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【第四話】歩こうと考えるな。歩けると知れ。

とうとう物語は核心へ近づきます。
奥様が開ける「目覚めの扉」。
垣根を越える「過去」「現在」「未来」。
ついに目覚めるドリームタイム。

今回も少しボリュームある内容の全4,151文字の物語。それではどうぞ。


愛ちゃんが道を照らしたのは「僕」だけではなかった。
愛ちゃんは僕にしたように妻にも「新しい世界」を案内しようとしてくれているように見えた。
その1つが「海外旅行」だ。
僕は愛ちゃんに「バリ島」へ2度連れて行ってもらっているのだが、2度目は妻も一緒に連れて行ってくれた。妻はこの時初めての海外旅行だった。
いつか子供達も連れて皆でまたバリ島へ行きたいと思えるほど、この旅行が妻にとって良い経験になったらしい。

コロナ禍を経た頃になると、愛ちゃんが明らかに以前と異なるレベルまで上がっているように僕は感じていた。
愛ちゃんは自ら能力を開花すべく色々と人から学んでいると言った。
愛ちゃんとの会話には「オーラ」や「チャクラ」といった言葉が当たり前に登場するようになり、より「スピリチュアル」な方向へと向かっていった。会話の内容が難解になったのだが、そこは説明を求めるより自分の直感的な理解を頼ることにした。
ある時、何気ない愛ちゃんの会話の中で「父親とアカシックレコードを見に行った」という耳を疑うワードが登場したことがあった。

「アカシックレコード」とは宇宙誕生以来の全ての存在について、あらゆる情報がたくわえられているという「場所(?)」として説明されることが多いが、科学的な証明は無いとされている。

僕が疑うことはなかった。
むしろ、愛ちゃんがもはやそのレベルまで達したのかと素直に凄いなと思っていた。
だって会話がもうすでに凄いから。

僕は興味から一度愛ちゃんに聞いたことがある。「僕もアカシックレコードに行けるか?」

愛ちゃんは「誰でも見に行ける」と答えた。 
ただ段階があるので先に「過去世」を見に行った方が良いと教えてくれた。
新たなワード「過去世」の登場だ。
読んで字の如く、なんらかの方法で過去に行くことなのだと思った。

アカシックレコード、過去世どちらも僕は興味はあったがちょうど仕事の心配事で愛ちゃんに相談をしているタイミングでもあったので、当時は少し不安を抱えていた。
その不安はアカシックレコードや過去世に行くことで解消できるとは思えず、結局僕はどちらにも行くことは無かった。
行くなら心に余裕がある時に行きたいと僕は思っていた。

が、妻は違った。
僕の実家へ泊まりに行った時のことだ。
僕や子供達が寝た後に妻と愛ちゃんは2人で過去世へ向かう準備を進めていた。

過去世には「誘導瞑想」で行くという。
愛ちゃんに誘導してもらう形で瞑想を行い、更に愛ちゃんに過去世へと連れて行ってもらうものらしい。
事前に妻は「過去世に行くことは決して怖いことではなく、怖くなれば引き返せる」ということを説明してもらったという。
この言葉が「もし辛い過去や見たく無い過去に遭遇したしてしまったら」という心配を軽減してくらたらしい。

部屋を暗くして音楽など流しリラックスし、瞑想できる状態を作ったら愛ちゃんが問いかける形で誘導瞑想が始まる。

「あなたが1番安心する場所を思い浮かべて下さい」

妻は思いついた場所を愛ちゃんに伝える。

「外へ出掛ける為に服を着替えましょう」

自分が着替える姿を思い描く、どんな服装なのかを愛ちゃんに伝える。

このような感じで愛ちゃんの質問を頭の中でしっかりと思い描き、思い描かれた「モノ」や「出来事」を愛ちゃんに伝えるやり取りが続く。
この時、愛ちゃんも同じ映像を見ているのだと言う。だからこそ愛ちゃんに伝える、もしくは共有することが重要になってくるのだろうと僕は思った。

妻が思い浮かべたのは今住んでいる家だ。
愛ちゃんの誘導に従い着替えてから外へと出るがいつも見慣れた街と違いそこには無人の街が広がっていた。
もしもそこで「人」や「動物」、「虫」に出会ったらそれが「案内役」になるという。
その案内役が過去世へと道案内をするというのだ。

外へ出た妻は「案内役」を探すどころではなくまず「歩くこと」に苦労をしていた。
「自分の足で歩く」ということをイメージするのが難しかったらしい。

普段何も考えずに当たり前のようできている行動こそ、いざ頭で考えるとどういう手順でしていたか難しいことはなんとなく想像がついた。
妻は誰もいない街中を慣れないまま歩き続けていたが、ふと「怖い」と感じてしまった。
一度「怖い」と思うと気になってどんどんと怖さが増幅してしまう経験はないだろうか?
ここは妻の「脳内」である。
一度よぎってしまった「怖さ」は現実世界よりもより濃く影響が現れるのではなかろうか。
妻はついに泣き出してしまったという。

すると愛ちゃんから「一度戻ってみよう」と声をかけてもらった。
そう、怖くなれば引き返せるのだ。
ただ、この状態ではすぐに目を開けて起きるということができないらしいので、スタート地点に戻る必要があるという。
妻は慣れずに歩いて来た道のりを引き返し、出発した我が家へと帰った。
そしてソファーへと腰を掛けたところで愛ちゃんの「目を開けて良いよ」の言葉で起きた。

