見出し画像

個と組織のパーパスから生まれるサステナビリティ

この記事は、当社の調査研究をまとめて刊行致します、「Sustainability in Japan 3: 再生型ビジネスへの道」から抜粋したものです。英語版はMediumで入手可能です。

はじめに

Project MINTでは、「人生100年時代に、パーパスとともに生きる大人を増やす」をミッションに、学術的知見に基づくプログラムとコーチング、コミュニティによる​「大人の自己革新」のための学びを提供しています。日本の画一的な学校教育に長年疑問を感じていた植山智恵さんは、勤めていた大企業を辞め、次世代型教育機関と呼ばれるアメリカのミネルバ大学大学院でパイロット生として入学。卒業後、自身の学び直しの原体験をもとにProject MINTを立ち上げました。個をエンパワーメントするプログラムから企業が学べることを、植山さんに聞きました。

どのようなきっかけでプログラムに参加する方が多いのでしょうか?

きっかけは、自分の中に“違和感”を感じ、なんとなく職場の人と心から通じ合わないような気持ちや、このままの自分でいいのかと漠然とした不安が生まれたときです。そこでプログラムを通じて自分の望む人生の軸を客観視し、変わりたいと思う方々が集まっています。内省する時間が増えたコロナ禍はひとつのトリガーになり、人生を見直した人も多かったようです。

MINTという名前には、どのような意味が込められているのでしょう?

大人の学びはエンドレスです。だからこそ、自分の存在する意味を意識し(=Meaning)、自身の生きがいを知り(=Ikigai)、共感する人と繋がり(=Network)、そして変革への行動を踏み出す(=Transform)ことを大事にしたい。パーパス・ドリブンには個人主義的な要素がありますが、やりたいことを具現化するには誰かに背中を押してもらうことが必要なときがあります。私も原体験として教育の分野に転身する際に、周囲からの共感や励ましに勇気をもらい、道を切り拓くことができました。

また、MINTは「メンター」と「インターン」という言葉の掛け合わせでもあります。この両面を持ち合わせた大人がもっと増えれば、無限に学び続けながらより良い社会を作っていけるのではないかと考えています。

そのような考え方は、企業や組織レベルにも汎用性がありそうですね。

個人のエンパワーメントは働く上でのサステナビリティに繋がります。組織と従業員が互いのパーパスを理解し合い、信頼関係で結ばれていることが大切です。例えば採用面接では、その人の人生の目標を踏まえつつ、いかにして組織のパーパスの実現にも貢献してもらうかということを率直に話し合うことが理想です。究極的には互いのパーパスの重なり具合を意識でき、透明性の高い、健全でサステナブルな環境をつくれると思います。

プログラムでは、参加者同士に利害関係がないから本音で話し合える部分がありますが、組織の中でも心理的安全性を確保しつつ、こうした対話が可能だと思います。個人がやりがいのある仕事を希望して異動したり、共感する人と働くことで、イノベーションを生み出すことができると感じています。

プログラムにあるU理論*のプロセスは、組織の視点で置き換えるとどんな有益性があると思いますか?

グループラーニングの中で使用するU理論では、自分が何者であるかをじっくり観察し、自身の無意識の思い込みや思考をメタ認知し、それを受容して向き合いながら、自分の目指すところに向けてどのような行動をすればよいのかを導きます。しかし、組織内で常にU理論のプロセスを社員に求めてしまうと、オペレーションが回らなくなります。かといって、業務の効率化や改善を目的としたPDCAサイクルのみを追求していくと、それに必死になり自分自身が置き去りになってしまう。それではウェルビーイングを損ね、チームワークが崩れてしまいます。ですから、PDCAサイクルとU理論のバランスが大事だと思っています。

*マサチューセッツ工科大学のC・オットー・シャーマー博士が生み出した、過去にないイノベーションや変革を起こすための原理や、その能力を引き出すための実践的なプロセスを示した理論

組織と個人の関係性における日本と欧米の違いは?

ジャッジメンタルにならずに互いのニーズを聞き合う職場環境は、欧米でも十分にできていない部分だと思います。例えば「クワイエット・クイッティング」がトレンドになったように、自分にとってより良い条件を企業から引き出すための戦略的交渉をするという、防御的な側面が結構あるのではないかと思われます。透明性を完全に実現した状態で、社員も雇用主も対等であるような信頼関係を醸成できているかはわかりません。

一方で日本人は組織に合わせることを優先し、自分のニーズを言語化できていないことが欧米との違いだと思います。働くことでウェルビーイングを高める、自分のパーパスを果たすという考え方はそれほどありません。働き方が変わる中で、個がパーパスを持ち、それを組織にオープンに話せる環境にしていくことが、今日本に求められていると思います。

それはウェルビーイングに繋がってくることですか?

組織と個人のパーパスの重なり合いはウェルビーイングを高めるひとつの要素で、従業員のウェルビーイングは組織全体の生産性や創造性に直結することが研究で明らかになっています。¹企業が掲げるパーパスに共鳴するものがあれば一緒に取り組みましょうという姿勢は、共感で人を導くことができ、多様な考え方を持った社員の主体性を引き出せます。それが結果的に社員のウェルビーイングより生産性を優先しようという営利主義から脱却し、サステナビリティへと結びつくと思います。

大企業では人事戦略としてウェルビーイングを重視し試行錯誤している段階にあると感じています。まずは、ウェルビーイングと生産性は一方を尊重すればもう一方が成り立たないのでは、というトレードオフの考えを捨て、社員が個人のウェルビーイングやパーパスを話せるような心理的安全性の高い環境をつくり、それを長期的に醸成する覚悟を企業が持つことが大事なのではないでしょうか。

「個を大切にする教育をしたい」──自分の思考を丁寧に読み解き、たどり着いた植山さんのパーパス。それから生まれたネットワークから彼女の人生の新しい物語が動き出しただけでなく、唯一無二の社会的価値を生んでいます。自分のパーパスはなんだろう。これは自分のウェルビーイングを高める上で誰もが今日から問い直す価値のあることです。そして自分だけのパーパスをもち、企業も個も互いに尊敬して高め合っていけたら、より興味深く、より流動的でサステナブルな社会を作っていけるのではないでしょうか。


参考文献

  1. Krekel C., Ward G., De Neve J. (2019). Employee wellbeing, productivity, and firm performance: Evidence from 1.8 million employees. https://cepr.org/voxeu/columns/employee-wellbeing-productivity-and-firm-performance-evidence-18-million-employees


ファブリックは、企業がより革新的で持続可能な未来に向かって進むことを支援し、戦略的デザインの構築やサステナビリティ活動が直面する、様々な課題の解決を支援するコンサルティング企業です。2004年の設立以来、東京を拠点にグローバル企業や地元企業に対してデザイン思考、サステナビリティに関する知見、深い人間洞察力を結集し、優れた戦略をクライアントに提供しています。



この記事が参加している募集

SDGsへの向き合い方