【エッセイ】廃人になりたい
割と定期的に、でもいつ来るか分からない、それは、霧のように静かに私に忍び寄り、気づけば全身を包み込む。
廃人になりたい。
睡眠薬でも盛られたのかと思うほど、泥のように眠り、体は硬くなる。
朝日が眩しすぎる。
たぶん、間違って起きたドラキュラはこんな気分なんだろう。
私は私が面倒くさい。貝になりたい。
でも、仕事には行く。飼い慣らしている猫達の中で一番軽いやつを被る。おかげで廃人とはバレずに仕事ができる。
チクチク、チョキチョキ、シュッシュ、
縫って、ほどいて、アイロンかけて、
こういう時、今の仕事はちょうどいい。
無心になれる。
私を置いてきぼりにして、時だけが進む。
こんな自分を責め立てる日もあった。
そんな時、彼はよく休めて良かったねって、まともに家事ができなくても、空き巣が5人くらい入ったような部屋でも、いいよいいよって、言ってくれる。
私ひとりだったら貝を塩抜きして、粉々にしてしまうだろう。
自分で自分を許せるのは、許してくれる人がいるから。
割と定期的に、でもいつ来るか分からない、それは、砂漠に降る雨のように、気づけば全身に沁み渡る。
オタクになりたい。
ヘリウムでも飲んだかと思うほど、風船のように起きて、体が軽い。
朝日が心地いい。
たぶん、チョコレートを飲むカーミラはこんな気分なんだろう。
私は私が面倒くさい。植物になりたい。
今日も仕事に行く。可愛い猫達はお留守番。いつも通り軽口を叩きながら仕事をする。
チョキチョキ、チクチク、フフフ。
ほどいて、縫って、うん、綺麗。
こういう時、今の仕事が愛おしい。
心躍る。
私の手にある針は勝手に進み、時が止まる。
私は植物になりたい。
オタクになりたい。
貝になりたい。
そしてまた、廃人になりたい。
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