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FC今治U-13が【瀬戸内アドベンチャーウォーク130km 5泊6日】で向き合った、生きる力(後編)

2023年8月19日(土)〜8月24(日)に渡り、FC今治の育成組織『FC今治U-13(中学1年生)』を対象に、弊クラブ運営のしまなみ野外学校の野外体験プログラム【瀬戸内アドベンチャーウォーク130km 5泊6日】を実施しました。
【瀬戸内アドベンチャーウォーク】の様子をレポートした前編に引き続き、後編の今回は、『FC今治U-13』の子どもたちが野外体験プログラム前後でどう成長したかを、U-13コーチの渡辺憲司と、コーチ・テクニカル担当の野本浩平にお話を聞きました。

記事(前編)はこちらをチェック▼


「選手の主体性」への課題がきっかけで始まった【瀬戸内アドベンチャーウォーク】

――今回のプログラム【瀬戸内アドベンチャーウォーク】を実施するにあたって、『岡田メソッド』の「選手の主体性」という点においてアカデミーの中で課題があったためだと伺いしました

渡辺:僕は普段はU-13のコーチを担当しており、指導者としてはFC今治で9年目になります。FC今治にはサッカーの指導方法の体系『岡田メソッド』があり、その原則を元に彼らを指導しています。『岡田メソッド』では「主体的に判断をしてプレイする」ことを目標としているんですが、どんなに原則を伝えても、どうしても選手が受け身になってしまう。受け身になった時点で、僕の中では「それは主体的なのか?」っていう疑問があって……。

8年間彼らとやってきた中で、この「主体性」については非常に課題に感じていました。でも、やっぱりサッカーの現場だけ、ピッチの中だけで、この子供たちの主体性を育むというのはかなり難しいなと感じていました。
そんな中、弊社にはヒューマンディベロップグループという、野外体験をしながら子供たちの成長や主体性を育むという部署があるので、そこと連携を取って、何かイベントをやれないかなと打診したのがスタートです。

――なぜ中学1年生という、本格的に思春期に入る前の感受性が高い彼らを対象として実施したのですか?

渡辺:なぜ中学1年生だったのかというと、彼らはまだまだ価値観が定まってない年代かなという、僕の中での仮説があったからです。まだ思春期の少し手前の中学1年生の間に【瀬戸内アドベンチャーウォーク】を通して、仲間の持っている価値観も含めて、さまざまな人の多様な価値観に触れることが大事なんじゃないかと思ったんです。
多様な価値観に触れた上で、彼らがどう感じるか。その中で「自分が持っている価値観ってなんなんだろう?」という主体性を見つけていくには、U-13である中学1年生という年代が最適なんじゃないかなと考えからです。

――お二人は「瀬戸内アドベンチャーウォーク」には全日同行されたんでしょうか?

渡辺さん:僕は4日目からの同行で、1泊しかしていません。しまなみ野外学校を管轄している部署の担当者に「コーチは来ないでください」って言われていたので。
最初は5泊6日全行程参加する予定だったんですけど、やっぱり普段から接しているコーチの目があると、子供たちの素を出すまでに時間がかかったりするかもしれないし、逆に僕らコーチ陣が我慢できなくなって指示や命令を出してしまうんじゃないか、という判断もあり……。4日目までは旅に同行はさせてもらえませんでした。「1泊しか来なくていいよ」と、首宣告をされたんです(笑)。

野本:僕も同じく1泊だけの予定だったんですけど、5泊6日という長期間、自分の息子を預ける保護者の方々の気持ちになったとき、「子どもたちは期間中にどんな体験をしていたのか」を記録として残しておくべきだなと思い、僕は映像係として全日同行しました。

(※動画で記録した【瀬戸内アドベンチャーウォーク130km 5泊6日】は、YouTube『岡田メソッドTV』でも視聴可能です)

リーダー気質の子、そうじゃない子。選手の特性で振り分けた班決め

――今回参加した子どもたち19人を、渡辺さんが1班、2班、3班に振り分けたと聞きました。どういった考えで、この班決めを行ったのでしょうか?

