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海が大好きな癌末期の患者さんの海を見に行く1泊2日の旅行同行⑤

今回はホテル到着から就寝までを記します。

11/21 15:00
介護タクシーで移動中にAさんは体調を崩すことなく、無事に目的地のグランドプリンスホテル広島に到着しました。
介護タクシー乗車時は私は助手席に座って後部座席のAさんの観察してしました。奥さんはAさんの隣の席に座って、手を握って話しをしていました。Aさんは奥さんがそばにいないと寂しがると奥さんが教えてくださいました。
介護タクシーから降車して、ホテルのロビーでリクライニング車椅子から持参したAさんの車椅子に乗り換えました。まだ介助すれば立位は保持できました。そこで介護タクシーの運転手さんと別れてAさんと奥さんと私の3人になりました。ホテルのチェックインのため奥さんが受付カウンターに行かれました。その間Aさんを私が見守りしていました。少し疲れた様子でしたが受け答えははっきりしていました。
ほどなくしてホテルの玄関から少し離れた駐車場に車を止めた娘さん達が荷物を持って合流しました。娘さん達は「ついたねぇ父さん、クリスマスの飾り付けしてあるねぇ」と話しかけていました。ホテルのロビーはクリスマスの施しをしてありました。普段の生活とは別世界です。
私はAさんの疲労を考えてこのままホテルを散策するか、部屋に行くか聞いてみました。Aさんは部屋に行くと答えられたので部屋に向かうことにしました。チェックインをした奥さんからカードキーを受け取り、Aさんと娘さんと一緒に3人部屋のAさんの部屋に向かいました。他の2部屋は準備が済んで無かったので、まずはAさんだけ一足先に部屋に向かいました。
エレベーターの位置は昨日の下見で把握していたのでスムーズに移動が出来ました。

15階のお部屋からの海

前日の下見では部屋が満室で見せられる部屋がないという理由で、部屋の中までは確認させてもらえませんでした。
私はどんな部屋なのか気になっていました。15階でエレベーターを降りて部屋に到着しました。ドアを開けて部屋に入った瞬間、部屋の窓から快晴の瀬戸内海が目に映りました。車椅子を押して出来る限り窓側へAさんをお連れしました。Aさんは「最高!最高!嬉しいのぉ」と手を叩いて喜んで下さいました。娘さんも「うわぁ父さん良かったね、きれいに海が見えるよ」とAさんに話しかけて一緒に瀬戸内海を眺めていました。
私はAさんや娘さん達の喜ぶ姿に一安心しました。しかし、皆さんをここに連れて来るだけが私の役目ではありません。私は部屋のレイアウト、3つあるベッドの配置、酸素濃縮器の位置などを確認しました。出来るだけAさんが快適に、安心安全に過ごせるように、なにより目的の海が見て過ごせるように考えました。
幸い窓側に1つベッドがあったので、そのベッドをAさんが使うことにしました。そのならベッドに横になったまま海が見えるからです。
しばらく海を眺めているとAさんが横になりたいと言われたので車椅子からベッドへ移乗しました。介護用ベッドではなく普通のホテルのベッドに車椅子から移乗することは高さが低く意外に難しかったです。

ベッドに横になって海を眺めて

ベッドに横になり酸素をつけて大好きな海を眺めてAさんは「最高!最高!」と言われました。
その後チェックインを終えた奥さんもお部屋に来られ「父さん最高じゃねぇ、良かったねぇ」「この部屋ええね」と言われました。

自分の作った橋が見える?
 私も窓際に近づいて一緒に海を眺めてみました。快晴の瀬戸内海を船が往来しているのが見えました。その先には広島の街や橋が見えました。私は方角的に海田大橋かなと思い「あれは海田大橋ですかね?」とAさんに聞いてみました。すると、Aさんは「おーあれは海田大橋じゃ、ワシが作ったんよ」と言われました。奥さんも「そうそう海田大橋じゃねぇ、父さんあの時は大変じゃったよねぇ」とAさんに話しかけました。しばらくの間、思いがけずに夫婦の昔話が聞けました。
ホテルの部屋から念願だっな海が見えて、その先に若い頃に自分が建設に携わった橋が眺められるとは・・・。
 その後は家族の時間を過ごしていただくために私は部屋に戻りました。部屋は同じフロアを希望していましたが、偶然にも部屋は隣の部屋でした。何かあった時には直ぐに駆けつけられます。
Aさんの見守りに際してご家族との事前の打ち合わせでは呼び出しがあった場合にお部屋に行くと希望されていました。
家族旅行なので付き添い人とはいえ、私が出入りする頻度は考えないといけません。
もちろん、Aさんのそばにつきっきりを希望されればずっと付き添います。
それと、バイタル測定なども最小限にしました。せっかく非日常を感じるために家族旅行に来ているのに、私が度々血圧測定などをすれば、とたんに患者になってしまうからです。

念願のイカの刺身
さて、夕飯の時間が近づいてきました。17時に予約していた刺身の盛り合わせを受け取りに行くことにしていました。奥さんから「てごナースさん、他にも何かいいのがあったら適当に買って来てね」と言われました。しかし、私は皆さんの食の好みを把握していないので困惑しました。そこで、
スマホのテレビ電話機能を使い、お店の商品を選んでもらうことを提案しました。それなら好みのおかずを買うことが出来ます。私はホテルのタクシー乗り場からタクシーに乗りお店に向かいました。約10分ほどでお店に到着しました。店内に入り打ち合わせ通りにテレビ電話をしながら奥さんに買うものを選んでもらいました。
刺身の盛り合わせといくつか他の商品も購入しタクシーでホテルに戻り部屋へ届けました。奥さんは刺身の盛り合わせやその他の食べ物を見て納得された様子でした。
18時に夕飯の時間を設定していたので、しばらくして、ホテルに頼んでおいた弁当を受けとるために1階の受け取り場所へいきました。夕飯に食べる物は揃いました。
あとはAさんの姿勢を整えるだけです。私はホテルのクッションなどを集めてAさんの背中の後ろに入れ食べやすい角度にしました。これで夕飯の準備は整いました。
 その後、家族みんなでAさんのお部屋に集まって夕飯になりました。Aさんは念願のイカの刺身を奥さんの介助で食べさせてもらってご満悦の様子でした。Aさんは食べる量は少ないけれど、食べたい物を数口食べて「美味い、美味い」と笑顔で言われました。奥さんもご家族も刺身が新鮮で美味しい、ホテルの弁当も作りたてで美味しいと口を揃えて言われました。
みんなでワイワイ楽しく喋りながら、美味しい食べ物、自分の食べたい物を食べられるのはどんなに幸せなことかと思いました。
私もお腹いっぱい食べさせていただきました。頃合いをみて奥さんが「てごナースさん、もうお部屋に戻って休んでいいですよ、何かあったら呼びますから」と言われたので、部屋に戻ることにしました。Aさんは調子良さそうに両手をあげて動かしながら、部屋の大型テレビでYouTube、大好きな演歌を観て過ごされました。
 夜間は呼び出しもなく経過しました。だからと言っていつでも対応出来るようにと常に緊張感はあり寝たようで寝てない感じで朝になりました。

以上
到着から就寝まででした。

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