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Our Story #2 - ブランドデザインは、こうしてつくられる

2013年 日本発の本格スムージーブランド「F&P」 (FICO & POMUM) ができるまでのメイキングストーリーを紐解く第2回。
今回はブランドコンセプトやクリエイティブの観点からお話しします。


「ブランドをつくる」という作業は、

どんなネーミングにするか
どんなロゴマーク・ロゴタイプにするか
どんなお店にするか
どんなパッケージで提供するか
どんな言葉で語りかけるか
どうコミュニケーションするか
どうアピールするか
どのようにつながるか

といったことの総合的なデザインです。

そのすべてを結ぶ中央にあるものが、統一された「ブランドコンセプト」です。

なぜなら、コンセプトがぶれてしまうと、一貫性がなくなって伝わらなくなってしまうからです。

200以上あった、ブランドネームの候補


たとえばF&Pでいえば、こんなコンセプトです。

「ヘルシーファストフード」をライフスタイルとして提案する、自然からの恵みをたっぷり使った本場・西海岸さながらリッチで濃厚な本格スムージーにおいて、国内をリードしていく存在。

「人は、食べたものでできている」をメッセージとして発信しながら、多くの日本人がまだ気づいていない食の大切さを語りかけ、からだに思いやりのきっかけと持続できる習慣を提供し、より健やかな社会へ導く新しい食文化を創造する。


私たちF&Pが最初のお店を作るとき、
このような「ブランドコンセプト」をどうやってお店の要素に落とし込んでいくか?」 ということをていねいにやっていました。


最初に「FICO & POMUM」(フィコ・アンド・ポムム) というブランドネームが生まれ、ブランドフォントが定義され、八角形のロゴが完成し、ビジュアルアイデンティティが出来上がっていきます。



そしてその八角形のロゴが FICO & POMUM というキャラクターの「顔」となり、
ブランドを「人」に見立てて、その性格や嗜好をイメージしていくのです。


たとえば店内のBGMを考えるときに、
「なんとなくそれっぽいおしゃれな曲」を流すのでもなく、
「個人の趣味で選んだ曲」を流すのでもなく、

「このブランドがいつも見ているのは西海岸の景色だから、きっとこういう曲を聴くんじゃないかな」

とイメージしたり、

ユニフォームを決めるのにも、

「このブランドは、いつも何着てるんだろう?」

と想像して、

「・・・きっとアメリカンカジュアルスタンダードのファッションがおそらく好きだから・・・ガイド(スタッフ)のユニフォームもデニムにしよう」

という具合にお店を構成する部品がだんだん決まっていきます。



お店の内装やビジュアルを考える際にも、

スムージーの商品自体が「素材そのもの」の味を大事にしていて、「材料に余計なものを加えない」ので、デザインにもその思想を受け継いでいます。

たとえば「キラキラ」や「リボン」のような余計な装飾を入れずに、「素材で勝負する」シンプルでオーガニックなデザインになっています。

テーマカラーを定義せずモノトーンが基調になっているのも、材料になる果実や野菜、商品であるスムージー自体がもともととても自然のカラフルなものなので、「素材を邪魔しない」意味が込められました。

(2022年以降は F&P Bright Green や、F&P Earth Beige などがアクセントカラーとして定義されています。)



F&Pを創業した西野は、かつてブランドのデザインを作り上げていった経緯を回想して、このように語っています。



僕が前職ソニーを退職した2012年、僕はひたすらに事業計画書を作っていました。

1人なのでオフィスもなく、最初は自宅の部屋でした。

当時はリモートワークなんて概念はありませんでしたから、自宅に籠って作業をしていると昼間ご近所の目が気になりましたし、
親戚の集まりではいちいち説明するのが大変でした。

(コンビニ行くのに外に出たり、ゴミ捨てに行くのもなんかコソコソしてしまうのです・・)


