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「自分で決める」と、自由になる

元AV女優をされていた方と小説を勉強していたことがある。

「なにかを背負っている」

そんな覚悟と緊張感を漂わせながら、彼女が初めて教室にやってきた日のことは今でも覚えている。

当時一緒に勉強していたのは会社員や弁護士、医師やカメラマン、声優や俳優、社長から無職まで、いろんな人が集まっていた。

わたし達が目指すのは面白くて評価される作品を書くこと。

「あの作品を書いた◯◯」として覚えられるから、肩書きなんか関係ない。

当時のわたしは年々増えていく病名や病気を皮肉と愛を込めてコメディとして書いたり、恋愛や婚活系のエンタメ小説を書いていた。

それに比べ、彼女の描く作品は性ビジネスを舞台にした純文学。
官能小説家、そして元AV女優として有名なOGの方とも仲が良かったので、彼女が元AV女優だと知っても驚かなかった。

話してみたいという気持ちはずっとあった。
多分、彼女が教室に入ってきた時から。

でも、なんとなく近寄れなかった。

文章が上手くなるためには、当たり前だけど書き続ける必要がある。
下手くそでも、こき下ろされても、なんでもいい。
とにかく書かなくては何も始まらない。

プロットを練り込み、文章としてストーリーを肉付けし、何度も何度も推敲を繰り返す。そんな地味な作業の中で読者を楽しませつつ自分を表現するためには言葉を磨き、人としても成長する必要があることを学んだ。

みんなプロを目指しているから、文章が上手くて当たり前。

それ以上の覚悟や何かを持っていないと、次に進めない。

自分の内から出てきた言葉は人の心を掴むけど、カッコつけて書いた小手先だけの言葉の薄っぺらさに、自分自身が何度も何度も嫌になった。

隠していたい自分の内側を認め、それを文章として可視化し、仲間の前で「プロ」に評価され、ジャッジされる。
裸になるより怖かった。

自分を剥き出して書いた作品を否定されることは、自分を否定されるみたいに傷つくから、毎回講評の日は死刑台に立つような心境だった。

だから、臆病なわたしは本当に書きたいことをずっと書けずにいた。

でも、落ちるところまで徹底的に自分を落とした時、急にすべてがどうでもよく、なにも怖くなくなった時思った。

生きているうちに、本当に書きたいものを書いてから死のう。

そう誓ったわたしは、性をテーマに小説を書くことにした。

新人賞のためでもなく、有名出版社や編集者さんに評価されるためでもなく、ただ、自分のために。本当に書きたいことを書く。

そう覚悟を決めた。

でも、わたしが性のなにを知っているというのだろう。

経験豊富なワケでもなく、知識もない。
むしろ性に関して、思い出したくないことばかり。

わたしが書きたいのはエロではない。
ただ、生きずらさを探っていたら、性ってものを無視できなくなった。そのことを純粋に書きたいだけだった。

でも「性をテーマに小説を書こうと思っている」と言った途端、周囲の目の色が変わる。

わたしが言いたいことは、生きるってことなのに。

そこで、わたしは元AV女優の彼女に思い切って話しかけてみることにした。

香水の良い香り。
きめ細かい肌。
指先からつま先まで、隙のない美への追求。

テンパっていた。
舞い上がってもいたし、緊張もしていた。

彼女を前にした途端、隠していた自分の汚い部分にスポットライトが当てられたみたいで恥ずかしくって、照れちゃって、申し訳なくなって、色んな感情がグワングワン吹き出した。

わたしは彼女が生業としている性のことを、なにも知らない。
そして、性のことを汚い、ヤマシイとさえ思っている。
それなのに、性をテーマにした小説を書こうとしている自分が酷くズルく、嫌な人間に思えた。

なにも知らない。
だからこそ、知りたい。

そんな好奇心と羨望とヤマシサと彼女の美しさを前に、わたしは自分自身がどんどん嫌いになった。

偽善者。


その一言に尽きる自分が、ただただ恥ずかしかった。

そんな感情を悟られたくなくて、作り笑顔で話すわたし。
きっと彼女にはすべて見抜かれていたんだと思う。

「今、女性の性をテーマに小説を書いているんだ」

以前お付き合いしていた男性がポルノ依存症だったことから、男性にとって、そして女性にとっての性をもう一度考え直していると、彼女に打ち明けた。

ポルノ依存症とは、日常生活に支障が出るほどポルノに依存している状態を指す。

わたしの元恋人はAVを見て日々している行為が、生身の人間、つまり、わたしではできなかった。


裸になって、抱き合う。


そんなシンプルな行為なのに、彼は彼自身でいることを自分に許していなかったし、わたしも体だけ裸になっただけ。
性を男性任せにしているクセに、まったく、誰にも、なんにも許しちゃいなかった。

