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立場が逆転する?フロドとサムの関係を深掘りする!

 『ロード・オブ・ザ・リング』を、熱く語りたい!

 という訳で、まずは、『ロード・オブ・ザ・リング』のメインキャラクターである、フロドとサムの関係に注目しよう。

はじめに


 フロドとサムの関係というと、どのような印象があるだろうか?パッと思いつくのは、指輪の力に徐々に支配されていくフロドを、何があっても支え続けるサム、という関係。それはたしかにそうなのだけど、でも、それだけじゃない!と言いたい。
 実はよく観ると、物語を通して、ふたりの関係はどんどん変化している。そして、さまざまな困難を乗り越えるたびに、ふたりの絆が強くなっていくのである。ふたりの何物にも代えがたい信頼関係は、最初からあったわけではないのだ。その変化を、深掘りしていきたい。

『旅の仲間』


 そもそものふたりの関係は、屋敷の主人と庭師で、なおかつ友人である。ビルボの誕生日パーティーでは、仲良く同じテーブルでお酒を飲んでいる。この”主人と庭師”という関係は、物語を通して変わらず、サムはフロドのことを”フロド様”と呼び続ける。(“フロド”と呼ぶ場面もあるにはあるが。)
 けれども、ふたりは友人でもあり、あからさまな上下関係があるわけではない。まず、その関係が素敵。雇い主だけど友達という、現代では考えられないゆるさがホビットらしさのひとつなのかもしれない。まあ別に、雇い主と友達になりたいとは思わないけど。

 『旅の仲間』の序盤で注目したいのは、二点ある。まず、ビルボの誕生日パーティーの場面。想いを寄せるロージーをチラリと見つめるサムに対して、フロドが背中を押しているのだ。この場面では、文字通りに背中を押して、サムの恋路を後押ししている。
 次に、ふたりが旅立っていく場面。自分が行ったことのない土地を目の前にして、一歩が踏み出せず、立ち止まってしまうサム。フロドは、そんなサムが一歩を踏み出せるように、ビルボの言葉を交えつつ励まし、一緒に歩き出すのである。
 このように、『旅の仲間』の序盤では、”あと一歩勇気が出ないサムと、それを勇気づけるフロド”という関係なのである。改めて意識すると、最初の印象とはだいぶ違うのではないだろうか。ここからどのように変化していくのか、見てみよう。

 旅立つ際にガンダルフに「フロドを見失わず、守れ」と言われたサムは、それを忠実に守っていく。見知らぬアラゴルンが現れた時も、アモン・スールの見張り塔で黒の乗手にフロドが襲われた時も、率先してフロドを守ろうと立ち向かっていくのだ。(実際に、サムがいつも先頭なのを確かめて欲しい。)
 旅が困難なものであると実感するにつれて、サムの眠っていた勇気が目覚めていく様は、見ている方も勇気づけられる。ここから裂け谷、モリア、ロスロリアンとサムは勇気を育てながら、献身的にフロドに尽くしていく。

 一方で、意外にも、フロドがサムを明確に頼るシーンはまだ見当たらないのである。この時点のフロドにとっては、サムは良き友人ではあるが、信頼できるパートナーにまでは至っていないのかもしれない。
 それが変わるきっかけとなったのは、おそらく『旅の仲間』の最後、サムがフロドを追いかけて入った川で溺れかけた場面ではないだろうか。そこで、フロドは、溺れることすら厭わないサムの忠誠心というか、フロドを思いやる気持ちの強さを知ったのだろう。たったひとりでモルドールに向おうとしていたフロドにとって、追いかけてきたサムの存在はどんな風にみえたのだろう。きっと言葉では言い表せない感情なんだろうなあ。

 さて、ここで旅の仲間がバラバラになり、ふたりきりになったことで、フロドとサムはさらに信頼関係を深めていくのである。ちなみに、ふたりになってすぐフロドは弱音を吐き、サムがそれを励ます、という関係がみられる。ああ、サムもフロドも大好き。

『二つの塔』


 『二つの塔』では、ふたりの関係に大きく影響を与える出会いがある。そう。ゴラムとの出会いだ。ここまでふたりが築いてきた信頼関係が、グラグラと、ガタガタと揺さぶられていく様子は、なんとも不安な気分になる。
 ”指輪の所有者”という共通の苦しみを経験しているゴラムに対し、フロドは気持ちを理解して、同情してしまう。一方でサムは、ゴラムは指輪を奪おうとしている悪党と認識しており、ゴラムに対する温度差が生まれていく。死者の沼地でゴラムに助けられたり、スメアゴルが登場することによって、フロドはさらにゴラムに心を許していくのである。
 さらに、この辺りからフロドは指輪の力に影響を受け始めるようになっており、精神的に不安定な状態になっていく。そんななかでも、フロドとサムはお互いに助け合って、モルドールへと進んでいく。

