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■高齢社 緒形憲 ×FeelWorks前川孝雄 対談/82歳でも現役!元気だから働くのではなく働くから元気になる、 シニアに特化した人材派遣事業で働きがいを創出

※この記事は2016年に取材・制作したものを転載しています。

株式会社高齢社/東京ガスを退職した上田研二氏(現・高齢社最高顧問)が、2000年1月4日に創業したシニア専門の人材派遣会社。登録スタッフの募集条件は原則60歳以上75歳未満で、定年はない。請け負う業務は、ガス設備の保守・メンテナンスなどガス関連が多いが、最近では、マンションの管理人など、それ以外の領域にも幅が広がってきている。本社スタッフも嘱託で働くシニア層が中心だ。緒形憲社長は東京ガス、子会社社長を経て、65歳で定年退職後、高齢社に入社。2016年6月末から現職。2016年11月末現在、就労中・待機中の派遣社員数は789人、平均年齢は69.7歳、就労率は34.9%。本社スタッフは24人。働く人優先での経営を徹底するため、企業との資本関係はない。グループ会社に、同じくシニアが家事代行サービスを提供する株式会社かじワンがある。

■登録条件は60歳以上75歳未満で、定年なしの人材派遣会社


少子高齢化が進展し、働き手が不足するなか、シニア層の雇用は社会的にも大きなテーマになっている。各社で定年後の再雇用制度や定年延長などの導入も進んでいるが、今まで働いていた職場に限定しない「シニアが働く機会」をいかに創出していくかは難しい課題の一つ。例えば、地域のシルバー人材センターがその役割を担ってはいるが、紹介できる業務が限定的なこともあってか、シニア層の人口が増える一方で、会員数は決して順調に増えているわけではない。

シニア層への仕事のニーズは現実にはそれほど多くないのではないか? また、シニアの就労意欲も思っているほど高くはないのではないか? 実は、決してそんなことはない。それを証明するのが、登録スタッフの採用条件を「60歳以上75歳未満」とするシニア専門の人材派遣会社である高齢社だ。同社は2000年の創業以来、売上高、登録スタッフ数ともに増加を続け、2014年度には売上高が5億円を突破。以後もその水準で推移している。

創業者の上田研二氏が、東京ガス子会社の社長だった当時、新築マンションのガス機器点検などの仕事が突然舞い込むことが頻繁にあった。土日の依頼も多く、業者の確保にも苦労。社員が本業の合間に担当することも多かったという。

一方、東京ガスや関連会社をすでに定年退職していた上田氏の先輩たちは、話を聞くと暇をもてあましている様子。「それならばOBに手伝ってもらおう」と声を掛けたところ、「働いてもいいよ」という反応が多数返ってきた。そこで、もともと起業意欲をもっていた上田氏が、21世紀が初頭の2001年1月4日に立ち上げたのが、このユニークな社名の会社だった。

現場では人材が不足しているが、スポット的な業務のために新たに未経験の若手を採用し、教育するのではコストが見合わない。その点、知識・技術・経験を備えたOBであれば技術的な教育は不要なうえ、安心して任せられる。また、「毎日が日曜日」の定年退職者であれば、土日を含む急な仕事にも対応しやすい。シニアだからこそのニーズがしっかりとあったのだ。

■ガス業務以外にもシニア派遣のニーズがある仕事を開拓


シニアの就労意欲も実は高いと緒形憲社長は語る。

「定年退職して、最初の数カ月は悠々自適の生活も悪くないんです。しかし、気力も体力もあるのに何もすることがないと、次第に『また働きたい』という気持ちが高まってくる。一日中家にいると、男性の場合、奥さんの生活リズムを乱して煙たがられることも多いですしね(笑)。定年退職者は年金もありますから、お金が第一の目的ではありません。自分に合う仕事を選んで、マイペースで働くことができる派遣は、働きたいシニアのニーズにも合致しているのです」

だからこそ、シニアに適した仕事をいかに開拓するかということと、働きたい人と仕事のマッチングが重要になる。

東京ガスおよび関連会社の出身者が多い同社では、そのつながりをベースに、ガス関連を中心に業務を請け負い始めた。登録者も当初はOB中心だった。現在はそこを中心にしつつもガス関連以外に業務の幅を広げ、東京ガスOB以外の登録スタッフも増加。では、具体的にどんな業務が増えているのだろうか?

「おもしろいところでは、修理や宅配などに向かう車両の助手席に座っている仕事があります。駐車禁止対策として、車両で待機している人材が必要なんですよ。実際に運転をすることはあまりありませんし、移動中の話し相手にもなれる。体力も使いませんから、シニア向けの仕事といえますね。ほかでは、マンションの管理人も、真面目で信頼できる人間性が求められる仕事なので、意外と人手が不足していますね。さらに、改正フロン法の施行で、業務用エアコンや冷凍設備の定期点検が義務づけられました。経験のあるシニアが活躍できる領域ですから、当社としても積極的に営業をしています」

このように若手人材と競合しないニッチなニーズをうまく拾い上げることが、シニア層派遣事業を展開するうえでのポイントだという。助手席に座っているだけでの仕事は若手にとっては退屈かもしれないが、できるだけ体に無理のない仕事で社会とのかかわりを保ち続けたいと考えるシニアのニーズには合っている。

高齢者であることがウリになるケースもある。東京ガスでは電力自由化に伴い、電気販売の営業にも力を入れているが、ある店舗では、高齢社から派遣されている営業スタッフを「若い衆だけには任せられん! 電力侍四人衆」として、ポスターも作って売り出し中。現場でも指導的な役割を担い、頼りにされているという。

うまくニーズを掘り起こしてマッチングを図ればまだまだ仕事はあると緒形社長は言う。

■新入社員のつもりであいさつ!かつての部下にも“さん”付け!

