映画「メタモルフォーゼの縁側」とオタク時代の追憶
映画「メタモルフォーゼの縁側」を観てきた。
この映画の原作(漫画)を初めて知ったのは、新聞の書評欄。
まだ映画化の話が出ていない頃だったと思うが、以来ずっと気になっておりいつか読みたいと思っていた。
そして今回映画が公開されると知り、慌てて全巻セットを大人買い。
一晩で読破した私は、その週末にはスクリーンの前に座っていた。
登場人物が個性的なわけでもなく、何か事件が起こるわけでもないこの作品が多くの人に支持されるのは、ストーリーというより作品全体に漂う素朴な雰囲気の魅力だろう。
映画では、時間の制約上ところどころ端折られていたのは仕方ないとして、その雰囲気は原作そのままに再現されていたように思う。
また原作では軽く読み流していたのに、映画ではホロリと来るシーンが幾つもあった。
これはひとえに宮本信子さんと芦田愛菜ちゃん(既にちゃん付けするのが失礼な年齢だが)の表現力のなせる技だろう。
実は私は、映画を観るまでは「宮本信子さんの雪さんはハマり役だとして、うららが芦田愛菜ちゃんってどうよ?」と思っていた。(私のうららの配役イメージは、デビューした頃の斉藤由貴さん。漫研出身だし。)
ところが芦田うららには良い意味で見事に裏切られた。
天才子役と言われ続け育ちも良いと評判の彼女だが、芦田うららはあのボサッとした腐女子うららそのもの。
そう思わせてくれる渾身の演技だった。
ちなみに原作者の鶴谷香央理さんのインタビュー記事で、心に刺さった言葉がある。
記憶が曖昧なのでだいたいこんな内容だったかと思うが、私もつい細かく書いてしまうタイプなので、この言葉には少し勇気を貰った。
もっとも漫画と文章とは違うし、私の場合は単に冗長な文しか書けないだけであるが(汗)。
ところで、この作品をきっかけに思い出したことがある。
ほとんど公言したことのない黒歴史だが、私も学生時代は、主人公うららと同じ隠れオタクだったのだ。
私はどちらかというとマンガよりアニメ寄りのオタクだったが、うららの気持ちは痛いほどよく分かる。
大人が漫画を読むことを容認され始めた80年代、依然としてアニメファンには市民権などなく、特に女子のアニメ好きは恥ずべき存在だった。
当時はSNSなども無いから、私もうららと同じように秘めた趣味を語り合える友人はおらず、無論親にも話せなかった。
中学や高校には、オタク趣味を全く隠さないような堂々オタク(真性オタク?)もいるにはいた。
しかし根っから気にしぃで、好きなものほど人に言えないタイプの私である。
堂々オタクらを羨ましく思う反面、彼女らとは違うと思いたい妙なプライドのようなものがあった。(娘のトラが言うには、そういった心理状態を最近のオタク用語で"同担拒否"と言うらしい。)
それでも都会での大学生活が始まると、田舎にいた時よりもオタク趣味はより身近なものとなった。
まだ会場が晴海だった頃のコミケにはたびたび行ったし、黎明期のコミティアにも行った。(この映画内でうらら達が行ったコミティアは300サークルも参加していたが、私が行った当時は100も無かったと思う。)
大学にも趣味を分かち合える友達はいなかったから、アニメ雑誌か何かの文通コーナーで「一緒にコミケ行ってくれる人募集」と書いている人に手紙を書き、初対面で一緒に行っていた。(ほんと平和な時代だった)
いわゆるやおい(今で言うBLのこと。既に死語?)というカテゴリを知ったのもちょうどその頃。
その世界がいつから存在していたのかは知らないが、あの頃の女子が好むアニメの同人誌のほとんどは、BLで描かれた二次創作、つまりパロディ作品ばかりだったのだ。
当時はまだ著作権が騒がれていなかったから、中には二次創作でプロ並みに稼ぐような作家さんもいた。(プロで活動しつつ同人を続けている人もいた。)
私は事情がよく分からないまま、他のファンの見よう見まねで人気サークルの列に並び、同人誌を買い漁った。
つまり好きなアニメ繋がりだったとはいえ、私も腐女子に片足を突っ込んでいたのである。
私がうららと違うのは、自ら漫画を描こうとまでは思わなかったこと。(でもなぜか画材やスクリーントーンは持っていた。)
通っていた大学にはプロデビューしたOBもいるという漫研があったが、漫研というと画力に自信のある堂々オタクが集うところといったイメージだったから(実際そうなのだろう)、絵心のない読み専オタクの私には敷居が高かった。
私は、推しキャラを模写したくなるようなクリエイティブなオタクではなかったのだ。
さて地元にUターン就職をしてしばらくは、私のアニメ好きはまだ収まらなかった。
巷にはバブルの余韻が残り、友人らはディスコやねるとんパーティーへと繰り出す中、ずっとオタクのままだったらどうしようという結構深刻な不安がいつも頭の片隅にあったのを覚えている。(そういった部分からも、自分が真性オタクではなかったことが伺える。)
しかしそれは杞憂だった。
私は仕事が忙しくなるにつれ最新のアニメ事情に疎くなり、惰性で買い続けていたアニメ雑誌は1ページも読まないまま積み上げられていった。
気づけば、ツキが落ちたようにアニメにも漫画にも興味を失った自分がいたのだ。
それは大人への脱皮だったのか、好奇心が萎えただけなのかはわからない。
私はそれまで大切に保管していたアニメ雑誌や苦労して買い集めた同人誌のほとんどを、惜しげもなくヤフオクで売り払ったのだった。(中には1冊5千円で売れた同人誌もあった。)
そんなわけで、この作品のおかげで久々にノスタルジーに浸らせてもらい、40年ぶりにコミケに行ってみたくなった。
特に推しの作家はいないけれど、うららと雪さんが好きだったあの空間で自分の中のサブカル趣味をもう一度刺激されてみたい。
そんな気持ちになる映画だった。
追伸)それにしても芦田愛菜ちゃん、若い頃の井上真央さんにそっくり。
演技まで似ている気がするのは私だけ??
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