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彼が愛したケーキ職人

恵比寿ガーデンシネマで鑑賞。予告みて気になってた作品。ネタバレ感想です!

あらすじ:ベルリンのカフェで働くケーキ職人のトーマスと、イスラエルから出張でやって来る妻子あるなじみの客オーレンは、いつしか恋人関係へと発展していった。「また1ヶ月後に」と言って、オーレンは妻子に待つエルサレムへ帰っていったが、その後オーレンからの連絡は途絶えてしまう。オーレンは交通事故で亡くなっていた。エルサレムで夫の死亡手続きを済ませた妻のアナトは、休業していたカフェを再開させ、女手ひとつで息子を育てる多忙な毎日を送っていた。アナトのカフェに客としてトーマスがやってきた。職を探しているというトーマスにアナトは戸惑いながらも雇うことにするが...... 公式サイト

感想:食べて、祈って、愛を知る


イスラエル出身のオフィル・ラウル・グレイツァ監督は1981年生まれ、私とほぼ同世代。本作で長編デビュー。製作に8年近くかかったらしい。日本公開の2018年にはイスラエルのアカデミー賞ともいえるオフィール賞で、9部門にノミネート、作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞(サラ・アドラー)含む7部門で受賞。すごいね!!監督は現在は夫とベルリン在住で、地元イスラエルを行き来している。

まず、イスラエル+ドイツ合作てだけで腰がぬける。ユダヤ人虐殺したドイツだぜ?とはいいつつも、第二次世界大戦後60年以上経過し、21世紀に突入し、ミレニアル世代はそんなこと気にしないわ!少しも寒くないわ!と言い切れる姿勢、学びたいものです(゜-゜)

ツイッターやインターネット上の感想で、今年はLGBTQ要素の多い映画が多くて辟易してる、なんていう意見を目にした。裏を返せば、それくらい市民権を(ちょっとずつですが)得てきたのかな?なんて思ってしまった。


登場人物

ベルリンでベーカリーを営むトーマス。ケーキもペイストリーもパンも得意。黒い森のケーキ(シュバルツヴァルト)はキラーコンテンツ!亡き恋人の影を追ってイスラエルへ旅立つ。

トーマスの恋人、オーレン。月1で出張にきてトーマスのシナモンクッキーを買ってたら恋に落ちる。イスラエルの鉄道会社勤務、妻子あり。5か国語を話すエリート。家庭と恋愛と遊びを使い分けるタイプ。市民プールのロッカーにコンドーム常備してたりする正統派の遊び人。

オーレンの妻アナトと息子のイタイ。どうやらオーレンに離婚を切り出されていたらしく、息子と生きてくため昔取った杵柄でカフェを再開しようとしていた。料理は得意ではない。義兄モティ、義母ハンナにはなんやかんやで世話をやかれている。

トーマスは己の出自を明らかにしない。「祖母に足るを知れ、と育てられた」「父は物心つく前に出ていった」「母は知らない」「祖母は小さな村のパン屋を営んでいた」観客が得られる情報はこれくらいである。同じく、アナト自身の出自も謎のまま。夫オーレンとその家族以外、身寄りがないのかも。

アナトの息子イタイは内気な子どもで、ある日学校を抜け出してしまう。大人たちが躍起になって探す中、イタイはトーマスが残業しているカフェに戻ってくる。トーマスはそっと暖かい飲み物を差し出し、クッキーづくりに戻る。興味深く作業をみつめるイタイと、やってみる?と無言で問いかけるトーマス。このあたりは小さかったトーマスと祖母のやりとりなんだろう。

本作は台詞が結構少なくて、役者の表情、音、景色に語らせる場面が多い。この手の「読む」映画は大好きなので、肌にあうとガッツポーズしたくなりますね。

パン種みたいにムチムチしているトーマス

アナトの英語アクセントがよい。雰囲気はガル・ガドットを思い出す


食と生きる悦び

オーレンという軸を失って悲しみに暮れるふたりが出会い、ケーキ作りを通して心がつながっていく。食事は生きることであり、人生の希望をみつめなおす儀式でもある。宗教的慣習の違いに戸惑いながら、食べること、生きること、そして愛することに正解はないことを、静かに伝えてくる。

オーレンは1年間にわたるベルリン出張デートの間に、トーマスと確実に「人生」を組み立てていく。そこにはテロの恐怖もないし、戒律の厳しさも、家族のわずらわしさもない(こう書くと誤解が生まれそうだが、愛する人と向かい合うふたりだけの時間が、イスラエルにはない)

天涯孤独でベルリンにステディな恋人もいないトーマスに対し、オーレンは「家族は大事だ、ひとりで生きるのはさみしい」という。「仕事も家も生きがいもある」と反論したかれをみてドイツ移住を決めたのかもしれない。その後、妻に「好きな人できちゃったので出てくわ」と告白→アナトぶち切れ→追い出される→ホテル行く途中で事故死Ω\ζ°)チーン なので、オーレンの自業自得って感じもします。あいつ、トーマスと暮らしてもぜっっっっっっったい遊んでたぜ…そういうタイプや…


監督のインタビューより「トーマス以外はイスラエルでも有名な役者たち。配役は夢のよう。トーマスは100名ほどのオーディションののち決定。ティム・カルクオフが子供時代を語るモノローグの動画をみて監督は『かれに会わなきゃ!』と思ったらしい。ティムは8㎏増量し、ベイキングを学び役にはいる準備をした」「ケーキつくって、食べて、のくりかえし。最高の役作り!」
「亡きオーレンの母はユダヤ虐殺に近い世代だが、本作で最もトーマスの理解者のようにもみえる。ドイツとイスラエル=ユダヤの関係性は深く描かれないが、ふとした瞬間に顔をみせる」
「ユダヤ教のコーシャー(食物規定)について。乳製品と肉は分けて調理する、オーブンはユダヤ人でなければ使えない等、規定を守り宗教的に正しい食事を提供するのが信頼の証しである。”コーシャー証明書”を取得するレストランも少なくない。現代ではキチンと戒律を守る正統派vsフレキシブルに生きる世俗派にコミュニティは分かれてきており、アニトはリベラルなので、安息日=シャバットで食前の祈りを息子に強要しない。宗教を軽視しているわけではなく、息子に戒律や伝統に縛られず生きるよう願っているから」


好きな場面

トーマスと息子イタイが花をつんでいる庭、首のない女性の彫刻

ベルリンの家でオーレンとトーマスふたりだけの儀式

トーマスと関係をもった翌日、ベッドで泣いているアナト(まだ夫オーレンとの関係性に確信を持っていないゆえ)涙の理由が切ない

義理の兄のモティ、中東のジョージ・クルーニーで俺得

アナトとトーマス、ふたりで市場を歩く場面

夕食に招かれてキッパ(小さな帽子)をかぶせられるトーマス

最後、ベルリンにたたずむアナト。ベーカリーを閉めて立ち去るトーマス。トーマスがどうしてもイスラエルに来なきゃいけなかった理由が、彼女にもわかったはず


映画をみた翌朝、チーズと卵ときゅうりのサンドイッチをつくって食べました。カフェに初めて来たトーマスが食べたやつ。

全体的に余韻が素晴らしい映画でした。下半期トップ10にはいりそうです。駆け込み作品ずるいなー!


予告編



参考記事



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