 くり返しになるが、ゴラムのスメアゴルとしての姿を信じたいフロドと、ゴラムの邪悪な面を冷静に捉えるサム。ふたりの認識の差は、広がる一方だ。この辺りから、フロド達のシーンを見ているのがどんどんつらくなってくる。どちらの気持ちも理解できるし、どちらが正しいかなんて分からないんじゃないかな。サムの判断が正しいと頭では分かる。でも、フロドからの信頼を得ることで、スメアゴルとしての姿を取り戻すゴラムをみると、何が正しいのか分からなくなる。

 こうして、指輪の力とゴラムの存在によりフロドはますますエネルギーを失い、何かを信じる力を失っていくように見える。この”何か”とは、サムの存在を含めた”この世の善きもの”じゃないかと思う。(メリーの言葉を借りました。)

 そして次第にフロドは、サムに乱暴に当たるようになる。にもかかわらず、サムの方は、それは指輪のせいであって、フロドのせいではないと考える。それが、なんとも胸を打つんだなあ。ありのままの本来のフロドを、ずっと信じている。さらに、暗黒時代の終わりも信じている。いつでも希望を持ち続けるのである。そして、フロドを勇気づけ続ける。ああ、サムよ、なんと心強いんだ。特にこの時のフロドにとって、サムの存在って本当に、何物にも代えられないよね。

『王の帰還』


 しかし『二つの塔』の終盤では、フロドはサムの喉元に剣を突き立て、『王の帰還』ではついに決定的な一言を放つのである。「家に帰れ。」と。このシーン、何度見ても胸が痛い。指輪の魔力とゴラムの策略で、ふたりの仲は裂かれてしまうのだ。こんなつらいことってあるの?ってくらいつらい。
 泣きながら階段を下るサム。心から信じていて、ずっと支えたいほど大好きなフロドから「帰れ。」って言われる。どんなに悔しくて、腹立たしくて、惨めな気持ちがしただろう。でも、ここで再び立ち上がるのが勇者サムワイズなのである!レンバスの屑を見つけ、ゴラムの策略にまんまとハマってしまったと確信する。フロドを助けなければ!と怒りの表情を見せるのである。普段、穏やかでのんびりと明るいサムとは違った一面が目覚めるのである。

 ここから、サムの勇敢さがが一段と増すように感じる。これまでは、重い使命を背負ったフロドを陰ながら支える存在だったのが、ここからのサムは、フロドをその重い使命ごと背負っていく存在になるのである。(伝わる?)とにかく、一層勇敢に、たくましく、頼りになるように成長するのだ。
 『王の帰還』の終盤では、座り込むフロドの手を引いて、立ち上がらせるのはサムなのである。最初とは、立場が逆になっているといってもいいほどの変化である。もちろん上下関係が逆転したとかいう話しではなくて、支え合いのバランスが変わった、というイメージ。

 そして、いよいよフロドが指輪の魔力によって立ち上がることも出来なくなると、あの名シーンにつながるのだ。フロドの重荷を背負うことは出来ないけど、フロドを背負うことはできる!とサムがフロドを担ぎ上げる。ああ、何度見ても泣ける。どんなにつらい状況でも、自分を丸ごと支えてくれる存在は、いるんだよって教えてくれてる気がする。そうやって、助けてもらえばいいんだよって。

 こうして、ふたりは支え合って、お互いに思い合って、指輪を滅ぼすことが出来たのだ。改めてこうして振り返ると、ふたりがどれだけ強い絆で結ばれているか実感する。大鷲に救出された後には、もう見つめ合うだけ。言葉なんていらないのである。

 そして、ホビット庄に戻ると、サムは自らロージーにアタックしに行くのである。もう、フロドに背中を押される関係ではないのだ。サムの成長は、本当にすごい!

 最後の最後、フロドの旅立ちのシーンを観ていて不思議と悲しくならないのは、フロドとサムがどんなに離れていても、その絆は永遠に変わらないと信じられるからじゃないかなあ、と思う。泣きながらも微笑みあって別れるのが印象的だよね。

おわりに


 さあ、フロドとサムの関係がどのように変化したのか一緒に見てきた。うまく伝わったか分からないけど、こんなにも大きく変化していたんだ!と書いていて実感した。一方で、お互いに思いやる気持ちは最初から最後まで変わらなかったんだなあ、と変わらない部分も感じることが出来た。

 ああ、なんか、もう一回『ロード・オブ・ザ・リング』、見たくなってきた!

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