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「(雪山での遭難)」本編

ガタガタと揺れる窓。今にも壊れそうなドア。チカチカと灯す一つの電球。

ジャン「ちっ。何で初めてあった奴らとこんな目に合わなきゃいけないんだよ。」
紗理奈「そんなこと言わないでもらえる?仕方ないでしょ」
ジャン「仕方ない!?雪山で遭難したことが仕方ない!?こんな大吹雪に。今日来るんじゃなかったわ。こんな遠くの山。こんな大吹雪。誰も助けになんか来ない。皆死ぬんだ。今日ここで。ははっ。なんだか笑えてくるわ。」
紗理奈「あんたねぇ!言葉の使い方ってもんがあるでしょ!そんなこと言わなくても」
ジャン「なんだ?そんなこと言わなくても?なんだ?結局ここにいる皆分かってんだよ。今日ここで死ぬってことが」
紗理奈「あんたねぇ!」
亮介「あんたら、ケンカするのは勝手だが体力は温存しておいた方がいいぞ。食料も後少しだ。」
ジャン「なんだ?真面目くんはこんな時にも真面目か?まだ信じてるのか?誰か助けに来るって。」
亮介「うるさいな。0%ではない事に賭けるのがそんなにも不思議か?」
ジャン「っんだよ!どいつもこいつも」
凛「み、皆、ここで、し、死ぬのかな」
紗理奈「大丈夫?凛ちゃん?」
凜「だ、大丈夫です」
紗理奈「ずいぶん寒くなってきたわね。ほら、私のコート貸してあげるわ。」
凜「あ、ありがとうございます」
ジャン「あのな。誰も触れてないけど、もう言うわ。こいつはいつまで寝てんだよ?つかこいつ誰だよ。」
紗理奈「誰って。同じサークルの秋人くんよ」
ジャン「知らんな」
紗理奈「ここに来るまで歩いていたら急に倒れて。それからずっと寝てるの」
ジャン「こいつ寝てんのか?気絶してんのか分かんねーや」
亮介「まぁ、とりあえず救助が来るまで待つしかないな」
ジャン「ちっ、そうだな」
紗理奈「ちょっと皆!秋人くんが!」

そして僕は、目が覚めた。

ジャン「おい、秋人!やっと起きたか!皆心配してたんだぞ?」
紗理奈「さっきまでこの人誰?とか言ってたのに」
ジャン「う、うるせぇ。おい、どうした?ぽけーとして」
秋人「え、あなた達は誰ですか?」

というかここは何処だ?山小屋の中?物凄く寒い。外は凄く雪が降っていて吹雪いている。

ジャン「おい、誰って同じサークルだよ」
秋人「さ、サークル?何の話ですか?」
紗理奈「君、自分が誰だか分かる?」
秋人「自分?僕、は、誰?」
凜「これって」
亮介「ああ、おそらく。記憶喪失」
ジャン「記憶喪失?」

僕は記憶喪失なのか?自分が誰だか。ここは何処なのか周りにいる人達は誰なのか。全く思い出せない。

ジャン「ふざけんなよ!記憶喪失?勘弁してくれよ」
紗理奈「大丈夫?君?私が一から全部話すわ」
秋人「あ、はい」
紗理奈「ここにいるのは今日初めて知り合った同じスキーのサークルの人達。スキーをしにこの山に来たんだけど急に大荒れになって。町まで降りるのは無理ってなって休める場所を探してたらここに気づいて。今は皆でここに居て救助を待ってるの。分かった?」
秋人「あ、はい。なんとなく」
ジャン「もう俺は我慢の限界だ。ここを出る」
紗理奈「待って!出るって、何処に行くの?こんな吹雪に?あんた死ぬわよ。」
ジャン「ここに居てもどうせいつか食料が底をついて死ぬんだ。死ぬ時は一人がいい。それにもう少し周りに何かないか確かめてくるよ」
亮介「ふっ。バカにも考えれば分かるんだな。自分の立場が」
ジャン「てめぇ。いい加減にしろよ。まぁいいわ。じゃあなお前ら。せいぜい生きながらえてくれ」

そういうと彼はこの山小屋を後にした。

亮介「うるさいのが減ったか」
凜「どうするんですか?これから」
紗理奈「とりあえず救助が来るまで待つしかない、かな」

20代後半ぐらいの男性。僕と同い年くらいの二十歳ぐらいの女子。20代後半ぐらいの女性。そしてさっき出て行った外人?けど日本語だったな。見かけは外人だった。あの人も20代後半ぐらいだったな。僕を入れて5人で来てたのかな。

