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銀行で電話を取っていた頃の話

先日、元勤務先の銀行に電話をかける機会がありました。それをきっかけに自分の社会人1年目の頃を思い出したので、今日はそれについて書いてみます。

電話を掛けた理由は、自分で持っている銀行口座の諸手続のため。「元職員」ではなく、「客」としての電話。少し面倒な手続きになるので、ちょっと申し訳ないなと思いながら電話しました。

電話口に出た方は存じ上げない方でしたが、とても丁寧に対応してくださいました。
電話を切った後、ぼんやり思いました。かつての私は、あんなに親切に対応できていただろうか…と。

新人時代、営業店の後方事務として配属された私の最初の課題は「電話を取る」ことでした。

コールが鳴る数から外線か内線かを判別し、受話器を取って名乗る。内線なら、部署名と名前。外線なら、「お電話ありがとうございます、○○銀行△△支店、××(名前)でございます」まで。用件を聞いて、分からない最初のうちは、担当者へ取り次ぐ。

それだけなのに、緊張と恐怖から、慣れるまではなかなか電話を取れませんでした。どうしよう…と私がもたついている間に、近くにいる先輩が1コールでサッと電話を取る。恐る恐る受話器に伸ばした手を引っ込めながら、「取ろうとしなかったわけじゃない、先輩が先に取ったから…」とかなんとか、心の中で言い訳をしていました。夜寝る前に目を閉じると、電話のコール音が頭の中で鳴り響く…という日が続くことも。

それでも日を追うごとに、個人のお客様から直接かかってくる外線電話も慣れてきて、簡単な質問ならば答えられるくらいにはなりました。
そうすると少し自信もついてきて、今までは用件を聞きながら一語一句をメモしていたのも、要所要所かいつまんでまとめられる余裕も出てきて…そんな矢先の出来事でした。

その電話は、ご高齢の女性のお客様からでした。私でも答えられる質問だったので自分なりに丁寧に説明し、お客様も終始穏やかで、最後に「ありがとうございました」と言ってくださったので私は「失礼いたします」と伝えてお客様が電話を切るのを待ちました。

するとその時、それまでより少しトーンの低くて小さな声が電話口から聞こえてきました。

「何よ、陰気臭い」

ガチャ、と電話が切れました。

ショックでした。…今の声って、さっきまで感じの良かったご婦人の声だよな。
自分なりに「明るく、ハキハキと、丁寧に」応対することを心掛けていたつもりだったし、お客様も穏やかな口調で話してくださっていたのに…と。

ああ、だけど、相手からしたらそうは聞こえなかったのかも。自信のなさが声に表れてしまっていたのかも。隣の席のOJTの先輩にこぼしたら「気にしなくていいよ」と言ってくれたけれど、その日は一日中、その事がずっと頭から離れませんでした。ショックと、自分はまだまだなんだ…という悔しさと。「陰気臭い」という言葉から、自分の根暗な性格まで見抜かれてしまったような気がしました。

以降、私はそれまで以上に自分の電話応対の仕方を意識するようになりました。早口になり過ぎないように。一気に長々と説明をしない。元々滑舌が悪いから、電話口でも聞き取れるくらい発音は明確に。口を大きく動かす。相手には見えなくても、喋る時は表情を付ける。笑顔になるべきところは、ちゃんと笑顔で。

座学研修でも教わったしマナーブックにも書いてあったことばかりだけれど、知識として理解するのと実践で身に付けるのとではこうも差があるのか…というのを肌で感じた経験でした。

そんな経験が実ってか、異動先の支店で電話を取っていたら「電話を取る姿勢が積極的、応対もしっかりしていて周囲にいい影響を与えている」と期末の振り返りで上司から評価していただいたり、転職先の会社でも「すー(私)さんは電話のやりとりがとても上手ね」と褒めていただけました。素直に嬉しかったです。

…というのを思い出して書いていたのですが、何だか就活生の「あなたが困難を乗り越えた経験を教えて下さい」に対する回答みたいになってしまいました。

偉そうに書いてしまったけど、電話応対を知り尽くしたワケでは全然なく、大変さの多分ほんの一部しか理解できていないだろうな…と思います。コールセンターに勤務していたわけではないし、本格的なクレーム対応は上司に放り投げていましたし。
だけど、自分がそういう電話応対の大変さを少しでも知れたからこそ、自分がお客さんとして電話した先で応対してくれる方には、できる限りの配慮をしたいです。例えば、あらかじめ紙とペンは用意して、こちらが伝えるべきことも手短にまとめて、忙しそうな時間はできるだけ避けて…とか。これらを当たり前にやってらっしゃる方は多いと思いますが、あえて書き出してみました。自分自身への戒め、という意味も込めて。

私が支店にいた時は、電話は鳴れば取るけれど、もちろん電話応対にずーっと専念しているわけではなく、他にも抱えてる業務が常に複数あった状態でした。その間に別のお客さんを待たせていたりすることもあったり…。今なんて、コロナという未だかつてない状況下で当時以上にバタバタしていることかと思います。

そんな中でも、焦ったり慌てたりを声色に出さず、落ち着いて対応してくださった支店の方には頭の下がる思いでした。改めて心の中で感謝するとともに、今後お世話になる時も、なるべく迷惑なお客さんにならないように気を付けたいです。