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Interview#61 アマムダコタンのうれしいサンドイッチとドーナツ

食の仕事に携わる人々のパンとの関わり、その楽しみについて伺う企画、第61回、62人目は、東京では青山通りの両側に長蛇の列をつくる「amam dacotan表参道店」と「I'm donut?渋谷店」の時の人、平子良太シェフです。
お皿にのせてナイフとフォークで食べたくなるような、魅惑的なビジュアル。ワンコインで手に入る、ガストロノミーの入り口。それは「自分がお客さん目線」であることをいちばんに考えるところから生まれていました。

料理人が考える、うれしいサンドイッチとドーナツ

株式会社ヒラコンシェ代表 平子良太さん

アマムダコタンの誕生秘話

「アマムダコタン」は最初、「パスタ食堂ヒラコンシェ」のパンを焼く場所と考えて計画していたんですが、オーブンやミキサーにこだわっていったらすごいスペックの厨房になってしまって、これはパン屋をやるしかないな、と途中で気持ちを切り替えました。それがアマムダコタンになりました。ぼくのこだわりは、ほとんどすべての素材を手づくりしていることです。マヨネーズ、カスタード、あんこはもちろん、ハムやリコッタチーズなども、既製品でなく手づくりということは、ぼくからしたらあたりまえのことなんですよね。

「パンストック」の平山哲生さんには、アマムダコタンにパンを教えに来てもらったり、ぼくが惣菜を教えに行ったりしています。パンストックがオープンした頃、ハード系が多いお洒落な店だな、というイメージがあって、ぼくは食べるなら柔らかいパンが好きと思っていたんだけど、忘れもしないのが最初に食べたかぼちゃのリュスティックです。まわりは硬いんですが、歯切れがよくて中がモチーッとしていて、おいしすぎて感動したんです。一番好きなのは、白ストックというパンです。ブールみたいな見た目なんですけど、こんなパン食べたことないって多分思いますよ。皮が薄くて軽いんです。それがパリッと割れる感じで、クラムがすごいモチモチしていて、あれはかなり感動しますよ。

感動的なパンとドーナツ


ぼくは料理人なので、包餡っていうんですか、生地に具材を包んで焼くパン屋さんならではの方法を、いいなぁと思っていたんですが、アマムダコタンを始めた頃、料理しながら目の前のお客さんを見ていると、例えば同じソーセージでも、包むのか挟むのかで反応がまったく違うということに気がついたんです。中身が見える方がテンションが上がるし、うれしいんだなとわかったら、具材の見え方や色合いを意識するようになりました。
当時はパンを焼くスタッフが二人しかいなかったので、5種類くらいのパンを、ぼくがどれだけ広げられるかというのがあったんです。食パンでクロックムッシュを、丸いパンでサンドイッチを、何種類もつくりました。クロックマダムも。卵は低温調理なので、半熟だけど火はしっかり入って、黄身が流れ出さないようにしています。一番人気の明太バゲットも、うちのはペペロンチーノ。明太子とバターだけじゃなくて、にんにく、パセリ、胡椒、そしてオリーブオイルも使っています。

最近人気の生ドーナツは、難しいんですよ。出来上がりのクオリティの許容範囲がすごく狭い。発酵も成形の仕方も温度管理も、何から何まですべての工程を正確にしないと、油っぽくて食べられないものになっちゃうんです。数はつくれません。他のお店は多分そこまでギリギリの戦いはしていないと思うので、そんなことはないと思うんですけどね。アマムダコタンの生ドーナツは、I’m donut? (同名のドーナツ専門店のシグニチャーメニュー)とは少しレシピを変えて、水分が多くて牛乳が少なめのブリオッシュ生地です。そうすると、よりとろける食感になる。時間が経つとつぶれたり油がしみ出てきたりするので、すぐに食べてもらわないといけません。

サンドイッチの主役はパンだけではなく

店を始める前、パン屋さんに行くのは好きだったんですけど、サンドイッチで満足したことはなかったんです。種類はいつもハムとか卵とかツナだけだったし、その具材も少なすぎたから。その頃よく目にしたのが「小麦の味を味わってもらうためシンプルにした」という理由でした。ぼくが小麦の味を味わいたいと思ったら、普通にバゲットやリュスティックを買うよ? なんでサンドイッチでも小麦の味を食べさせたいんだろう? サンドイッチのパンは大事だけど、具材だってソースだって、全部大事。それぞれの味や食感の違いがあるからトータルでおいしい、となるものなのに変だなって思ったんです。だから自分の店では、もっとこうだったらいいのにと思うものをつくってきました。

甘いパンも、ぼくは練乳バターサンドが好きなんですが、今まであまり種類がなかったですよね。それでレーズンバター、ピスタチオバター、そのバターを水切りヨーグルトでつくってみたり、それをチョコパンと合わせたり、塩キャラメルとチョコレートとナッツを合わせたり、ホワイトチョコとベリーを合わせたりと、いろいろやっています。

平子良太 / 株式会社ヒラコンシェ代表

1983年長崎県出身。高校卒業後、イタリア料理店、和食店などで研鑽を積み、福岡のイタリア料理店では料理長を務める。2012年「パスタ食堂 ヒラコンシェ」開業。2015年カフェ「ヒラコンシェ クラシック」、ドライフラワー専門店「コテジャルダン」、2018年ベーカリー「アマムダコタン」、以後系列店を続々オープン。2021年「アマムダコタン 表参道店」、2022年ドーナツ専門店「I’m donut ?(アイムドーナツ?)」を中目黒、渋谷、福岡にオープン。

NKC Radar vol.94より転載

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※上記は中目黒店の記事です。

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