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[PoleStar2] ひとりぼっち王国-04

 リチャード・スウィフトが太陽系の小惑星7919番に来てから、今日で625年と3ヶ月になる。


 彼は長い間過ごした小惑星プライムに別れを告げているところだった。もう少しで、彼のドールや機材を回収しに宇宙船がやってくる。見慣れた視界いっぱいの星空を眺めてたリチャードは、感情タグを見て自分が感傷に浸っていることに気がついた。


 もうすぐ彼は小惑星プライムを離れて、太陽レンズ望遠鏡へ向かう。太陽レンズ望遠鏡がおうし座の方向を向くのに、あと11年にまで迫っていた。彼はおうし座T星Saの観察に立ち会う事になっている。

 これまでの間に、太陽レンズ望遠鏡のチームと、地球の天文学者たちにもおうし座T星Saを観察してもらっていた。その結果、例の人工物らしきものによる減光は46年周期で確認されていた。さらに、おうし座T星には2つの惑星があることが判明するなど、観察は少しずつ進んでいた。
 そうして長年の観察の結果、太陽レンズ望遠鏡がおうし座の方向に向く時期と、おうし座T星Saの例の減光時期が合う最初のタイミングが今回だった。この機会を逃したら次は1000年以上待たなくてはならない。

 リチャードは自身の感情タグを見て、自分が緊張と期待をしていることを実感していた。彼がスペクターになってからずいぶん時間がたった。ベーシックとして過ごした時間より、スペクターとしての生活の方が長い今となっては、こうして自分の感情を確認するのに感情タグを見るのは当たり前のことになっている。
 太陽レンズ望遠鏡はどんなところなのだろう。リチャードの知識では、そこは巨大な宇宙ステーションのようになっていて、数十人のスペクターが滞在しているという程度しかない。新しい環境に移動することに対して緊張はしていたものの、600年以上小惑星で過ごしていた彼は、そろそろ新しい環境に移動してもいいかもしれないとも思えていた。

 彼の聴覚に突然、ザリザリとしたノイズが入る。直後にISSAの所持する宇宙船から、もうすぐ着陸すると音声通信が来た。リチャードはそれに了解の返事をすると、荷物をまとめたプライムの極点に立って空を見上げた。視界いっぱいの星が頭上の星を中心に回っているのが見える。もうここから見る景色は最後なのかもしれない。

 最初の音声通信が来てから3時間後、動く小さな点が見えた。彼を迎えに来た宇宙船だ。リチャードは新たな生活と、長年観察してきたおうし座T星への期待を膨らませてそれを見つめた。
 人類は、ようやく他の文明に出会うための最初の一歩を踏み出したばかりだ。

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短いですが、今回のお話はこれで終わりです。読んでいただきありがとうございましたm(__)m

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