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Interview#58 コーヒーを飲みたい人が通える、次世代へ向けたクラシックスタイル

2008年から続けているこのインタビューですが、バリスタは初めてかもしれません。食の仕事に携わる人々の、パンとの関わり、その楽しみについて伺う企画、58人目の今回はCAFÉ KITSUNÉ、ブルーボトルコーヒー清澄白河、Satén japaneseteaなど、いまをときめくカフェの立ち上げを行ってきたカフェプロデューサーの藤岡響さんです。

コーヒーを飲みたい人が通える、次世代へ向けたクラシックスタイル

バリスタ カフェプロデューサー 藤岡響さん

「カフェ八角塔」のブレンド

バリスタというのはコーヒーの専門職というイメージが強いんですけれども、最近はカフェをトータルにプロデュースすることも多くなってきました。カフェといってもいろいろあって、この八角塔(慶應義塾大学三田キャンパス旧図書館をリノベーションしたカフェ)のように日本の純喫茶といったスタイルのお店もありますし、シアトル系のお店もあれば、ブルーボトルコーヒーに代表されるような、アメリカ西海岸のお店もあり、オセアニアや北欧系のスタイルもある。土地ごとに飲まれているコーヒーも違えば、食べものも変わってくるんですよね。

ここのコーヒーは、蔵前でコーヒーとチョコレートをつくっている蕪木祐介さんと一緒にブレンドを考えました。エチオピアとインドネシアの、世界で最も古い「モカジャバ」というブレンドをイメージしています。サイフォンの抽出に合わせた焙煎で、ちょっと浅い深煎りにお願いしたので、余韻がすごく綺麗で、長時間飲んでいてもずっとおいしさが持続するという特長があります。喫茶店のコーヒーは、この長時間というところが重要なポイントです。

スロードリンクという言葉

ぼくは生まれが吉祥寺で、レトロな喫茶店が多いエリアで育ったんですが、その頃と今の違いは、使用する素材だと思います。昔はコーヒーを注文すると、ゆで卵やトーストなどがサービスで付いてくる感覚でした。今はどちらかというと、パンなどの食材をコーヒーの質に合わせて選ぶようになってきています。ぼくも原価だけで考えるのではなく、トータルのストーリーまで含めてプレゼンテーションするような店づくりをしています。

クラシックスタイルの喫茶店をこの先何十年も、いい形で残していくためには、空間ばかりでなく品質管理もちゃんと行って、現代の良い食材でクラシックを表現するのが大事なんじゃないかと考えるんですよね。職業柄、ソムリエとも似てくると思うんですけれども、その素材がどういうところでつくられたものなのか、テロワールだとか、育った環境のストーリーまでも、やっぱりきちんとカップに投影させてあげたいと思うんです。抽出する時間というのは、ものの3分、かかっても5分くらいで基本ファストなので、「ファストドリンク」って言葉はないんですけど、逆に「スロードリンク」って言葉はあってもいいと思っています。お客さまが来店してから飲み終わるまでも一瞬なんですけど、豆がぼくたちの元に届くまでのその背景には、ものすごい時間がかかっているから。

クロックムッシュは温かさが大事

サンドイッチというのは、カフェでは難しい立ち位置です。冬は注文が入らなくなってしまうし、家庭でもつくれるイメージがあるので、どこまで付加価値をつけられるかが勝負。その点、クロックムッシュは意外と家では食べないし、気軽に温かいクロックムッシュを食べられる店って少ない、ということを意識してつくりました。こういうものは温かさが大事です。ベシャメルソースとチーズがトロッとなる感じ。チーズはチェダーとパルミジャーノ。ハムは塩味がしっかりあるモルタデッラを使い、食パンは近くの「銀座に志かわ」で調達しています。パンが柔らかく甘めなので、ベシャメルソースとも一体感を味わっていただけます。ここは街の喫茶店というよりホテルのラウンジやミュージアムカフェ、銀座の高級な喫茶店のイメージなので、ナイフとフォークを添えています。

コーヒーとパンの酸味の話

少し前に、仙台や福岡の最先端のコーヒーショップでモーニングを食べたんですが、どちらもたっぷりの野菜にパンを添えたプレートでした。仙台ではライ麦系の黒パンを薄くスライスして、おそらくフライパンとかでカリカリにトーストしてあって、山盛りの野菜サラダとともに出していました。福岡ではスライスしたバゲットと、チーズがふんだんにかかったサラダ。こういうプレートスタイルが増えていると思います。サワードー系のパンも多いんじゃないかな。昔は苦いコーヒーと甘みのある食パンのワンパターンだったのが、今はコーヒーもパンも、いろんな酸の質に合わせて複雑に組み合わせるという選択肢が増えたんじゃないでしょうか。おもしろいと思います。

藤岡響 バリスタ/カフェプロデューサー

東京都出身。2005年よりバリスタの道を志す。「CAFÉ KITSUNÉ」等多くのカフェ、コーヒーショップの立ち上げに携わり、2015年「ブルーボトルコーヒー清澄白河」の立ち上げに参画、トレーナーとしてバリスタの育成に携わる。日本の日常に寄り添う独自のカフェスタイルの構築を目指し、2018年西荻窪に「Satén japanesetea」をオープン。2020年独立。コーヒー、日本茶等の商品開発、店舗プロデュース、専門学校講師等を行なっている。

NKC Radar vol.91より転載

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