思決定、利他主義、恐怖と不安の情報処理、トップダウン運動皮質の抑制などの役割を果たすことが確認されている。DMPFCはまた、恐怖やストレスの状況下で情動反応や心拍数を調節または調整し、長期記憶に関与している。

なので、マインドフルネスのように内受容的注意がDMPFCとのネットワークを一時的に抑制することにより、自己感覚の習慣的なパターンからの変容、外部の刺激に対する注意の習慣を変えることを示唆していると思われた。

内受容的注意の実践

内受容的注意の実践であれば、もちろんマインドフルネス低減法は有効であるが、ボディースキャン、感情や心拍を観察すること、痛みを観察することや、「道」と付けられたあらゆる実践、武道、茶道、花道など、また動きを観察すること(フェルデンクライスやアレキサンダーテクニークなどのボディーワーク)も効果的であろう。
肝心なのは内受容的注意の実践だと感じたので DMPFCとのネットワークの再組織化は、何を行うか (How)というよりも、日常の所作を丁寧に行うことなのだと感じた。


<参考文献>

Farb, N. A., Segal, Z. V., & Anderson, A. K. (2013). Mindfulness meditation training alters cortical representations of interoceptive attention. Social Cognitive and Affective Neuroscience, 8(1), 15-26.


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