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岡田武史会長が語る今治.夢スポーツの2022年、そして未来図。

当社代表取締役会長の岡田武史に、2021年の振り返りと2022年の目標、そしてその先への想いを聞きました。

新スタジアムの資金調達にばかり集中し、その結果がすべてに出た

ーーまず、2021年を振り返っていかがでしょうか?

2020年の終わりに「里山スタジアム」の設計の方向性が決まり、工事業者や土地の無償貸与も決まりました。「あとは40億円を集めるだけ」となって卒倒しそうでした。集められる自信はなかった。でも、やるしかなかった。2021年の私は資金調達にばかり集中してしまい、トップチームの事に意識が向きませんでした。クラブのトップがそんな姿勢でJ2昇格などできるわけがありません。応援してくださった皆様、本当に申し訳ございません。
けれども私は「人生において起こることはすべて、その人やその会社に必要なことなのだ」と思っています。私がすべてを決断するのではなく「トップチームを支える強固な体制が必要」。そう言われているのだと感じました。

コロナ禍を追い風に、企業理念を体現したスタジアムになる

ーー一方で、里山スタジアムは11月に無事に着工しました。

奇跡的な資金調達でした。コロナ禍が追い風になりました。お金を使わなくても暮らせることに皆さんが気づき、今度お金を使うのなら応援したいものに使いたくなったように感じました。我々の企業理念「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」の“心の豊かさ”につながる信頼、共感、夢の大切さがコロナ禍ではっきりしたのです。

資金調達の当初、「コロナ禍では資金調達しても今治では集まらないよ」と財界からの提言があり、私は東京で資金力のある若い方を中心に面談させていただきました。最初の面談は紹介によるウェブ面談でした。私が「こういうことをやりたいんです」と伝えたら、「岡田さん素晴らしいです。1億円出します」と言われて「待ってください。会ってからにしませんか?」「いえ、もうやります!」という感じで、計画に賛同してくれる人が次々に現れ、お金が集まっていきました。やがて今治の企業も動き出してくださり、投資家や地元企業からの出資、企業版ふるさと納税による寄付金などで20億円を調達できました。残りの20億円は金融機関の借入金で担保のないプロジェクトファイナンスです。通常、売り上げが9億円しかない我々のような会社に20億円なんて絶対に貸してくれません。我々の活動を皆さんに認めていただき、ようやく着工できたのです。里山スタジアムは、我々の企業理念を体現したものになります。

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▲建設中の「里山スタジアム」

サッカーだけではない、地道な活動で積み重ねた信頼の表れ

ーーコロナ禍が追い風になったとありましたが、それ以外になぜ里山スタジアムの着工が実現できたと思いますか?

先日ある会社の社長に「岡田さんが最初に来たときはホラ吹きだと思ったけど、一つずつ実現してきて『あれ、ひょっとしたら?』と思わされた」と言っていただきました。やはり地道に一歩ずつ進んできたことだと思います。7年前に私が今治に来たときは、「そんなの無理じゃ」と散々言われました。今は「今治が変わるかもしれない」と市民の皆さんが前向きな意識を持ち始めているように感じます。シビックプライドとよく言われますが、今治に誇りを持つようになったように感じますし、何か生き生きしているように思います。
我々もサッカー以外の活動も含めて、少しそれに貢献できているかもしれないと思っています。

私たちがいくら外から優秀な人材を集めても、地元の人に認めていただけないと無理なんです。今治に来て2年目のころ、どうしたらお客さんにスタジアムに来ていただけるか議論していて気づいたんです。当時のバックスタッフ6人のうち5人が今治以外から来た人間で、私がスタッフに「今治の友達いるか?」と聞いたら誰もいなかった。そうか、我々はFC今治の仲間で仕事して、飯を食って、「サッカーを見に来てください」と言っていた。自分たちのことしか考えていなかった。そうじゃなくて、私たちが町に行かないといけないんじゃないかと。それで「友達を5人作る」と目標を立てて、みんなでフットサルチームに入ったり、お年寄りの困り事に応えたり、いろいろなことをしました。遠回りに見えるけれど、そうした地道な活動も良かったのでしょう。

