スーパーコンシェルジュ 6-③

 ③
 メニューを決めるのは本部の販売企画だって聞いた。とりあえず、今は直接上司にもなってるわけだし、ちょっと相談してみよう、そう思う。
 3階の事務所に上がった。普段そんなに親しくしているわけじゃない。時々様子を見に来てくれたり、声を掛けてくれたり、業務的なことで指示があったり、週に一度のミーティングとかも、とくに突っ込んだ話をするわけじゃないから、ちょっとだけハードル高いけど……
 「嶺谷マネージャー、ちょっと今、いいですか?」
 
 ちょうど机におられて、そんなにせわしない雰囲気でもなかったから、声を掛けやすかった。
 「はい? 佐藤さん? どうしました?」
 びっくりした顔。そうだろうな~ 今までこんな風に私から来たことも、話しかけたこともない。別にわざと避けてたとかじゃなくて、普通に用がなかったというか、雑用的なことだったら芹沢さんとか、場合によっては吉野チーフが全部請け負ってくれてたから、なんだけど。
 
 営業事務所の片隅、時々チラシの制作会社の人と嶺谷マネージャーとか芹沢さんが打ち合わせをしている簡単な商談スペースみたいなところがある。そこに向かいあって腰かけた。
 心なしか、嶺谷マネージャーは険しい顔をしてる。ま、片手にチラシもって、今までそんなに親しく話をしたこともない私が来てるんだから、何かあったんだろうと思うのが普通だろうし。
 
 「いや、その……大した話じゃないんだけど、聞いてみたいというか、そういうことがありまして」
 慌てて片手に持っていたチラシを丁寧に持ち直して、そっと目の前に差し出す。
 「はい?」
 「このレシピとかって、前にお伺いした時に、販売企画の管轄って聞いたと思うんです」
 「そうですね」
 「で、……私が知らないだけかもなんですけど、こういうレシピの中身って、事前にバイヤーとかそういう人には行くものなんでしょうか?」
 「あー、えっと、行くときもあれば、行かない時も……何かありました?」
 
 水産の人の話はしなかった。ただ、今回の商品はすみっこに追いやられていたこと。気になって一般食品を見てみたら、定番扱いのないスパイスがあって、なおかつそれを発注してないということ。
 食品の人が悪者にならないように、言葉を選びながら説明する。
 って言っても、そう言えばそのことが「どれだけ悪い」ことなのか、私はそんなに分からないんだけど。だからあくまでも「このチラシを見て買いに来たお客さまの気持ち」を代弁する感じで。通じるといいな。
 
 「あぁ、そういうことってやっぱり、あるのかな」
 話し終わった時、嶺谷マネージャーはちょっとさびしそうな顔をしていた。
 「私も全商品が全部ちゃんと売場にあるか、なんていう点検はしないからね、言ってもらってありがたいわ」
 「そう、ですよね」
 確かに点検なんて、しないと言えばしないのかも。そう言えば各マネージャーはどうなんだろう?
 
 「芹沢とかが時々『メンテしろーっ』ってぼやいてるから、そういうこともあるのかってのが正直な所だわね」
 「そうなんですか」
 芹沢さんや他のスタッフの方が、案外そういう所はこまめに見てるのかも知れない。確かに一般食品の担当だった時にもエンドを見てる姿をなんとなく覚えていた。
 
 「そうよね、たしかに提案型のメニューっていうのは温度差はあるでしょうね。店によっても、チーフやマネージャーによっても」
 「温度差、ですか」
 「若い店長やマネージャーのお店は、本社の会議でもよく、そういう売り場の成功事例で写真とか出て来るのよ?」
 「写真? ですか」
 「そう、本社の販売企画の担当者とかも、お店行っていいなと思ったら写真も撮るし、それが会議で資料として出てきたりもする。そうすると、お店によって本当に雰囲気違ったりする。びっくりするよ」
 そういうものなのかも知れない。それこそ感性だもんね。
 「まぁでも、メニューのレベルというのは、実際の所なんとなくしか決められていないっていうのはあるかもね。次の会議で、少なくともこういう事例と意見があります、というのは伝えるようにします」
 「お願いします」
 
 実際、お客様のレベルなんて、ホント、分からないんだよね……もしかして野分店ではあまり売れない、そしてチーフも発注を躊躇しちゃうあのスパイスも、店によってはそれなりに売れるのかも知れないし……
 そう考えると、ちょっと怖い。野分店は本部に近くて、それなりに都会で、それなりに大型店で、だからつい自分たちのことをスタンダードなんだって思っている自分に気付く。
 発言一つで大事になる、なんてことはないのかも知れないけれど、私の意見が一意見としてではなく、コンシェルジュとしての、お客様の代弁や、パートの代弁だと取られちゃったら怖いな。そんなことを思った。

 でも私は私として、私なりに感じたこと、お客様や従業員から聞いたことを伝えていくしかないし。まだまだ試行錯誤は続きそうだなぁ。

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ここまで読んでいただき、ありがとうございました。お役に立ちましたら幸いです。 *家飲みを、もっと美味しく簡単に*