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サステナビリティ意識の高い消費者

サステナビリティに配慮した購買を実現するには、購入側と販売側の双方が高い意識を持つことが重要です。企業は製品やサービスのサステナブルな側面を示す明快な社会的・環境的な価値の創出を示す必要があり、一方、消費者は、製品やサービスが与える社会的・環境的な影響について意識する事が求められます。

企業がサステナビリティをどのように自社の価値提案の中に組みこむかを模索する中、サステナビリティに対する消費者の意識や認識は、あらゆる企業の意思決定において欠かせないものになっています。しかし、しばしば企業側での消費者の意識や考え方に対する理解が欠落している事があります。
私たちの2022年の調査では、ブランドのサステナビリティに関する課題に対応するため、17の持続可能な開発目標(SDGs)の課題に対する**消費者の意識を測定する「サステナビリティに関する意識スコア(Sustainability Consciousness Score)」**を開発しました。

SDGsの開発目標をサステナビリティに関する6つの側面に分類することにより、私たちはサステナビリティの意識が低いレベルから高いレベルまで、調査参加者を5つの集団に分類して正規分布曲線上にマッピングしました。このスコアは、ブランドのサステナブルな提案に対して消費者が関心を持つ可能性を表しています。

ここから導き出されたスコアによって、消費者の各グループの行動、態度、属性などの特徴を分析することができ、ブランドの優れたビジネス戦略やサステナブルな製品・サービスの設計を支援することができるようになります。

SDGsに関するマスメディアの報道や、サステナブルな提案を行う企業の増加により、過去12ヶ月で消費者の意識は向上していることが分かっています。消費者全体が高い意識レベルへ着実に移行しておりますが、それは一部を除いて劇的とまで言える変化ではありません。

人口曲線のピークがスペクトルの中間に位置するようになるには、現在のペースでは10年かかると考えられます。

サステナビリティに対する意識は、調査対象の世代間において比較的均等に広がっていますが、ベビーブー世代(1953-1964年生まれ)の意識が最も高くなっています。サステナビリティの6つの側面において、ベビーブーム世代を中心とする消費者が最も関心を寄せる目標は、「環境資源の管理」と「自然界の保護」となっています。

日本における意識
欧米におけるサステナビリティの意識の高い消費者はアクティビスト主導のイメージが強いのに対し、意識が高い日本の消費者は積極的に自ら情報を集め、よく考えて行動し、どの業界であってもお気に入りのブランドと深い関係を築く人々と定義することができます。こうした消費者は、影響力の強い大切な顧客となります。

彼らは企業のサステナブルな試みと向き合う時間とリソースを持ち併せており、サステナビリティを背景としたイノベーティブで高品質な製品とサービスに対する高い期待を抱いています。

サステナビリティは彼らが企業の製品やサービスの品質を見極める一つの基準となっています。

日本のメディアや口コミは、サステナビリティの行動を変えるきっかけとしては、一般的には最も影響力があり、企業や環境保護団体のによる影響が及ぶのは、より意識の高いグループに偏っています。

企業はサステナビリティに関する情報源として信頼されているという見方は、企業が行っている投資に対してポジティブな兆候だと言えますが、ソーシャルメディア上のインフルエンサーや有名人が発信するサステナビリティに関する情報に対して消費者の中で不信感が存在することも事実です。ファッションやスポーツなどのカテゴリーで、マーケティングを彼らに依存しているブランドにとってこのことは課題となっています。

日本ではブランドの不買運動はあまり一般的ではありませんが、不買運動が起こったとしても、それは一般的にサステナビリティに関するものではありません。この事実は、よりよい選択肢を選ぶことによってカテゴリーの移行が推進されるという考え方に重みを与えています。

消費者の理解
SDGsにより規定された最近のサステナビリティに関する考え方は、例えば「三方よし」のような日本固有の伝統的な考え方とは違い、言うなれば、輸入されたものであると言えるでしょう。様々な業界において、企業はサステナビリティ戦略をSDGsのフレームワークに沿って構築しているため、それぞれの企業は日本の消費者の中でSDGsがどのように捉えられているかをよく知っておかなくてはなりません。

私たちの調査によると、この1年間でサステナビリティに対する意識が低かった人ほど、SDGsの課題とサステナビリティという言葉を関連付けるようになり、全体の関連付けの割合が5%上昇したことがわかりました。

しかし、大多数の消費者の意識はまだ表面的なものにとどまっています。意識が低い層の多くは具体的なSDGsの目標を認識してはいないのです。一方、2021年から2022年にかけて、こうした意識が低い層がサステナビリティ全体に対する意識を高めた度合いが最も高いのもまた事実なのです。

意識の低いグループは、生活の質に直接影響を与える経済的な問題とサステナビリティを関連づける傾向が強く見られる一方、意識の高い層は、環境問題をより強く意識しています。

消費者の意識と国家の優先事項との整合性を高めることが非常に重要です。「ジェンダー平等を実現しよう」と「陸の豊かさも守ろう」が日本の課題として国連で強調されていますが、意識が高い消費者の間ではそうした社会問題よりも環境問題に意識が向いています。このギャップは、社会的課題がメインストリームのオーディエンスに徐々に認識されるにつれて、縮まりつつあります。

日本人に最も身近なSDGsの目標は「海の豊かさを守ろう」であり、海産物を主食とする島国にとって重要な課題となっています。サステナブルな食料生産は、社会的、経済的、環境的、地政学的な複合要因と結びついた、日本社会全体の課題といえます。

また、日本のコミュニティは、地域レベルで気候変動の影響を受けつつあり、土地や季節と結びついた伝統的な生活様式の維持が困難になるほか、地域活性化の上でも大きな問題となっています。

