暇な脚本家の日記 7月10日

午後1時起床。韓国映画を立て続けに3本観る。

ずっと韓国の映画やドラマを避けていた。韓国映画だけではなく、基本、熱心なファンがいるジャンルを遠ざける傾向があって、アニメやSF映画も観ない。つまりジブリもスターウォーズも一本も観たことがない。大勢観てるんだから別に私は観なくてもいいよねという面倒臭そうな人を装っているが、実際は乗り遅れただけの話。乗り遅れているうちに分厚いジャンルになっていっていて、アルプスの北壁に挑む!くらいの覚悟が求められている心境に陥っていたからだ。

なんていうのは、韓国の映画やドラマに関しては建前で、本音を言えば、負けを認めるのが悔しかったから。

ちょっと脚本家らしい話をすると、日本の脚本のスタイルというのは独特で、ハリウッドの脚本とは書き方が違う。形式だけの問題ではない。そして「韓国の脚本は日本から学んだので日本スタイルなんですよ」と20年近く前に韓国の脚本家に聞いたことがあった。60歳を過ぎた年配の脚本家だった。だからその人が知らなかったかもしれない。その頃には韓国の若手脚本家たちがとっくに日本のスタイルを捨て、ハリウッドに学んでいることに。とっくに「世界」に照準を合わせていたわけですよ、韓国は。その延長線上に「パラサイト」の快挙があるわけで、ポン・ジュノ一人がすごいわけじゃないんです。すごいけど。何が言いたいのかというと、日本だってアニメだけじゃなく映画でもドラマでも世界を斡旋する機会があったはずなのにって話。だって世界をマーケットにしない限り無理なんですよ、映画もドラマも生き残るのは。韓国はそんなこと20年前から分かっていた。それなのに、日本は……って現実を突きつけられたくて、ずーっと見ないフリをしてきたわけです。

そんなある日、仲良しのプロデューサーが「梨泰院クラス、観てくださいよ」って興奮して電話してきた。「俺、なんでこういうのを日本でも作れなかったのか悔しいんですよ」って。だから仕方なく観てみたら、本当そうだよねって。「愛の不時着」は日本では無理だけど、「梨泰院クラス」なら日本でだって出来る。出来るけど、作ろうとしてこなかっただけじゃんって。だから悔しがるのは分かる。と同時に、私の中からはこれまで抱いていた悔しさが消えた。だってもはや敵いませんよ。もう悔しさや羨望を通り越したところに韓国が行ってしまっている。とすれば、韓国に学ぶしかないよね。韓国に学んで、これまで日本でタブー視されたことを一つ一つ壊して行くしかないんじゃないかって。

「タクシードライバー」噂には聞いていたが、ここまで素晴らしいとは! 日本では「社会派」は当たらないと言われ敬遠されてるんだけど、「タクシードライバー」は韓国国内でも大ヒット。国民の民度の違いじゃなくて、ちゃんとエンターテイメントになっているから。ハリウッド映画のヒットの法則がこれでもかと詰め込まれているんですよ。ツボを抑えまくって、一部の隙もなし。それでいて、光州事変という一事件を超えた普遍性を持たせている。「外国からジャーナリストが来てくれた」って市民が大歓迎をするシーンで、周庭さんのTwitterを思い出して、号泣しましたよ。「香港に何もしてあげられてないよ」って。「私は周庭さんを見放しちゃったんだ」って。人にこんな風に思わせるのって、本当にすごい映画です。

「トガニ」もすごい映画。こっちは実際に社会を動かしちゃったんですから。よく辛すぎる現実を前に「映画に何が出来るだ」的なことをヒロイックに叫ぶ人がいますけど、法律を変えられます。

この2本がすごかったので、続けて「実話」シリーズで「チェイサー」。アクションに興味のない私は中弛みしちゃったけど、ラストはすごかった。「後味の悪い映画はみんな観たくないね」とか日本ではよく言われますが、この映画はこの後味の悪さこそが、作り手のメッセージなんじゃないかと。

MIU404の三話がかなり面白いって情報が来たので、観てきます。

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