見出し画像

一つになって、みんなでJ2に行きましょう!#FC今治 でプレーする 加藤徹也

気がつけばボランチ、さらにはトップ下に近いところまで進出していく大胆なポジショニング。左足から繰り出される鋭いパス、そして正確なクロスボール。左サイドバックとして守備のタスクをしっかりこなしながら、加藤徹也選手は今季のFC今治の攻撃を大いに活性化させています。新天地でのチャレンジを選択したのは、まだまだ成長するために他なりません。


▼プロフィール
かとう・てつや
1996年3月13日生まれ、福島県出身。181㎝、75㎏。利き足は左。DF。背番号2。
アストロンFC(福島県)→聖和学園高(宮城県)→びわこ成蹊スポーツ大(滋賀県)→奈良クラブ→FC今治

■試行錯誤を繰り返して良くなれば

FC今治の一員となり、開幕から左サイドバックとして存在感あふれるプレーで躍動していますね。自分の強み、特徴は何だと考えていますか?

1対1の対人のところですね。そこでは絶対に負けたくないし、こだわりを持っています。

それから今治に来て、より攻撃も意識してプレーするようになりました。自分はサイドバックですが、思い切ったポジションを取って攻撃に絡む機会も増えているので、守備だけではなく攻撃でも貢献したいと思っています。

攻撃に関わるとき、タッチライン際を上下動するだけではなく、中にも大胆にポジションを取るなど積極的です。

状況を見ながら、より相手が嫌がるポジションを取るようにしています。それがハットさん(服部年宏監督)に求められることでもあるので。

ただ、まだうまくポゼッションに生かせていないところもあります。もっとトレーニングしなければなりませんね。

選手の組み合わせや、それぞれの特徴も関係することです。ボランチが落ちて、サイドバックが上がる場合もありますし。

どういう形が最も効果的か。今は試行錯誤をしている段階でもあるので、徐々に良くなっていくと思います。

シーズン序盤ですが、すでにチームとして特徴的なボールの動かし方が見られますし、今シーズンのFC今治の攻撃はより面白くなりそうです。

ハットさんのもと、チームは新しいことにチャレンジしているので、僕自身、プレーしていて楽しいです。奈良クラブにいた頃はポジションの取り方が割りと決まっていて、その中で相手の立ち位置を見ながら自分は高い位置を取るのか、ポジションを下げてサポートするのかを判断していました。ミーティングでも、かなり細かいものでしたね。

今治では、サイドハーフが中に入っていくのであればサイドバックの自分は外に張る、サイドハーフが張るのであれば中に入ってプレーするといったように、相手だけではなく自分たちの立ち位置も関係してきます。奈良ではあまりやっていなかった、新しいチャレンジです。

サイドでプレーするのと、中に入ってプレーするのとではまったく違うので、最初は不慣れな部分もありました。でもプレーの幅もそれだけ広がるし、成長することを求めて今治に来たので、プラスに捉えながらプレーできています。

サイドに張るだけではなく、内側にポジションを取ってプレーすることも、もともと得意なのだと思っていました。

いや、全然。試行錯誤の連続で、いつも考えながらプレーしていますよ。まだチームに迷惑をかけるときもあるし。だけどチャレンジしていかないと、できるようにもならないですからね。試合を重ねながら良くなっていければ。

しかもFC今治に加入して、今年のプレシーズンはセンターバックとしてプレーすることが多かったですから、今の左サイドバックでのプレーぶりはなおさら驚きです。

プレシーズンではけが人の関係もあって、センターバックでプレーしていました。チームがやろうとすることは変わりませんから、その意味ではサイドバックになっても戸惑いはなかったし、センターバックでやってきたことを生かしながらプレーできています。

■「いける!」と思ったら積極的に

いざ開幕してここまで、どのような手応えを感じていますか? 

守備に関しては、前線の選手から頑張ってくれるので、よく機能していると思います。後ろだけでは守れませんからね。全員がサボらないで走る、戦うというのが今治の強みだと感じます。

まだ多少のずれはありますが、改善できれば、それだけ守備は良くなるはずです。守備のベースがさらにしっかりすれば、自分も攻撃にも出ていきやすくなる。試合を通して、攻撃力を出せていけると思っています。

奈良クラブで6シーズン、プレーしました。加藤選手のスタイルを築く上でとても重要な期間であり、特に2021年にスペイン人のフリアン監督が着任してからの影響は大きかったのでは?

サッカーについて考えることが増えました。日本で教わってきたことと、スペインのサッカー文化は違うので、気づきもたくさんありましたね。

サイドバックとして僕が一番の武器にしているのは対人、1対1の守備ですが、『クロスを上げさせるな』ということは、フリアン監督から本当に口酸っぱく言われましたね。正直、止めるのが無理な状況でも『絶対に上げさせるな』と言われていましたから。もともと自分の強みだった「相手に自由を与えないプレー」が、さらにレベルアップできたと思います。そういうのも含め、サッカー観の勉強になりました

カルチャーショックもあったのでは?

