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月よみ堂 (古本バル)

 古書店で本を買うのは気軽で楽しい。

 どんな出合いが待ち受けているかわからない意外性もいい。思いがけず手にした未知の、それも結構昔の本がおもしろかったとき、世のなかにはこんな本があったのかという感慨とともに、その本が経てきた時間を想う。それを書いたひとや読んだひとのことを想像する。
 
 古書店へは、気合いを入れるのではなく、緊張をゆるめるために行く。

 それはひとりで飲みにいくときの感じと近い。気持ちがほんの少し上向きになればいい。古本バル「月よみ堂」では、お酒と本が同時に手に入る。コーヒーもおいしい。

 本棚は冷蔵庫に似ている。なかみを見れば、生きかたや好みがわかる。暮らしが想像できる。そのひとが何でできているかも、わかるかもしれない。日々口にするものが大切なように、目にするもの、読むものは大切なのだ。

 私の本棚はアクティベートされている。室内装飾ではなく、冷蔵庫に近い。それで私は本を買うときも慎重になる。図書館で一度「試食」してから書店に向かうこともよくある。その本はうちの小さな本棚に置いていいものかどうか、しばらく考える。それでもたまに、センスのある書店員のいる店で、衝動買いをすることがある。

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