病院で異人になった話

僕は初めて行く病院が苦手だ

今まであまたの病院に行ってきたが、そこに何か独自の論理があり、なじめることがない空間として自分の中に刷り込まれている
病院はまるで独自の強い信念をもっている鎖国空間であり、毎回異国の者として扱われているようなそわそわ感を味わうことになるからである

親睦を結べている行きつけの病院がある人に対してのうらやましさを感じながら、
毎回初めての病院に行くときは少しためらう

最近久しぶりに初めての病院に訪れる機会があった
ここのところやたらと痰が絡むため、行くか行かないかを1か月ほど迷ったが、ちょうど平日に休みがとれ時間が空いたので行ってみることにした

事前にGoogleマップで調べて病院を見つけた
病院が恐ろしいのはマップで外観を見たときはさも普通の国のよう顔をしているところである
あたかもどんな人でも優しく迎え入れますよ~というあたりさわりのない雰囲気を醸し出しておきながら、行ってみたら完全に鎖国でおかしな文化が栄華を極めていることがほとんどだ

何度も騙されてきたので、どうせ今回もそのパターンだろうと油断することなく、午後のすいてそうな時間帯に行ってみることにした

病院に入ってすぐ、受付で早速独自文化でかまされる

受付:「当院のご利用は初めてですか?」
自分:「はい」
受付:「インターネットでご予約いただいていますよね?」
自分:「い、いえ…」(当然意識がすごい…!)
受付:「当院は予約制になっているので次回以降予約しての来院をお願いいたします」
自分:「すみません…」
受付:「順番になったらお呼びしますので、待合室でお待ちください」
自分:(予約なしでも良いんかい)

早速独自論理の弱肉強食の世界である
そこにはお客様もしくは患者という概念はない、異国の蛮人として扱われたら最後、侍からはぶっきらぼうな対応に終始されてしまうのであった

もやもやしながら待合室に座り、それから3分もたたないうちに、やたらと71番の人が呼ばれているのが聞こえてきた
どうやら71番は自分のことを指しているらしい。先ほどの受付の侍が自分のことを厳しい目で見ていたのでようやく気付いた
気づかないうちに自分には番号が振られていたようだ
囚人番号のように患者を番号で管理するのか…さながら下田の牢獄か…とか思いながら、これ以上は怒られたくないので気持ち早足で診察室へと入る

そこにはきりっとした表情の40代ほどの男性のお医者さんがいた
痰が絡み始めた経緯について2,3質問をされたが、どの質問も回答の語尾を言い終わるか終わらないうちに次の質問が始まり、すぐに鼻の穴の中を内視鏡で見ることになった
どうやら先生、いや将軍にも予約をしていない上に自らの番号を把握していない不届き者というお触れはしっかりと届いているらしい

内視鏡で、生まれて初めて自分の鼻の穴の中を見た
将軍はためらいもなくぐいぐいと奥の方まで進んでいく
この速度は、医療的に必要なのか、異人だからなのかはわからなかったが、たしかに左の鼻の中が腫れている(鼻炎になっている)ことは分かった

ひとしきり見終わり、左が腫れているという説明をした後に、将軍から、ではCTスキャンもしておきますか?という提案があった
なぜCT!?と思ってしまったが、これ以上ご法度行為をしたくなかったためそれが表情に出ないように、平然と振舞いながら「は、はい」と返した

おそらくここには彼らなりの論理があるはずだが、その内訳は公開されることはない
ロジカル侍は自らの国の論理をすすんで公開することはないのである

別の侍に無機質なCT室に通されて、スキャンが完了した

結果のCT写真を一緒に見た先生は淡々と問題ないですね~という話をしてくださった

いくら異人とはいえ、流石にこのまま結果だけを受け取って帰るのは嫌だったので勇気を出して先生に問題ないと結論付けた論理を聞いてみた

将軍は思いのほかしっかりと対応してくれた
ある症状に対して軽症か重症か、原因は体質か急性かで判断しているという論理
医療は基本的には重症のリスクを確認する動きをとるため、今回はCTをとったという論理
そのCTで問題なかったため、今回は急性鼻炎という判断にするが、もしすぐ状態が変わらなかった場合は体質の可能性もあるためその検査もできるという論理
どれも異人にもわかるような、非常に納得できる論理だった
先ほどの応対は侍ならではの武骨さが勝っていただけだったようだと思い安心した
流石に将軍となる人物は器が違う

思いのほかすっきりした状態で出国できそうだなと思いながら会計に臨んだ

そこでその見立ての甘さを知った
受付:「今回は6500円になります」
結果ほぼ何もなかったですくらいの診察(15分もかかってない)に対してこの値段!?内訳は!?という思いが一気に訪れる

おそるおそる領収書を見ると、CTスキャン:200点という形で、各診断内容のところにそれぞれ点数がつけられているのが確認できた

この点数って何!?
100歩譲って点数ごとに単価が決まっているとして、どういう論理で診断ごとに点数をつけているのだ!?

行列の前を歩いたから刀で切りつけるというのと同じくらい、その論理が不透明すぎて高いのか安いのかも一切評価できないまま、なんとなく高そうという印象がぬぐえない6500円を払う義務を課された

CTに関する質問がなかったらもっと満足度が低い状態で同じ金額が課されていたと思うとぞっとした

そのうえ、支払いは現金のみであるというのである
予約制で回転を重視をしていた貴国の論理はどこへいかれたのでしょうか…
そこには武士道も何もあったものではない

ただ、その病院独自の論理が君臨しているのである

運悪く手元に現金をほとんど持ち合わせていなかったので、一旦近くの銀行に行き、お金をおろし再び病院に戻り支払いを完了し、ほうほうのていで病院を後にした

支払いの際に今回の診断に対する処方箋をもらったので病院の真横の薬局に行った

病院を出ることができたので少し気を緩めていた矢先、薬剤師がジェネリックにしますか?という謎の質問をしてきた

またしても独自論理か…!と思いつつ、ここでも勇気を出して
何が違うんですか?と論理を聞いてみることにした

薬剤師「安いかどうかです」

そんなわけないだろと思いながら、これ以上話してもしょうがないと思い、じゃあジェネリックで…と答え、薬を受け取り家に帰った


この日買った薬は使っていない

よく考えたら、おそらく自分は体質的な方の鼻炎で、今回の急性鼻炎に対する薬は効果がないと論理的に判断しているからだ

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