渡辺:普段の練習のときに、僕が質問を投げかけたときに答える選手や、試合中に積極的にコミュニケーションを取る選手って、大体5〜6人と決まった子なんです。それで、今回僕がやったチーム編成は、1つ目の班にそのリーダーシップを持った5〜6人を全員入れたことなんです。リーダーシップの強い彼らを全員一緒にしてしまうことでどうなるのか、揺さぶりをかけたかったんです。
2つ目の班には、表立ってコミュニケーションを取らないんだけど、隠れて自分の意思をしっかり持っている選手たちを集めました。
3つ目の班には、誰か発言をする選手がいれば「自分はそれに従っていればいいか」という考え方の選手たちを多く入れたんです。このグループの中で、誰かが先頭に立って引っ張っていかないといけないっていう状況を作りたかったのが理由です。

――実際にこのグループ分けをしてみたことで、化学反応は起きましたか?

渡辺:驚いたことに、4日目に僕が行ったときに、一番リーダーシップが強い1班のチームが大幅に道を間違えていたんですよね。「リーダーシップの取れる彼がこっちだって言ったから、じゃあついていくか」と班のみんなは思って進んだんだろうけど、その結果、結局時間に間に合わないということを経験していました。
自分たちの掲げていた目標は達成しなかったし、ゴールもギリギリだったし。挙句の果てに先にゴールしていた班のみんながテントを立ててくれていたし、「夜ごはんも作らなくていいよ」って言ってくれたそうなんですが、素直に喜ぶことができなかったようです。その夜の振り返り(反省会)で見た彼らの複雑な表情から、このグループ編成にも意味はあったのかなと思いました。

――5日6泊を通して、毎晩、振り返り(反省会)の時間があったそうですね

渡辺:はい。しまなみ野外学校にはがってんというボス(統括責任者)がいるんですけどね。ボスはやっぱり子どもたちの言ったフワッとしたことに対しても、うまいこと突いていくんですよね。
毎晩の振り返りのときに、翌日の行程案を子どもたちが出すんですが、その内容がもう薄くて……。「何時にどこのスーパーへ行って、次は何時にどこに行こう」ぐらいのザックリとした予定しか書いてないんです。そんなところを「じゃあ、もしこの店が閉まっていたときにどうするの? Aパターンの店が開いてなかったらB、Cパターンまでちゃんと考えている?」ってガッテンが突いていくんです。がってんに言われて、初めてみんなで深く考える、といったことの繰り返しだったように思います。

5泊6日で培ったコミュニケーション力と、その先の深い気付きへ

――【瀬戸内アドベンチャーウォーク】を経て、子どもたちに変化はありましたか?

渡辺:僕は4日目の夜から途中参加したのですが「よう喋るようになってるな」と思ったんです。コミュニケーションについては、【瀬戸内アドベンチャーウォーク】体験後のトレーニングマッチでも明らかに増えたなと感じました。実際に翌週に実施した「サンフレッチェ広島」とのトレーニングマッチの中でも、試合で起こっている問題に対してコミュニケーションを取ろうという姿勢はすごく見えましたし、自分たちで状況を解決する場面がこれまでよりもはるかに多くなっていました。これは【瀬戸内アドベンチャーウォーク】を通して、彼らがコミュニケーションの必要性を意識したからこそ獲得できたことなんだろうと思います。

――最後になりましたが【瀬戸アドベンチャーウォーク】を実施した感想と、来年以降も継続したいかを教えてください

渡辺:はい。来年も続けていく予定です。今回初めてやってみて、選手たちのコミュニケーションが増えたなどの短期的な変化は感じたのですが、僕がこのイベントを通じて彼らに学んでほしいことは、もっと深い「気付き」の部分なんです。
例えば仲間と言葉を交わしたとき「この言葉遣いじゃいけないんだ」という気付きが、その後の人生に影響を及ぼすかもしれない。もしくは自分で行動したことに対して、仲間が「それでいいよ」と認めてくれたことが自信に繋がって、今後彼らが壁にぶつかったときに乗り越えられる原動力になるかもしれない。それこそ、彼らは19人いるので19通りの「気付き」があると思うんです。
その「気付き」が表面に出てくるのって、もしかしたら今じゃなくて中学3年生になってからとか、高校生になってからとか、もしかしたら大人になったときかもしれない。でも「あ、あのときやったことって、こういうことだったんだ」と、未来の彼らに「気付き」が得られることを信じています。

そもそもサッカーって答えがないスポーツとよく言われているのですが、支えがない状況に自分自身が向かっていくことが必要だと思うのです。自分で気付き、答えを出し、正解にするだけの強さを身につけていってほしいなと思います。それがピッチ上で表現できればプレイの魅力にもつながるし、主体的に判断することにも繋がるのかなと思っています。

取材・文/村上亜耶