仕事の紹介はあくまで働く人の都合優先だ。例えば、「通勤に時間をかけたくない」などの要望があれば、合致しない仕事を無理強いすることはしない。就労中の登録スタッフは、週3日程度の勤務で、簡単な業務が多く、月収は8~10万円程度がボリュームゾーン。高齢だけに体調を崩すリスクや急に親の介護が必要になることなどもあるので、2人で仕事を分担するワークシェアリングを採用するなど、マイペースで働き続けられる仕組みもしっかりと整えている。

また、派遣先では、行きがかり上、契約にない体力が必要な仕事を求められてしまう可能性もある。例えば、修理・点検の作業中などに「ちょっとここを押さえていて」と頼まれるようなケースだ。しかし、シニアにはちょっとした無理が体を壊す原因になるリスクもあるので、高齢社はそのような要望は断っているという。こういった点にも「働く人優先」の考え方が表れている。

さて、当コラムは「人を育てる」をテーマとしているが、シニア層に関しては、今から成長するということよりも「モチベーションを持って長く働き続ける」ことがより重要になる。一般論で言えば、定年前は正社員として重要なポストに就いていたシニア層も多いはずで、そのような場合、派遣社員という働き方で簡単な業務に従事すると、モチベーションを維持し続けられるのかという素朴な疑問が生じる。

実際、一般の企業で定年後の再雇用で働き続ける場合、上司気分が抜けず、年下の上司とうまくいかなくなるケースや、年収が大幅に下がり組織内の立場も変化したことですっかりリタイアした気持ちになってしまい、仕事に前向きになれなくなるケースもある。高齢社では、その点に関して特別な取り組みをしているのだろうか?

■最高齢スタッフは82歳!まだまだ可能性を秘めるシニアの労働力

「当社でも、かつての部下が派遣先の上長というケースはありますね。ですから、『新入社員のつもりであいさつは自分からする』『かつての部下でも“さん”付けで呼ぶ』『過去の職位の話や成功談(自慢話)はしない』といったことは、就労時のお願い事項として登録スタッフのみなさんには伝えています。意識して取り組んでいることといえばそれくらいですね。もともと『働きたい』と思って登録してきた方々ですから、やる気を持って働き続けることは難しいことではないんです」

【前川孝雄の取材後記】

人生100年時代。40代から「適材適所」の場をつかみ取る

「自己分析」の習慣を


 今回の高齢社の取材を通して感じたことは「適材適所」の重要性だ。人は、自分が求められている場で、自分の強みや持ち味が活かせる仕事を得られれば、働きがいが高まる。そこに年齢は関係ない。

 取材前は、高齢社ではシニア層の活躍に向けて細やかなモチベーションアップのための取り組みを続けているのではないかと先入観を持っていたが、そうではなかった。働く人の都合や希望を優先して、ふさわしい場と仕事を提供する。根本的にはそれに尽きるのである。

 もし、定年後再雇用などでシニア層を抱える企業がマネジメント上の問題を抱えているとしたら、その要因は、待遇面や条件面の変更と説明に腐心する一方で、「適材適所」を軽視していることにあるのかもしれない。

 一方で「適材適所」をつかみ取るためには、働く個人側にはキャリア自律のための「自己分析」が欠かせない。しかし長く組織の中で働き続けながら、この習慣を持つことは容易ではない。

40年以上働き続けてきた人たちにとって、定年退職で仕事を離れることは心理的にもキャリアショックが大きいが、だからこそ気持ちをリセットする機会にもなるものだ。ただでさえ、人生100年といわれるほど長寿化が進む現代。60歳や65歳で定年退職するとしても、まだ20年以上働くことが視野に入ってきている。ベストセラー『LIFE SHIFT』でロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授も指摘しているが、シニア層の働き方を考えるにあたり、同じ組織の中で過去の延長で働き続けることが果たしていいことなのかどうか。これも改めて考えさせられた点である。

 この気持ちのリセットは、シニアにとって市場価値を意識した「自己分析」のチャンスにもなっている。「今の自分がどのように社会の役に立てるだろうか」と問い直す機会は、組織の中で受け身のままでキャリアを重ねてしまうと持ちにくい。組織内のポジションや社内のみで通用する経験値がすべてになってしまい、それが自分の市場価値だと錯覚してしまうからだ。しかし、いったん外に出れば、過去のポジションなど役に立たなくなってしまうことのほうが多い。実際そこが働き続けるうえでネックになることもよくある。

定年後も働き続ける時代だからこそ、定年後を見据えた、できるだけ早い段階からの「自己分析」が求められている。今の30代くらいまでの世代は、就活での必要性から「自己分析」に慣れ親しんできた場合が多い。しかし、会社に滅私奉公することを是としてきた40代以降の世代、特に社内で業務が完結しがちな大企業勤務者はこれができていない場合が多い。40代くらいからは、節目節目で社外の視点から見た「自己分析」をすることをお薦めしたい。

 高齢社の事業は、今後日本がシニア層の雇用を拡大していく中での一つの指針を示すものだが、この動きを国としてバックアップするには、現状の画一的な労働法制の見直しも必要になってくるだろう。取材中に緒形社長がおっしゃっていたことだが、週3日勤務のシニアに有給休暇が必要なのか、すでに年金受給者である人たちに若手と同様の社会保障制度を当て嵌めることが適切なのかといった疑問は確かに一理ある。

もちろん守られるべきものは守られるべきだが、働く人の多様化に合わせて法制度も多様化するのが自然だ。現状の法制度に、シニア層の活躍に前向きな企業の足を引っ張る面があるのなら、改革が求められるだろう。

構成/伊藤敬太郎

すべては、日本の上司を元気にするために。

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