こうした課題に対して有意義な貢献をしようとする企業は、SDGsが大多数の消費者にとってはまだ異質で遠い存在であると感じられることに注意する必要があります。

消費者のシフト
2021~2022年にかけて消費者の考えが最も大きくシフトした分野は製品パッケージ(容器包装)でした(約25%上昇)。90%以上の消費者が、購入した製品が過剰包装であると考えており、77%の消費者が、サステナブルな製品パッケージを求めてブランドを変更する可能性があると回答しています。
この考え方の浸透は、新型コロナウイルスの流行による非常事態宣言が繰り返し発出された結果、比較的狭い日本の住宅に宅配便や食品関連のパッケージによる家庭ゴミが新たに蓄積されたことが原因であると考えられます。これは、海洋プラスチック、循環型イノベーション、プラスチックを敬遠し始めた国民感情などをメディアが問題として取り上げ、報道を繰り返すのと歩調を合わせています。

サステナビリティの分野における変革のためにインパクトのあるスタートを切りたいと考える企業にとって、あらゆる容器包装問題の解決は大きなチャンスとなります。

ポジティブな影響
Agency(エージェンシー)ー積極的な主体性ー日本では、自らの行動によってシステムを変えることができるという信念を表す「Agency」(エージェンシー)の意識が低く自らの行動が企業や市場、世界を変えられると信じている人の割合は、わずか25%にとどまります。

世代別に見ると、Z世代(1997年~2007年生まれ)は自身のエージェンシーに関して最も力があると感じており(約33%)、Y世代(1981年~1996年生まれ)は、社会的・経済的責任が増えてくることから楽観的な見方が影を潜め、自身のエージェンシーに関する評価が最も低くなっています。

エージェンシーを自覚する消費者は、自らのライフスタイルがもたらす影響に責任感を持ち、自らが生む悪影響を軽減する方法に取り組む可能性が3倍高くなっています。この事実は、ブランドがポジティブな影響を生み出す方法でサステナビリティを提案すれば、人々がそれに共鳴して明確なアクションを起こす機会を提供できる可能性があることを意味しています。

エージェンシーの環境問題への積極的な取組みは、2021年から2022年にかけて22%から24%に増加しましたが、その結果はサステナビリティに対する意識レベルによって二極化しており、意識の低いグループでは10%、意識の高いグループでは98%となっています。

この「環境」に好影響を与えるエージェンシーの強い信念は、「社会的」な変革に対するものよりも高くなっています。意識の高い消費者は、ブランドの選択を通じてだけではなく、通常の経済活動を超えてインパクトを生み出せる新しいチャンスを見出していると考えられます。

これらの結果から、企業が意識の低い大多数の消費者層に焦点を当てるだけでは、サステナビリティ・リテラシーの根本的な変化を見逃すことになることがわかりました。このような変化は、多くの組織が既に目指している目標設定とも重なっており、大多数の消費者に対してサステナブルな選択肢を取るよう後押ししながら、一方で、意識の高い集団に対してエージェンシーを発揮できる機会を提供することの重要性を示すものです。

移行のダイナミクス
よりサステナブルな製品やサービスを身近なところで簡単に手に入れたいと考える人たちがいます。この傾向は、サステナビリティの意識がミディアムの層において最もよく見られます。既存の製品やサービスを発展させようとする企業も、新しいカテゴリーに参入するチャレンジャーも、この層のニーズに応えることにより、価値を創造する機会を生み出すことができます。
サステナビリティに向けたカテゴリーの移行は、通常、ハイエンド側の新規参入から始まり、その後着実に、より一般的で身近なものになっていきます。

日常的な買い物とは異なり、自動車などの耐久財に関する意思決定は、全使用期間を通じてサステナビリティにさまざまな影響を伴うため、特に重要な意味を持ちます。こうしたカテゴリーの変遷は、消費者の意識レベルが高い場合でさえも理解することが困難であり、価値提案が複雑すぎると大多数の人には理解できなくなります。

このような状況で、方向性を決定し不確実性を排除するためには、政府の政策や規制が重要な役割を果たします。そこで、企業は業界団体やロビー活動を通じて政府と連携することになります。

どのような場合においても、説得力のあるストーリーを語り、消費者の選択を容易にする事ができる企業は、サステナビリティへ価値観が移行する時代において高く評価されるでしょう。サステナビリティが消費者に直接的かつ具体的な利益をもたらす場合、移行は急速に進み、構造が複雑な仕組みであったり提案価値が不明確な場合、移行は遅くなります。

心を動かされる様な価値はとても魅力的です。意識の高い消費者はすでにサステナブルな製品やサービスの購入を誇りに思い、サステナブルなインパクトを自らのアイデンティティの一部として捉えています。顧客はブランドを仲間と共有し、自らの価値観や信念を表現する上で信頼できる存在としてブランドを利用するようになるため、ビジネスにおいて好循環が生まれます。
あらゆる規模の企業が、こうした機会を活用することができます。テスラのような大企業は、電気自動車を大衆の憧れの的として位置付けることにより、業界全体を活性化させ、グローバルなレベルでの移行に成功しました。一方、mymizuのような日本の小規模なスタートアップ企業は、認知向上のためのクレバーな仕組みをユーザー体験に組み込んで、エンゲージメントを構築する好循環を生み出しています。

食品業界は、サステナビリティと健康がフードシステム全体で相互に影響を及ぼすことにより、業界全体の移行や好循環がすでにインパクトを与えている好例です。

意識の高い消費者の指向性は、他のどの分野よりも食品業界において顕著に見られます。食品は、人々のサステナビリティに関する意識の中核にあり、社会と環境にインパクトを与えようとする企業や組織にとって、すでに教訓を与えることができる領域にまで到達しています。