202108_大三島ぶどう収穫

▲大三島みんなのワイナリーの収穫ボランティアにスタッフが参加

「ありがとうサービス.夢スタジアム」の建設時も、私が議員さんに「スタジアムがないとJFLに上がれないんです」と言ったらみんなぽっかーんとして相手にされず、我々は民間企業ですから「なんであいつらにだけそんな特権を与えるんだ」と反対されました。今回の里山スタジアムにしても最初はネガティブでした。そんな議会に企業版ふるさと納税を認めていただき、土地の30年無償貸与を決めていただけるなんて、当時からは想像もできなかったことです。我々が地道に活動を続けて積み重ねた信頼の表れだと思っています。本当にありがたいことです。

365日人が集う、心のよりどころとなるスタジアムに

ーー里山スタジアムは2023年1月に完成予定です。これから具体的にどんなスタジアムになっていきますか?

我々が作るのは、人間性を取り戻すスタジアムです。これからの時代、AIが発達していくと、それに従って失敗のない人生を生きるようになります。でも人間の幸せはそれだけではありません。困難を乗り越えた達成感や成長、誰かと助け合ってできる絆。そうした「もうひとつの幸せ」も必要です。里山スタジアムは、そういうものを提供できると同時に、やがて朽ちる箱モノではなく、年々緑豊かになる里山のような場所になります。

里山スタジアム全体像2

▲「里山スタジアム」イメージ図

具体的には、クラブハウスは共用にします。運営室は我々スタッフのオフィスとして使用します。VIPルームは音楽教室や学童保育として、メディアルームなど収容力のある場所はカルチャーセンターとして貸し出します。スタジアムの土手は畑にして耕し、大きな道路側の傾斜地でワイン用のブドウを育てます。さらに障がい者の通所施設を設け、チョコレートファクトリーを併設。BBQセンター、ドッグランなども配置して、365日人が集う心のよりどころになります。

FC今治にしかできない強固な体制でJ2昇格へ

ーー里山スタジアムの完成をJ2昇格で迎えるために、3年目のJ3をどう戦いますか?

昨シーズンは2度の監督交代に踏み切りました。二人の監督が去り気づいたのは、積み重ねが残らないことでした。これを繰り返していてはクラブは成長しない。ならばと、「岡田メソッド」を共通認識するアカデミー・メソッドグループ長だった橋川監督にお願いしました。岡田メソッドは16歳までに落とし込むメソッドですが、大人にも通用する感覚があったので、育成コーチを含めた集団指導体制でやっていく決断をしました。集団指導体制へと転換後、上向きに昨シーズンを終えています。あのときは失うものがなく、選手はノープレッシャーで勢いよくやれたので今季はそう簡単にはいかないでしょう。ですが、積み重ねを構築できるクラブは、メソッドがあるうちだけです。

さらに、GMのポジションにサガン鳥栖やV・ファーレン長崎でGMを務めた優秀な人材、竹元氏を呼び、フィジカルコーチを呼び、栄養士と契約するなど体制も整えました。バランスの良い選手補強もできています。強烈なフォワードが一人いればという気持ちもありますが、20億円の借金をするので今季は無謀な投資ができません。そうした中でも、みんなで点を取っていけるチームにしたいと思っています。チーム一丸となってJ2昇格を成し遂げます。