90ページ以上に及んだ事業計画書


事業計画と言っても、数値や経済的な計画のためにエクセルと睨めっこをしているだけではありません。


どんな世界を作ろうとしているのか、どんな調査をしたのか、
そして真っ白な紙の上に想像できるうる限りの具体的なオペレーションをイメージして描き起こしていきます。

「ブランドを作らなきゃ」

・・・僕の起業プロジェクトに1番目の仲間になってくれたのは、2つ年上のクリエイティブディレクターさんでした。


僕は当時だいぶマニアックな趣味を持っていて、
自分でもPhotoshopやIllustratorを動かしたり、動画やプチ映画の制作をやったりしていたのですが、

外資の巨大広告エージェンシーの第一線で1日20時間稼働しているようなプロのクリエイティブディレクターと出会うのはそれが初めてで。

彼と一緒に働くことで「デザイン」や「ブランド」に対する考え方が自然と自分に叩き込まれていったことはとてもラッキーな経験でした。


書き溜めた事業構想を話したら共感してくれ、
作った映画を見せたら興味を示してくれ、

こうした創業前のデザインミーティングはほぼ1年間ものプロジェクトになり、
毎週 21:00頃から 恵比寿の高層階でミーティングを重ね、そのあとは近くのラーメン屋で一杯やりながら、
「自分はいつかこんな世界観のラーメン屋を開きたい」なんて馬鹿な夢を語り合う、

おしゃれでファンシーな価値観を持ちながら、クリエイティブに対しては超絶ストイックな人でした。



昼間に撮影があると、グラスジャーを片手にじっと見つめたまま15分くらい静止して、時折目を閉じて首を捻ったりしていました。

ラフスケッチを覗いてみると何度も消した跡が真っ黒になっていて、
感情高まって何かを閃いてしまったのか、よく意味のわからないコピーが派手な吹き出しで書き込まれていました。

AM 4:00 に電話で修正のやりとりをすることも何度かありましたし、撮影が夜中までかかって全員を車で送ることもありました。

喧嘩することもしょっちゅうでした。


FICO & POMUM というブランドはそんな過程で生み出されていったもので、

2013年にはそのディレクターさんと一緒に現在のF&Pのコンセプトやクリエイティブの原型が形成されました。


それはたとえば・・・

日本にやってきた新しい文化を表現するためにカップの代わりにグラスジャーを使うことだったり、

スタッフのことを「ガイド」と呼ぶことにしたり、

スムージーの撮影をするときには、
それまでに日本にあったスムージーと「F&Pの本格スムージー」を区別し差別化するためにリッチな濃厚さを表現する「てっぺんの山」 (=マウンド) を意図的に作り、これがF&Pのアイデンティティになっていったり、

アメリカンクラシックなカジュアルスタイルを表現するためのユニフォームとして「デニム」が採用されていたり、

FICO & POMUM と書くときには必ず "&" の前後に半角スペースを空けると定義したり・・・

みたいな、細部に渡るまでのことです。



そしてそのディレクターさんが立ち上げの役目を終えて以後は、
僕がその役割を引き継いで現在に至っています。

「西野さん。ブランドイメージというのは作り手が発信して生まれるものではなくて、受け取った相手がそれを見て頭に思い浮かべる時に生まれるものなんです」

「いいデザインとは、見る人がこちらの意図した目的に沿って動いてくれるデザインです」

「『見た目がいい』とか『かわいい』『おしゃれだ』というのは見る人の感性によって全部違うので、
ブランドの性質とか世の中の時流に合わせていいか悪いかを判断しないといけません」


以来、夜な夜なこんなことを言っていたディレクターさんの言葉を思い出しながら、僕はそのマインドを自分の中にインストールして、

「F&Pが本来的に持っている性質」や「時流」「見え方」を計算しながら、日々のブランドやクリエイティブに関わることを判断しています。



店舗を運営していると、日々社内で聞こえてくる声として

「このレシピが甘めになっているのは西野さんが甘党だから」
「この商品は西野さんの趣味で生まれたから」
「この音楽は西野さんのお気に入りだから」
「このデザインは西野さんの好みだから」

・・・といったものがありますが、いやいやそれは西野個人の趣味嗜好で決めているわけではなく、、

「F&P」というキャラクターに尋ねた上で決定している

自分の中にインストールされたブランドマネージャー、リトル・ニシノに聞いてみる

ということを毎回必ずやっているわけです。


「ブランドとは何か?」という議論は巷でも散々交わされていますが、

少し自分哲学めいたところで (正しいかどうかはさておき)、
僕自身のあくまでここまでの経験から自分の言葉で表すと、こんな感じになると思います。


「ブランドとは、人格だ。」



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