1対1のとき、日本では正面を向いて対峙しろ、背中を見せるなとよく言われるんですが、フリアン監督は、どういう体の向きであろうと、どれだけ早く対応できるかどうかを重視するんです。相手に逆を取られたとき、背中を見せた方が早く対応できるのであれば、そうしろ、と。

相手を追いかけるように、無理に正面を向き直ろうとすると、それだけ遅くなってしまいます。逆を取られたとして、でもそのまま背中を見せて追いかける方が早いのであれば、そうしろと言われました。そのあたりは、日本の教えと違いましたね。

リヴァプールのファンダイクがマンチェスター・シティのハーランドと対峙している動画で、同じような場面があったんです。以前であれば、『逆を取られて、そのまま背中を見せているじゃん?』と疑問に思っていたでしょうが、フリアン監督のもとでサッカーをして、『ファンダイク、めちゃめちゃ良い対応だな!』という考え方ができるようになりました。

フリアン監督は個人ミーティングも、とても多くて。ポジションごとに役割も細々と違っているし、それだけサッカーについて考えることが自然と増えていきました。

その中で、左サイドバックとしてどのようにプレーしましたか?

奈良ではサイドバックはあまり中に絞らず、サイドハーフと被ってもいいから外に開いて、相手のラインを突破できる位置にどんどんポジションを取ることが求められました。FC今治でのプレーを考えると、かなり違うところもありますが、通じる部分もやっぱりあります。それだけ、奈良での経験が生きていると感じます。奈良でも今治でも、味方や相手の位置、相手の目線、状況を見ながら、『攻めに出ていける!』と思ったときは、出ていくようにしています。

■より厳しい競争を求めて

現役時代、日本を代表する左ウイングバック、ボランチだった服部監督から、何かアドバイス、ヒントを得られましたか?

今シーズンが開幕したあと、監督に聞いたことがあって。外に張ってボールを受けるときと、ボランチのあたりまで中に入っていってボールを受けるときとでは、周りの見え方がまるで違うんですね。それでハットさんは現役時代、どうしていたのか尋ねると、『自分は守備的な選手だったから、自分に余裕があるときはターンしていたけれど、できるだけシンプルにうまい選手にボールをあずけていたよ。その分、自分にできる守備でがんばった』という話をしてくれました。

ハットさんの言う通りで、ボランチくらいの位置でプレーしていると、相手にボールを取られることも起こります。そこですぐに奪い返せばいいし、怖がらずにどんどんチャレンジしていきたいです。ハットさんには、『本当にボランチやったことないの? 今度、機会があればボランチで先発させるよ』と言われています(笑)。

サイドに張ってではなく。中に入っていくと360度、すべてのアングルから相手に寄せられるプレッシャーがありますね。

どこから相手が来るか分からない難しさはありますが、味方同士の距離感がいいと、ポンポンとパス交換して打開できるので、積極的にプレーしたいと思います。そういう状況をいかに作れるかにもかかってくる分、首を振って周りを見ることも増えました。今治でレベルアップできている部分だと思います。

奈良の元チームメートが今の加藤選手のプレーを見ると、驚くかもしれませんね。

ちょいちょい連絡が来るんですが、『何やってんの?』といじられます。『奈良のときと全然、違うんだけど』と、半ばあきれられていますね(笑)。

今、中にポジションを取ってパッと顔を上げたとき、誰の姿が飛び込んできますか?

(新井)光がいいタイミングで、いいところに顔を出してくれます。展開力もあるし、ボールをあずけやすいですね。それから前線の選手も気を使ってくれるし、しっかりボールを収めてもくれるので、信頼してパスを出すことができます。

今回、FC今治からのオファーを、どのように受け止めましたか?

今治からのオファーはまったく予想していませんでしたね。ただ、去年の9月に対戦したとき、ヴィニ(マルクス・ヴィニシウス)をほぼ封じ込めて、元FC今治の岡田慎司選手に『今治の関係者が“あいつ、いい選手だね”と言っていたよ』とは聞かされていました。

移籍するにしても、同じカテゴリーでは考えていなかったんです。J2、J1を目指して日々、プレーしていたので。そこにFC今治からオファーがあって、奈良に残る選択肢も含め、最後まで悩みました。

その中で岡田武史オーナー、スポーツダイレクターの小原章吾さんの話を聞いて、移籍を決断しました。奈良に残ってチャレンジすることと、今治に移籍してチャレンジすることの、どちらが自分のサッカー人生をより良くするかを考えたとき、新しいチャレンジをして今治でJ2に行くことを選択したんです。

奈良では自分なりに築いてきたものがあるし、ある意味、『試合に出て当たり前』という感覚でした。こういう言い方は偉そうなんですが。

でも今治に移籍すれば、また一からポジションを取りに行かなければならない。僕自身、そんなに若くはないので、チャレンジするタイミングもそれだけ限られます。より厳しいポジション争いを覚悟し、それを求めて今治に来ました。

■選手だけでは今治の力は出せない

加藤選手にとって、奈良はJリーガーになる夢を実現した場所です。そこで得たものは何ですか?