わたしは、彼女に許されたかったんだと思う。
知っても欲しかった。
わたしの身におきた、性のこと。

こんなわたしが性について書こうと、表現しようとしていること。

彼女はAV女優として立派に仕事してきたってだけ。
わたしの身に起きたことは、彼女のせいだなんて、もちろん思っていない。
彼女を責めたかったワケでもない。

でも、今思えば、いきなり話しかけて色々求めてしまったこと、反省している。

それなのに、彼女はわたしの話を大切に一つ一つ汲み取り、聞いてくれた。話してくれた。
本当のセックスがなにか、AV女優として表現しきれなかったこと。勘違いさせていることについて。

彼女と話しているうちに、とても柔らかくてフワフワした綺麗で純粋なものに包み込まれ、わたしの内にあった澱みが溶けて消えていった。

わたしがもし男で、願いが叶うのであれば、彼女と初体験したい。
もしそれが出来ていたら、わたしは生涯、性を、自分を否定することは、なかっただろうな。

彼女と話し終え放心状態になったわたしは、イった後みたいな頭でぼんやり、そんなことを考えた。

今思うと、わたしは会話を通して彼女に抱かれていたのかもしれない。


その後、彼女がセックスとコミュニケーションに関する本を出版したことを知って、すぐ購入して読んだ。

”AV女優として、ソープ嬢としてさまざまなセックスを経験してきた立場から、男女がともに本当に気持ちいいセックスをするための秘訣をお伝えすることで、その贖罪を果たしたい”

カドブン https://kadobun.jp/feature/readings/460.html
「ヒアリングセックス」著者:長谷川瞳。出版社KADOKAWA

感想を書いたらキリがないので割愛する。けれど、彼女の経験や想いが強く伝わってくる文章に身体の奥が熱くなった。「生きてる!」と叫びたくなった。

「抱かれる」立場から「抱く」存在へ。

わたしも彼女みたいに自由になりたいと思った。

その後、わたしは小説を書き進めるにあたり日本や世界で起こる性に関するニュースや事件に耳を傾け、その背景にある文化や宗教、人間の心理などについて学び続けた。

AVや日本の性産業に関して否定も肯定もする気はない。
ただ、性教育やコミュニケーションを重要視してこなかった日本において、それらがいかに影響力を及ぼしてきたか。
そのことを無視することは出来ない。

性産業で働く女性たちが被害者になっていることも沢山知った。
被害者がいるってことは、加害者も生まれてしまう。

性のカタチは人それぞれで、どんなものがあってもいいと頭ではわかっている。

でも、自分で自分のことを嫌いになったり、傷つけるために性を利用して欲しくないと言わせて欲しい。

だって、性はまったく、まんま、あなた自身のことじゃないか。

そんな思いから、性に対して前向きで楽観的。最高にキュートで魅力的なAV女優さんのキャラクターを小説の中に登場させようと思った。

そして生まれたのがAV女優の”ルナちゃん”というキャラクターだった。

ルナちゃんは自分に反応しないポルノ依存症の恋人を持つ主人公の千春に問う。

「千春さんはどうしたい? どうされたいの?」

誰かではなく、自分の人生を生きるために。
どんな人生を生きたいのか、自分自身でわかっている必要がある。

それは、性のことも同じ。


わたしの小説や発信を卑猥だと捉える方もいると思う。

でも、真向から性に向き合うルナちゃん、そして千春さんを通し、心と身体、そして性や人生について考える誰かのキッカケになったら嬉しいです。


◯小説
Feeling good ever! 〜お相手はポルノ依存症。第14話まで順次無料公開しています。▼


◯ラジオ
Say,セイ性!ちゃんねる▼

長谷川瞳さんの書籍、ヒアリングセックスもぜひ読んでみて欲しい。
生業として性と向き合ってきた長谷川さんにしか書けないコミュニケーションを重視した実践的な内容。グラビアも綺麗でした。


【仲間募集!】


おいおい、お前ら!!
人の曝け出しバンジー読んで、ウズウズしてきただろう??

思う、考える、感じる、性、ジェンダーのこと。
一人一人の行動で、世界、そして自分自身が変わるから。

「性」「ジェンダー」を自分なりの表現で、ブチかませ!!


みんなでSAY,セイ,性!!

もし、わたしと同じように性、ジェンダー、女らしさや男らしさについてモヤモヤしている方がいたら、ぜひわたしと繋がりましょう^^

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なにか一緒に出来たらいいな!


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「性、ジェンダーを通して自分を知る。世界を知る」をテーマに発信しています^^ 明るく、楽しく健康的に。 わたし達の性を語ろう〜✨