愛ちゃんと今の出来事をあらためて話をしてみて、少し落ち着ちついた頃には妻はもう一度チャレンジしたいと決めていた。
さっきなかなか「案内役」を見つけられなかったことも踏まえて、愛ちゃんも誘導を少し変えてくれた。

「あなたが最初に思い浮かんだ場所をイメージして下さい」

妻が思い浮かべたのは京都の清水寺の近く五重塔だった。
京都を思い浮かべたのは新婚旅行に行ったからだろうか。
慣れぬ土地のはずだが風景は鮮明で石畳が並ぶ坂道の中腹に立っていた。
2度目だからか、先程よりも歩くのに慣れたようだった。自分でも京都の街を歩いていることを実感していた。
相変わらず街には人が誰もいないが車が走っているの事がわかった。
車はまるでノイズがかかっているように不鮮明に見えていた。
少し歩くと祇園の八坂神社の近くにいることに気付く。
「ここを右へ行くと知恩院だ」
ここへ行けば正解という目的地が無いので、案内役と出会うまではとりあえず気になる所へ向かうしかなかった。
知恩院のある右側が気になり道を進むと、八坂神社の階段下へと到着していた。
すると今度は八坂神社が気になって階段を登りたくなった。
階段を数段登ると足元に暗闇が広がり進むことができなくなってしまった。

妻は愛ちゃんにこれ以上進めないことを伝えた。
すると愛ちゃんが言った。

「あ〜多分これ、このまま過去世に行くね」

しかしまだ案内役には出会っていない。
愛ちゃんは続けて言う。

「この先に案内役がいるかもしれないから、大丈夫だったら降りられるかな?」

つまり足元の暗闇に飛び込むということだが、妻は怖さは感じずむしろ案内役に会いたい気持ちが優っていた。

「うん、落ちてみる」
そう言って妻は暗闇へ一歩踏み出した。

スーっと落ちる体感があった。
例えるなら「アナと雪の女王2」で、エルサが氷河の中で過去を見に行った時に暗闇に落ちる感じに似ているらしい。

暗闇の底にスッと着地した。
何も衝撃はない。
周りを見渡しても暗闇だった。
すると愛ちゃんの声が聞こえる。

「下まで降りられた?じゃあここで案内役さんを呼んで歩いてみようか?」

「おーい、誰かいませんかー?」

妻は暗闇の先に向かって呼びかける。

そして過去世に来た「目的」を告げる。

「旦那さんとの過去世を見に行きたいのー、誰か連れて行って欲しいんだけどー?」

そう、妻が今回「過去世に来た目的」。
過去世の僕に会う為だった。
過去の自分自身ではなく旦那に会いに行くという、恥ずかしいやらなんやら。。。。

まぁ、その話は一旦置いておき、暗闇では案内役を探していた妻の元に何者かが暗闇から現れようとしていた。
白い小さい何かが妻の方へ向かってくる。
近くに来るとそれが「モコモコの白いうさぎ」だということがわかった。
妻の足の周りをぴょんぴょんと飛び跳ねている。
愛ちゃんから「うさぎに過去の旦那さんの元へ連れて行ってくれるようにお願いしてみよう」と言われ妻はうさぎにお願いをしてみた。

妻の顔を見ているが動こうとはしないうさぎ。
愛ちゃんがうさぎに呼びかけても同じだった。

「この子じゃないのかも、別の誰かを呼んでもらってもいい?」

愛ちゃんにそう言われて妻はまた暗闇に向かって呼びかける。
すると今度は「小鳥」が現れた。
妻の周りをふわふわと飛ぶ小鳥。
うさぎと同じように案内をお願いすると、小鳥は妻の頭の上に止まった。
そして「こっちだよ」っと進む方向に頭を向けたのだ。
小鳥は案内役だった。
小鳥に従って暗闇を進むと「木彫が施された扉」が現れた。
扉を開けると目の前に青空と緑の丘が広がった。
茶色の道が見えたのでそこを進むもうとしたが、丘の上から「白い狼のような動物」が降りてきた。

愛ちゃんはこの狼にも聞いてみようと言った。

「旦那さんの所に連れて行ってくれる?」

すると、狼はクルっと丘の上に体を向け顔だけ妻の方を振り返った。
妻は「ついてこい」と言われたみたいに感じ、狼の後ろについて丘を登ることにした。
丘の頂上付近に近づくと狼の姿がいつの間にか見えなくなっていた。
頭の上にはさっきの小鳥が乗っていて足元には白いうさぎもついてきていた。
辺りはどんどん真っ暗闇になっていった。
暗闇を少し歩いてみるが辺りは何も変わらない。
もう一度小鳥に聞いてみた。

「旦那さんに会いたいんだけど?」

小鳥は目の前の暗闇へ顔を向ける。
暗闇の先にいるらしい。
さっきは何も反応しなかった白いウサギにも聞いてみることにした。
すると、後ろ足で立ち上がり鼻をピクピクさせて右を見ていた。
妻が同じ方向に視線を向けてみる。
すると、土の中にとても大きい木の根があるのが見えた。その根は丸くくり抜かれていて、同じ形の木の扉が埋め込まれていた。
それはまるで、映画『ロード•オブ•ザ•リング』に出てくるホビット達が暮らすホビット庄の家のようだった。

「じゃあ扉を開けてみよう」

妻は愛ちゃんの言う通り、扉の木の取っ手に手をかけてゆっくり扉を開ける。

扉の向こうに人影が見えた。

そこには初めて出会う1人の男性が立っていた。


『奥様は魔法使い』第4話 完

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