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FC今治U-13が【瀬戸内アドベンチャーウォーク130km 5泊6日】で向き合った、生きる力(前編)

2023年8月19日(土)〜8月24(日)に渡り、FC今治の育成組織『FC今治U-13(中学1年生)』を対象に、弊クラブ運営のしまなみ野外学校の野外体験プログラム【瀬戸内アドベンチャーウォーク130km 5泊6日】を実施しました。
主体的にプレーできる自立した選手と自立したチームを目的とした、サッカー指導の方法論の体系『岡田メソッド』では、選手を1人の人間として成長させることが重要だと考えております。本プログラムはその一環として実施されたもので、生きるために仲間と共に歩くことで「答えのない事態にも耐える力」“もちこたえる”を身に付けることを目標としています。
今回の記事では、【瀬戸内アドベンチャーウォーク】を通して『FC今治U-13』の彼らに迫った壁や、成長過程について、引率したしまなみ野外学校のスタッフ3人(服部真帆、河﨑梨乃、浅山莉奈)に話を聞きました。


『FC今治U-13』の19名がチャレンジした、今治〜広島間130kmを歩いて渡る6日間

――今回のプログラム【瀬戸内アドベンチャーウォーク130km 5泊6日】について教えてください

服部(1班担当):FC今治のアカデミー生である『U-13』の19名を対象に、今治の「しまなみアースランド」からしまなみ海道を経て、とびしま海道へと渡り、瀬戸内の島々を歩き、「広島市平和記念公園」までの130kmの道のりを歩くというプログラムです。3班に分かれてそれぞれの行程を自分たちで考えて行うのが特徴で、班ごとにその日のゴール地点に間に合うように逆算して、それぞれ何時に起きて、何時に出発して、どこを通って、何時にチェックポイントを通過するのかなどを決めます。

各班内の役割はローテーションです。リーダー、副リーダー、食事、記録、会計など5つの係があり、基本的にはリーダーが地図を読む係です。リーダーがその日のルートなどの行程を決めていて、副リーダーがその次の日の行程を決めていました。ローテーションなので、誰かしら全員がルートを決めることに携わっていました。

――このプログラムを実施するにあたった経緯を教えてください

服部(1班担当):アカデミーのコーチから「選手たちの主体性という点で課題があるから、何かしまなみ野外学校で、プロを目指す彼らが成長するためのプログラムができないか?」という相談があったからです。

河﨑(2班担当):13歳という多感な時期の彼らは、相手とコミュニケーションを取って自分の気持ちを素直に話すといったことがなかなかしづらくなっていく時期ではあるので、仲間同士でコミュニケーションが取れるように私たちがどう関わりを持つか、どう引き出してあげるかというのを意識して、今回のプログラムを企画しました。

プログラムでは、道中の給水をどうするか、食べるものはどこのスーパーに調達に行くかなど、手配を全部自分たちで決めなければなりません。水がなくなったら旅の途中で地元の方々に「水を分けてください」と声をかけないといけませんから、地域の方と関わりを持つという点からも、今回のプログラムでは「歩くこと」をメインに企画しました。

今回は「広島市平和記念公園」がゴールだったということもあり、2日目にしまなみ海道の大三島(愛媛県)の宗方港から、とびしま海道の岡村島(広島県)へ行くためには、必ず船に乗らなくてはならないのですが、船の時間に間に合うように子供たちが考えてたどり着けるかどうかということも、ひとつプログラムの要素としては入れたいなと思いました。

「仲間を切り捨てて船で先に進むか?」彼らに突きつけられた選択肢

――2日目に、大三島の宗方港から船に乗る際にアクシデントがあったと伺いました

浅山(3班担当):アクシデントというか、初めて彼らが選択を突きつけられたときだったと思うんです。その日、私たちの3班はお昼ごはんの店が開いてなくて、お昼ごはんを食べずにそのまま大三島の宗方港へ向かったこともあり、40分ほど時間を短縮できたんです。それで宗方港に行ったら、まだ他の班は誰も着いてなくて。

そしたら、がってん(しまなみ野外学校の統括責任者)のほうから「みんなに話がある」と集合がかかって「1班と2班がもしかしたら時間内に宗方港に着かないかもしれない。みんなはどうする? 1班と2班を置いて先に船に乗って岡村島に到着するか? つまり残りの班を切り捨てるか。もしくは1班と2班を待ってここで野宿をするか? でも野宿したら次の日の行程が長くなるから、そういうことも考えて」と。

そのときに、うちの3班が出した答えが「他の班を待って、ここに残る」でした。普段チームスポーツをしている子たちなので、全員の答えが「一緒にサッカーをしているチームだから、ここに残って野宿をしたい」だったんです。そのときにがってん が言ったのが「じゃあ、みんなサッカーでプロになりたいけど、全員一緒にプロになれるの? 結局誰かを切り捨てて、自分がトップにのし上がっていかないといけないよね? そういうことも考えて判断して。別に3班のチーム全員が同じ行動を取る必要はないよ。一人一人よく考えて」って。

