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最後に:より人間らしく

この記事は、当社の調査研究をまとめて刊行致します、「Sustainability in Japan 3: 再生型ビジネスへの道」から抜粋したものです。英語版はMediumで入手可能です。

これからの従業員との関わりかた

会社は変わることができるか、社会にどんな影響を与えられるか、全てはその会社の「人」次第です。

従業員がそう思っているかは別として、彼らこそが変革を起こす原動力となります。だからこそ、人を中心としたアプローチは変革を加速させることができるのです。

全ては「人」から始めるということです。なぜなら、従業員にとって良いことは、再生型ビジネスにとっても良いことだからです。

新卒者として就職活動をしている人がいるとします。気候変動、世界中で起こっている対立の構図、そして彼らの生活やキャリアに影響を与えるかもしれないAIの台頭などによって、彼らには未来が暗く映っているのではないでしょうか。

彼らは信頼できる企業を探し求めているのでしょう。経済的な満足だけではなく、幸福と
成長をもたらし、目的意識を持たせてくれる仕事を求めています。自分が変革の主役になるとはまだ思えないかもしれませんが、意見を受け入れてくれ、変化を起こすことのできる環境で働くことを望み、多くを求めているのではなく、ただ単に受け入れてほしいと願っています。

彼らは自分自身を認めてほしいのです。そして言葉を聞いてほしいのです。

伝統 vs 再生

伝統的な企業はこうした新卒者にとって将来に続く一つの道なのでしょう。高給が約束されている、心を動かされる企業なのでしょう。

新卒者たちはこのような企業を調べていく過程で、成果よりも年功序列を優先し、チームに過重労働を強い、排他的な文化を持つ企業が存在することを学び始めます。このような企業文化を持つ企業は彼らの世代が抱いている期待にはそぐわないでしょう。

面接では、企業のパーパス(存在意義)、社会における位置付け、どのようなコミュニティに所属しているかなどを明確に話すことができない現社員と接することになります。ここで出会う現社員たちは、新しいテクノロジーに関心がなく、会社の伝統や主力製品やサービスにフォーカスするばかりです。

このような企業はあたかも巨大な機械のように見えます。プロフェッショナルでありながら非人間的で冷たく感じられます。本質的にこれが普通の見え方でしょう。

彼らは今も企業の名声やステータスが高いからと言って、この種の組織に参加するには重圧を感じています。

それでは、再生型ビジネスを実践しようとする企業と比べてみましょう。

その企業の社員はその前向きな企業文化について、また仕事において、また私生活において、世界に与える影響について熱心に語ります。社員は在籍する部署や年次にかかわらず快適な状態で仕事をこなし、積極的に独創的な提案をしています。

イノベーションは結果ではなく成長の過程です。企業のサービスや製品をと同様にビジネスモデルの中核を構成する要素であり、企業を構成し、更に再構築を繰り返すために必要なことです。

そのようなことを実践する企業では、チームも個人も共に成長を期待できる建設的なフィードバックを常に共有し、意見が反映されるような環境で仕事することができています。そしてリーダーたちは、自分たちのファシリテーターとしての役割をしっかりと認識し、社会や地球を、広い意味での企業のエコシステムにおける重要なステークホルダーとすることを理解しながら仕事をしています。

このような考え方によって、時間をかけて企業をコミュニティの一部と感じられるように適応させていくことができます。このコミュニティという概念が大事なのです。企業が存在す地域社会に対する従業員のボランティア活動を奨励し、地域の持続可能な発展を促すのです。

そしてこの考えかたはビジネス・パートナーシップにも拡大され、競合他社はシステミックな変革に取り組む協力者としてみなされ、すべての人がともに成長することになるのです。

さて、新卒者はどちらの企業を選択するでしょう?そしてどちらが今後のビジネスモデルのあり方に近いといえるでしょうか?

今より豊かな未来に向かって

これからの従業員を力強くサポートして、変革の担い手に育成したい企業は、再生型ビジネスに焦点を当てましょう。

そうすれば、より人間中心の組織に生まれ変わります。以下のことを重視するべきです。
 ・個人と組織全体を幸福度を高めることを優先する
 ・会社全体でパーパスを共有し、そして浸透させる
 ・イノベーションを起こす精神を育てる
 ・コミュニティを受け入れ、組織内での協力と共感を大切にする
 ・組織や業界全体を効果的に変革できる鍵となるポイントを見つけ出す