僕は奈良クラブでJFLからJリーグに上がることを経験しました。その時に実感したのが、周りからの見られ方が本当に違ってくる、ということです。そして、より大きな舞台に立てたからこそ、もっと上のレベルに行きたいという思いも強くなりました。

奈良では、いいときばかりではありませんでした。2019年の終わりには観客人数の水増し問題と、それにまつわる社長交代ということもありました。クラブは一から出直して、そこからJFLで優勝し、J3に上がったんです。どん底を経験したからこそ、自分たちが背負っているものの大きさ、大切さを感じながらはい上がっていくという、奈良でしかできない経験を積むことができたんです。

改めて僕が言うまでもなく、FC今治は上を目指していくためのすばらしい環境があります。その中で、僕は初心を忘れることなくサッカーができます。奈良クラブでの経験は、自分にとって宝物です。毎日が幸せだと感じながらサッカーできています。

「Jリーガー」が夢から目標に変わったきっかけ、タイミングはありますか?

大学生(びわこ成蹊スポーツ大)のときです。小学生でサッカーを始めて、僕はずっとすごい選手ではなかったんですね。選抜に入ったこともないし。だから、『プロになりたい』と口では言ってはいたけれど、なれる実感はありませんでした。

それが大学生になって、高いレベルのチームメートと一緒にサッカーをしたり、Jリーグのチームと練習試合をするようになって、『自分もプロになれるかもしれない』という気持ちに変わっていきました。そして進路を決めるとき、JFLでいくつか選択肢がある中で、自分からお願いして奈良クラブの練習に参加させてもらいました。

その練習参加中に、ウイングバックとして出た大学生との練習試合で、ハットトリックしたんですよ。たまたまだと思うんですが(笑)。でも、それを見た当時の監督に、『こいつ、持ってるな』と思ってもらえたようで。それもあって、奈良クラブに加入することになりました。

話はさかのぼりますが、福島県いわき市出身の加藤選手は2011年4月、高校は宮城県の聖和学園高に進んでいます。2011年3月11日、東日本大震災は中学を卒業する春に起こりました。

まさに震災の日が、中学の卒業式当日でした。午前中に式が終わって、仲が良かった友だちの1人の実家がそば屋さんだったので、みんな集まっていたんです。そこに地震が来て、『これはただ事じゃない!』とみんな建物の外に飛び出した。だけど揺れが収まらなくて、何かにつかまっていないと立っていられないくらいでした。

そこから車で10分くらいのところが海だったのですが、そのあたりもみんな津波で流されてしまいました。生きていることがどれだけすごいことか、幸せなのか。心の底から実感しましたね。

進学した先の宮城も大変な被害でした。入学式が3週間くらい遅れて高校生活が始まりましたが、周りには家が全壊したという人や、親を亡くされた先輩がいて。無事に助かった自分は、本当に頑張らないといけない、中途半端にはできない、という気持ちになりました。

2024年、サッカーを続けてFC今治の一員となりました。今治で実現させたい夢を聞かせてください。

僕は今すぐにでも、一つでも上のカテゴリーでサッカーがしたいと思っています。28歳という自分の年齢もあります。1日も無駄にはできないです。

それを実現できるチームとして今治を選び、このチームにやってきました。だから、ただJ2に上がるだけではなく、J1でプレーすることを見据えてやりたいと思います。

5月には奈良クラブとの対戦がありますね。

勝ちたいです。絶対に負けたくない。200パーセントの気持ちで自分のすべてをぶつけて、FC今治の勝利に貢献します。それは奈良戦に限らず、すべての試合についていえることです。

FC今治の力というのは、僕たち選手だけではないと思います。ファン、サポーターのみなさんと一体となって、今治の力になります。

長いシーズン、いいときばかりではありません。苦しく、難しいとき、批判も含めて応援していただけることが、僕たちのパワーに変わっていきます。

僕らは全力でプレーするので、サポーターのみなさんにも全力で応援して、後押ししていただきたい。そうすれば、このチームは絶対にJ2に行けます。今治が一つになって戦って、全員でJ2に行きましょう!

取材・構成/大中祐二