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アメノミナカヌシ

その晩、悪夢を見ながら私は必死に落ち着こうとしていた。
これは大丈夫なやつだと何度も自分に言い聞かせ、パニックに陥らないように上手くバランスを取っているつもりだった。
不安や恐怖を感じると、悪夢というものは途端に牙を剥いてくる。怖い怖いと思ってしまうとその方向に引っ張られるのは、引き寄せの法則と同じだ。
大丈夫、これは大丈夫なやつだ。
ところが、心臓が徐々に早くなり始め、自分の「言い聞かせ」が通用しなくなってくる。そしてついに認めてしまう。大丈夫じゃないかもしれない、と。

「助けてやろうか?」
男性的な声がどこからか聴こえた。姿は見えないけど1.5mほどの距離に誰かいるようだ。
「助けてくれるんですか?」少し声が震えた。
「俺と契約してくれるなら助けてやるよ」
声の主はそう答えた。契約とは?この人は誰だ?
「あなたは誰ですか?」
「俺の名前はマオー。どうする?契約したら楽になるぜ」

数秒間、その名前を反芻した。私の知り合いではない。
マオーね、マオー、マオー…もしかして魔王?!とようやく気がついた。
魔王と契約なんかするわけにはいかない!これはとんでもないぞと思い、丁重にお断りしてお帰りいただいた。
困っている人間の弱みに入り込み魂の契約を結ぶのが彼らのやり口だと聞いていたけど、まさか私のところにも来るとは。痴漢や偽サイトなど、メジャーな犯罪に初めて触れたような気持ちになった。そして魔王は跡形もなく消えた。

ところが、悪夢に追い込まれていることは何も変わっていないのである。
魔王は悪夢のついでにやってきたダフ屋みたいなもので、魔王が去ったところで根本的に私はまだ悪夢の真っ最中なのだ。
愛と安心の世界に戻りたくて、「愛」とか「愛してる」と口に出してみた。
すると、少し悪夢に風穴が開いた気がした。言霊ってすごい。
愛してる、愛してる、愛してる、と言霊を放っていくうちに、愛と安心の世界の象徴の眩い太陽が恋しくなってきた。
「ああ、天照大御神よ」
と試しに言ってみると、次の瞬間、オレンジ色の明るい光と共に天照大御神が現れた。燃え盛る巨大な車輪のような太陽の輪の中心に、小さなご尊顔が見えた。
少しコミカルな顔はめパネルのようにも見えるその天照大御神は、ホッとさせてくれる明るさをしばし私に与えてくれた。
けれども、少し想像してみて欲しい。突然目の前に天照大御神が現れるということを。
先程の魔王とは比べものにならない霊格の高さを放っているからこそ、私は神様という存在の光の強さを思い知った。触れてはいけない世界に触れてしまったのではないかと、新たな不安が湧き上がった。
これは大丈夫なやつだ、大丈夫なやつだ、私は自分に言い聞かせる。
けれども恐れを感じてしまったせいで、悪夢は再び勢いを取り戻していく。
そこで私は、あることを思い出す。本当に困った時はアメノミナカヌシ様という宇宙や神々自体を作られた「おおもと」の神に助けを求めるべきだと。
そんなアメノミナカヌシ様に助けてもらうための口上はこうだ。

「アメノミナカヌシ様、お助けいただきましてありがとうございます」


この神様はそう唱えた人を救わなかったことはないと言う。
斎藤一人さんのお話で知った、この「アメノミナカヌシ様、お助けいただきましてありがとうございます」というフレーズを使い、実際私は現実世界でこれまで数々のピンチを乗り切っている。
アメノミナカヌシ様に助けを求めると必ず大丈夫な結果になったり、大ごとにならずに済むので、本当に感謝してもしきれない。

アメノミナカヌシ様、お助けいただきまして、ありがとうございます。
アメノミナカヌシ様、お助けいただきまして、ありがとうございます。

3回目を唱えたかどうかの時に、天照大御神の後ろに、さらに巨大な光の球のようなアメノミナカヌシ様が現れた。薄い水色っぽい白い光だった。

現れてくださったことに感謝をしながら、ますます私は唱えてみる。
アメノミナカヌシ様、お助けいただきまして、ありがとうございます。
アメノミナカヌシ様、お助けいただきまして、ありがとうございます。

アメノミナカヌシ様は、少し困ったように笑った。その笑い方は、まるで孫が何をしてもただ可愛くて仕方がないおじいさんのようでもあったし、目の前の困り人をどうやって諭そうかと考えている賢者のようでもあった。

「人のために何ができるか考えてごらん」

人の役に立つことを考えるんだよ。穏やかな口調でそう仰ったアメノミナカヌシ様の後方には、この世には存在しなそうな色彩の花々が咲き乱れていた。
人のために何ができるか考えてごらん。

以前の私は奉仕こそが喜びだと思っていたこともある。そういう気持ちでタロット占い師の仕事もしてきた。でもここ最近はそんな気持ちが以前より薄らいでいたことに、その言葉でハッとしたのだ。
言い訳するわけではないけど、私から奉仕の心が薄らいだのには理由がある。
それは、今やたくさんの人が十分に目覚め、役目を果たし、使命に生きるということをやっているからだ。
私が本格的にタロット占い師を始めた2016年頃は、まだまだ彷徨っている人も多かったし、魂が目覚めていく過程で取り乱したりパニックになったり、本来の自分の乗りこなし方がわからない人が多かったのだ。
私自身も答え合わせのできない道を歩いていたから、手探りで進んでいるようなものだった。それらの体験や宇宙から降りてきた情報を毎日のようにブログに書いてはアウトプットを繰り返し、そのことがきっと必要な誰かに届くこともわかっていたから、文章を書くことは、畏れ多くも奉仕だと思っていたところがあった。
ところが2021年頃から、そのお役目が終わってきているのを感じていた。
それまでは息を吐くようにブログを書いていたのが、特にアウトプットするべきものがブログという形では出てこなくなってきた、という表現が正しいかもしれない。ブログ向きの不思議ネタは相変わらず日々起こりまくっているのだが、書くまでに至らないのだ。
同時に、私のそれを必要としている人が以前より減っているのも感じた。それはひとつの混乱した時代が、ある程度収束したという証だと思う。

けれども「人のために何ができるか考えてごらん」と言われたことで、しばらく放置しているブログやnoteが胸に浮かんだのも事実で。
もう当時の洪水のような宇宙チャンネルとは繋がっていないからこそ、
「私が発信すべきことって、まだありますかね?人の役に立てることで」
と、アメノミナカヌシ様に聞かずにはいられなかった。
巨大な光のアメノミナカヌシ様は、こちらに少しご尊顔を近づけながら、目を細めて笑った(ように感じた)。

「こうしてアメノミナカヌシに会った話なんて、いいんじゃないかな」

この世界のどこかで困ったまま恐怖に震えている人に「アメノミナカヌシ様、お助けいただきましてありがとうございます」って言うだけで助かるよ、ってことを教えてあげたらどうかな。それって人の役に立つことになると思わないかい?
もうすでにこのことを知っている人だっていると思うけど、たった一人知らなかった人がそれで救われるなら、立派な奉仕だよね。
いいことはね、教えてあげたら親切なんだよ。
じゃあね、頑張ってね。

そう言ってアメノミナカヌシ様は帰って行き、私も悪夢から目が覚めた。
窓の外では東の空が白く光り、初夏の朝が始まろうとしていた。

そういうわけで、久しぶりに体験を綴ってみた次第である。

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