スーパーコンシェルジュ 6-②
②
休憩の後は、さっきのこともあって、食品フロアをちょっと見て回った。見て回った所で、私に「ああしなさい、こうしなさい」っていう権限があるわけじゃないから、ホント見て回るだけ、なんだけど。
で、気付いた。今回のレシピ、ちゃんと書いてある通りに作ろうかと思ったら、スパイスが二つ、売り場にない。一般食品、かー。よりにもよって、古巣だよ。さっきのこともあるから、やっぱり黙っててはだめだよね、と思いつつ、食品事務所へと向かう。
「チーフ、これって、定番にない商品ですよね? 発注されました?」
チーフは最初、きょとんとした顔をした。で、叱られた子どものような、いたずらがみつかった子供のような、そんな顔。
「えっと……発注してない」
「じゃないかと思ったんですよ」
さっき、偉そうに言ってたけど、自分がやってた売場だから、ちょっと甘いのかな。怒りの感情と言うより、残念と言うか、そうだよね、というか、あきらめたような、と言うか。
「最少ロットだけでも入れた方がいいんじゃないですか?」
「あぁ、うん、そうなんだけど、ね……」
あくまで歯切れの悪いチーフ。
「あれば一個でも二個でも売れるかも知れないけど、なかったらゼロですよ?」
「そうだねぇ」
偉そうに言う資格なんてない。だってそこに出ているスパイスは私が担当者だった時にもたしか日付がだめになって捨てたことがあるものだったから。スパイスなんて、日持ちがするからそんなに賞味期限が迫っちゃうってことはない。でも、それは確かに賞味期限がきちゃって、処分した記憶があるものだった。
「ま、気持ちは分かるんですけど」
「でしょ?」
「でもやっぱり、こうやって載ってる以上は、割り切って発注しないといけないと思うんですよ」
「かなぁ」
これは納得してない顔だな、と分かる。付き合い長いもん。説得するのをあきらめた。それに実際、そういうスパイスをチラシに載せられて「迷惑」って思ってるってのがなんとなく透けて見えるし。
その気持ちもなんとなく分かる。さっきの水産の人は極端だったし、ついでに余計なことまで言うからこっちもムカっときたわけだけど、根っこは同じなのかなって思う。
新しいことにはリスクだってある。
お客さんが「面白い」「やってみよう」と思ってくれるから買ってくれるわけであって、それを思わせられなければ「へんなの」「おいしいのかな」で終わりだし。
ましてやスパイスって結構高いし。他のものにどう使えるのか分からなかったら、あれを一本買うって結構勇気のいることだと思う。
うちの台所にある、埃を被ったスパイスたちをいくつか思い浮かべて、小さくため息をついた。
サービスカウンターに帰って、お客様から遠い方のカウンターの上で、チラシを広げる。ちょうどお客様の少ない時間帯で、他のサービスカウンターのメンバーも「どうしたの?」とか声を掛けてくれた。
「これって、チーフが発注してなくて」
チラシを見ながらかいつまんで説明する。
「あるある。そういうことって」
顔を見合わせて笑ってる。
「そうなんですか?」
「うん、佐藤さんが来てくれてから、基本的にご案内って佐藤さんが中心じゃない? でも来てくれる前とか、いない時とかに聞かれたりすることはあるよ」
「ない、ってことはめったにないけど『わかりづらっ』って思うことはあるよね」
「あるある」
私がご案内するときにそういう風に思ったことはなかったんだけど、サービスカウンターのメンバーからしたら分かりづらいとか、そういうことってあったんだ。灯台下暗し、な気分。
「魚とかもだけど、農産とかもあるよね」
「あるある」
あるあるだらけ。ご案内だけじゃなくて、彼女たちが買い物するときにもやっぱり「わかりづらいな」と思うことって、結構あるみたいだ。
「チラシとか、レシピ見て、おいしそうって思っても、作る時にやけにハードル高いのもあったりするしね」
サービスカウンターの横には、レシピカードの置き場もある。
カードの補充とか週に一回の入替はサービスカウンターのメンバーの仕事だから、きゃっきゃ言いながらやってて、おいしそうなのは話題にもなってるのはもちろん知ってた。
お客様がいないのをいいことに、もうちょっと話を聞かせてもらう。今までの中で具体的に作ってみて「あれ?」と思ったもの。逆に良かったと思ったもの。
材料がこまごまとしていて、その分華やかできれいなものは、ぱっと見てレシピカードには目が行くのだけれど、意外に全部の材料(生鮮品まで含めて)がなかなかそろわないとか(もちろん一から百まで買い揃えればいいんだけれど、冷蔵庫の在庫なんかもあるから、一概にそういうわけにも行かない)、外国の料理をベースにしたようなものは、食品でも意外に見つけられなくて手こずったり、分量通りに作ってもイマイチ「これでよし」なのかどうかが分かりづらいとか。
意外にそういう所はみんな一緒だなと思う。
話してみて、私だけだと思っていたことが、結構誰も感じていることなんだって分かった。そうか、これもお客様の声なんだ、って改めて気付く。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。お役に立ちましたら幸いです。 *家飲みを、もっと美味しく簡単に*