このチェックリストで示していること全てを連動させることが重要です。 再生型ビジネスは目標を持って全員で協力し合い、シナジーを生みだすことを追求するべきものです。

従業員たちが組織の一員として尊重されてこそ、彼らは失敗を恐れることなく、精神的な安心感と組織への帰属意識が高められ、イノベーションを起こせるのです。企業側は失敗を学びとして受け入れてこそ、従業員たちの核心をついた挑戦的で新鮮なアイディアを手に入れることができるのです。競合会社を協力者とみなすからこそ、より競争力のある突破口や新たなパートナーシップと連携のあり方を想像することができるのです。

これらのことは全て個人と集団の目的意識につながり、ウェルビーイングを醸成します。

その結果、努力に対してより大きなプラスのリターンを得られるのです。つまり、得ることの方が大きくなるということです。

多くの企業が劇的なイノベーションと成長を目指している一方で、そのほとんどの企業は未だに限りある資源をめぐり、市場のシェアを奪い合うゼロサムゲームを繰り広げています。
資源の不足は今や前提条件です。自然資源の減少と日本の人口減少はあたかも同じ道を歩んでいるようにも思えます。

再生思考は、ダイナミックな生態系が展開されている土地には充分な肥沃が存在しているはずだという考え方の上に立っています。更に、その生態系がますます成長できるような良い環境を作ることで、肥沃もますます豊かになります。
これが自然の摂理なのです。これをビジネスに適用することで全ての人々、ステークホルダーにとって大きく繁栄する可能性が見えてきます。

再生型ビジネスを目指す企業が変革を進めるためには、多くの部署に予算が必要になるように思われるかもしれませんが、組織の中で各部署が解決策を共有し結束が強化されるため、仕事の効率化により、むしろ外部からの予算投入は必要ないのです。再生思考はダイナミックに部署間での相互作用が生まれるので、より多くの成果を生み出します。

従業員たちはこの再生思考による変革をもたらす触媒的な役割を果たします。まずは、従業員が組織内外の人のつながりを大切にでき、自己表現の機会を提供できるような充実した環境を整備することで、どんな企業でもビジネスに、コミュニティに、社会や環境に、影響力を広げることが可能となります。

鍵を握るのは従業員たちがどれだけ人間らしくいられるかということです。従業員を個人として尊重し、またコミュニティの一員として扱うことですが重要です。そうすることで、広範な成長が可能になるのです。

従来の企業モデルは、機械のような血の通わない会社づくりでした、これでは従業員たちは同僚とのつながりも希薄になり、孤立してしまいます。AIやその他の先進的なテクノロジーが未来の仕事の仕方を変えていくでしょう。企業はこの社会の変化のなかで、もっと人を中心とした、再生可能型の事業モデルを取り入れるべきで、過去の過ちを繰り返してはいけません。

より人間らしく。この言葉は今こそ必要な言葉です。従業員たちにとっていいことが、つまりは再生型ビジネスにとっていいことなのです。

日本の再生型ビジネスの今後

多くの日本企業がサステナビリティを企業戦略に取り込もうとしていますが、再生型ビジネスの概念は複雑になり、遠ざかっていくように思えます。新しいアイデアを取り入れようとすると抵抗にあうのが常ですが、再生型ビジネスの場合、多様で複雑な課題があります。

どんな変革にも抵抗が伴いますが、特に気候変動や多々ある重大な課題を考慮すると、再生型ビジネスモデルの価値は、リスクを遥かに上回ります。

再生的な思考や行動は、新たなイノベーションの種を見つけ出し、従業員たちの可能性を最大限に引き出し、共通のビジョンに合わせて協力し、従業員たち個々の力を理解しながらリソースの最適化を果たします。

それは、個人、企業、コミュニティ、社会の全てのポテンシャルを最大限に活用することを意味しています。日本企業では、昔から従業員の相互依存関係がすでに文化として成立しています。
過去に日本の成長を牽引してきた強靭さと想像力を生かしながら、再生思考は、人材を含めたあらゆる意味での資源が限られているように見える状況の中でも、日本をもっと繁栄させることができる考え方です。
この変革はすでに始まっており、今行動を起こす企業、変革の先頭に立つ企業が大いなる可能性を掴み、日本のビジネスの未来を形作ることになるでしょう。


ファブリックは、企業がより革新的で持続可能な未来に向かって進むことを支援し、戦略的デザインの構築やサステナビリティ活動が直面する、様々な課題の解決を支援するコンサルティング企業です。2004年の設立以来、東京を拠点にグローバル企業や地元企業に対してデザイン思考、サステナビリティに関する知見、深い人間洞察力を結集し、優れた戦略をクライアントに提供しています。

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