それで再度一人一人が考えて、最終的には6人のうち4人が「やっぱり自分達は仲間だから残る。残って一緒に野宿する場所を探したい」と選択をしました。一方で「先に行く」と答えた子たちからは、「次の日の行程が長くなるから、自分たちは先に進まないといけない。だから残る必要はない」と。そのときに、がってんから「じゃあ、船に乗る2人分のチケットを買ってきな」と伝えられたところで、遠くから残りの1班と2班がやってきたんです(笑)。

結局は全員で宗方港を出港して岡村島に渡ることができたんですが、その日の夜の振り返り(反省会)で「今日のことはどうだった?」とみんなに聞いてみたんです。そしたら「本気でチケットを買いに行くとは思わなかった」「結局はみんなで野宿するんでしょ、と思っていた」って。でもやっぱりがってん から直接話を聞いて「自分たちはプロになるから、しっかり切り分けて考えていかないといけないと思った」と話していました。

私たちの3班の子供たちは、今回のことを通して「選択する」ということを学んだんだと思います。それはこれからの人生の中でも、きっとあること。将来、同じような選択する場面に立ったときに、今回の経験が少しでも生きたらなと思っています。

自ら決めた目標を達成するためには。失敗を経て変わりはじめた子どもたち

――子どもたちの成長を感じ始めたのは、何日目ぐらいからでしょうか?

河﨑(2班):4日目からです。うちの2班は自由奔放というか、結構のらりくらりな班だったんですよ。1日目なんかは、途中で海を見つけたら「海に入りたい!」と言って駆け出しちゃうような(笑)。

でも3日目ともなると旅に慣れてきて、行程がなんとなく分かるようになってくるんです。何時に出発して、何時にチェックポイントを通過して、という目標をクリアするのが、何となく体に染み付いてくるんですが、うちの班は3日目の最初に反対方向に進んでしまって……。しょっぱなのチェックポイントに1時間遅れで到着してしまったんです。それで、次のチェックポイントにも1時間から1時間半遅れて到着してしまって、結局ゴールが13時目標だったのが、もうその時点で過ぎていて。

途中で「ヤバイ間に合わない」と気付いたようで「じゃあゴールを15時に変更して頑張ろう」と途中で彼らが目標を変更したんですけど、目標をなあなあにどんどん繰り下げていく感じが、私の中ですごくモヤモヤしたんです。だから3日目の夜の振り返り(反省会)のときに「ピッチに立つ前に、みんなどんな気持ち?」と聞いたんです。そしたらみんな「勝ちたい」と。「でも、今日のみんなは、どんどんどんどん時間を遅らせていって負けたんだよね。13時って言ってたのに、ゴールが15時になるって負けてるよね。例えばサッカーのときでも、1点、2点入れられたら「じゃあ今日の試合は引き分けでいいや」ってなるの?「この試合は負けてもしょうがないや」って諦めていったら、その試合を誰が応援したいと思うの? 誰が勇気をもらえるの? だから、勝ちにこだわってほしい。」と伝えました。

だから次の日の4日目からは、時間ということにすごくストイックに変わりました。子どもたちの中で決めた目標を達成するにはどうしたらいいか、例えば「今、ここは走らなきゃ間に合わない」とか、目標をすごくクリアできるようになりました。4日目からは、子どもたちの目が明らかに変わったなと思います。

仲間と共に目的地を目指した先で身につけた、生きる力

――この5泊6日が終わってみて『FC今治U-13』である彼らにどんな変化が起きましたか?

服部(1班):自分の1班で言うと、最初は「なんで歩かなきゃいけないんだ」とすごくネガティブな発言をしている子がいたんですが、その子が結局最後には誰よりも「前を向いて頑張って歩こう!」って仲間に声をかけていたんです。その子を見ていると、これから自分でサッカーをする道を選んでいったとき、どうしても嫌なこととか、向き合いたくないこととか、やらされているなと思うこととか出てくると思うんですが、それがいつか自分のためになるという風に考えが変化してくれるんじゃないかなって。

浅山(3班):今回のプログラムは5泊6日と長い間みんなが一緒に生活していたからこそ、ちょっとずつそれぞれの個性が出てきて、自分以外の相手にも言いたいことが言えるようになり、バラバラだった個々が仲間になっていく関係性が築けたと思います。

河﨑(2班):プログラム終了後の後日、コーチからフィードバックをもらったんですが、やっぱり試合に対しての一人一人の関わり方や気持ち的な部分が大きく変わっている気がすると言われました。また試合後の振り返りなども積極的に意見が出るようになったみたいで。旅の意味がこれから先、ちょっとずつ体に馴染んで、目に見える形で出てきてくれたらいいなと願っています。

取材・文/村上亜耶

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