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育成、レディース、グローバル、教育事業も進化させる

ーートップチーム以外のサッカー事業や教育事業についても、2022年の目標をお聞かせください。

育成に関しては、2022年度で初めてU-10からU-18まですべてがそろうので、それぞれ上に上がってくる優秀な選手を排出していきたいと思っています。レディースは、アマチュア最高峰「なでしこリーグ」参入を目指します。体制を変え、新体制でチーム作りをしていきます。ホームグロウンには、もっと人的リソースを割いていくつもりです。我々の一番大事な目標は「FC今治ファミリーを増やすこと」。ホームグロウンは、サッカースクールをしたり、巡回指導をしたり、さまざまな場でイベントをしたりと、FC今治ファミリーを増やす一番大きな武器ですから。グローバルに関しては、中国の浙江緑城と提携をしており評価もされていますので、2年契約を延長します。さらに岡田メソッドを使ったグローバル事業で中国の話が2つ進んでいるので、なんとか事業化してマネタイズしていきたいと思っています。2022年度の間に指導者を派遣できるリソースを作り、アジア進出への足掛かりを作っておきたいです。

2巡回サッカー教室

▲巡回サッカー教室の様子

教育事業に関しては、今治市から指定管理を受託している「しまなみアースランド」は、自主事業としてあの素晴らしい公園をもっと活用します。「しまなみ野外学校」は、企業向けと子どもたち向けの研修でうまくバランスをとりながら、コロナ禍以前よりも事業を大きくしていくつもりです。コロナと共存していく社会を見据え、野外と座学を組み合わせたハイブリッドなプログラムを作っていきます。

FC今治のコミュニティから日本を変える

ーー新型コロナウイルスの収束は見えず、人々はまだ、以前のように自由に交流できません。FC今治、そして今治.夢スポーツはどんな役割を果たすことができますか?

社員にも言っているのですが、コロナが終わっても、もう元には戻りません。例えば、サッカー観戦スタイルは多様化していくでしょう。家で酒を飲みながらVR観戦したい人もいる一方、やっぱりスタジアムに行って応援したい人もいる。スタジアムには行きたいけど個室で見たい人も出てくる。そうした多様なニーズに対応できるよう、里山スタジアムは可変性のあるスタジアムにしています。お客さんに対するアプローチも「チケット買ってください」「見に来てください」だけではなく、もっといろいろな楽しみ方を提供できるよう、スタッフでアイデア出しをしているところです。これはひとつ、将来的に大きな役割を果たしていくと思います。

そして、我々は里山スタジアムができたら万々歳ではありません。
今、資本主義が行き詰まり、格差が問題です。IT革命やコロナ禍で大もうけしている会社の多くはIT系ですが、その半数程は新しい価値を生んでいません。例えば駅の自動改札。ものすごく便利になりましたけど、電車に乗る人が増えたわけじゃないですよね。切符をもぎっていた人に支払われていた給料が、自動改札を発明した人に偏るだけです。格差が広がるのは資本主義の中では仕方のないことですが、下の収入がゼロに近づいてしまっています。豊かな日本でまともにごはんが食べられない子どもや家のない人がいます。そうするとベーシックインカム頼みに、お金を配るとか富裕層に税金をかけると言う人もいますが、きっと成功しません。

そこで我々が考えているのは、FC今治のファンクラブというコミュニティの中ではベーシックインフラである衣食住を保証し合うこと。余っている服を融通し合う。里山スタジアムの畑、フードバンクやオープンキッチンで食事を安く提供する。空き家を直して住めるようにする。そこでは、持っていたら価値が減っていく「ありがとう」を見える化した仮想通貨を配るんです。早く回さないと価値がなくなるので「ありがとう」がどんどん回っていきます。そんな開かれたコミュニティを作りたいと思っています。それを58あるJクラブが実施したら、日本は変わるのではないでしょうか? 最終的には、企業理念を具現化したそういうコミュニティ、社会を作りたいのです。

我々はサッカーにとどまらず、さまざまな挑戦を続けます。それでも2022年はトップチームの成績が重要だと思います。今年こそJ2に昇格し、皆さんに誇りに思ってもらえるクラブになっていきますので、ぜひ応援していただきたいと思います。

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取材・文/高橋陽子