紗理奈「君。記憶喪失とは、本当参ったわね」
秋人「すいません」
紗理奈「大丈夫よ、君が謝ることじゃないわ」

けど彼女の顔は不安そうな顔だった。皆絶望している顔だ。僕なんて記憶喪失。
それから一時間。何も会話が出なかった。 

「はーい、OKでーす」

え?外から声?救助に来てくれた?けどOKって聞こえた気が。どういうことだ?

紗理奈「はーい、お疲れ様でーす」
亮介「うーす」
凜「お疲れー」

皆立ち上がって行く。さっきまでとは別人だ。

秋人「え、」

吹雪が止んだ。と同時に壁が倒れていく。強い照明が僕を照らす。

秋人「あ、あの。これってどういう」
紗理奈「あの人に聞いてあの椅子に座ってる人。監督だから」
秋人「か、監督?」

さっきまでとは別人だ。さっきはあんなに優しかったのにどこかそっけないというか。何がどうなってるだ?

ジャン「うーす、お疲れーす」

あれ、さっき出ていった人だ。全然寒そうじゃない。てかここは山小屋じゃなかった?というか山でもない?とりあえず監督とかいう人の元に行こう。

監督「おお、君か、えー、初めまして」
秋人「あっ初めまして」
監督「えー、単刀直入言おう。君は記憶喪失です」
秋人「あっはい」

やっぱり僕は記憶喪失なのか?

監督「んで、雪山で遭難ってのは嘘」
秋人「は、はい」

僕はただただ聞くことしか出来なかった。

監督「全部セットね。で今回のテーマが雪山で遭難だったの」
秋人「は、はい」
監督「状況理解出来た?」
秋人「はい、なんとなく。けど何でこんなことするんですか?」
監督「君の記憶喪失を治す為だよ」
秋人「治す、為。え、なんでこんなことまでしてくれるんですか?」
監督「君はね。世界を代表する役者さんだからだよ」
秋人「僕が、世界を代表する役者?本当ですか?」
監督「うん、本当だよ。色んな賞を貰ってるよ。アカデミー賞とかとか」

僕が役者で。記憶喪失を治す為にドラマに出ていた?

監督「ある日、世界を代表する弱冠二十歳の名役者が記憶喪失。こんな逸材失ってはいけないと思い、世界各地から名役者を排出して何回もドラマを作っていく。いつか記憶が戻る様にってね」

世界各地から名役者。そういうことか。あの人達は役者さんか。だから素の表情と演じてる表情があったのか。あの外人もきっと外国から来たのか。 

監督「そして、今回で163回目」
秋人「え、163回目?」

163って何だ?163?163回も同じことをしてたのか?

監督「って言っても毎回テーマが違うからね」
秋人「な、なるほど」
監督「あっ」
秋人「?」

何か思い出したかのような表情をして立った。
そして振り向いて二階に向けて何やらポーズを取っている。腕でバッテンを作っている?視線の先には人が二人いる。女性が二人。

監督「今のは君の家族だよ」
秋人「え、家族」
監督「君のお母さんと君のお姉さん」

そうか。家族いるよな、そりゃ。親らしき人が泣いている。それを慰めてる隣の女性。あれは僕のお姉さんか。

監督「ああやって毎日見に来てるんだよ。結果をさっきみたいに報告してる。よしっ次のドラマが始まりそうだな」
秋人「あのっ。何でこのやり取りの記憶がないんですか?」
監督「それはね。毎回記憶を消してるんだよ」
秋人「消してる」
監督「奥底に眠ってる記憶を呼び戻すには記憶をなるべく上書きしない方がいい」
秋人「なるほど」
監督「いつか来る強い衝撃を待ってるだよ。何回も何回も繰り返してね。そしてこれが注射。これを刺すことによって今のこのやり取りが記憶から無くなっている。おっと、皆準備が出来てるみたいだ。早速いくよ?」
秋人「はい。お願いします」

腕に注射が刺さる。少し痛い。何回も何百回も繰り返してるんだ。色んな人に迷惑かけて。いい加減目覚めろよ。僕の記憶。

そして僕は、深い、深い、眠りについた。

強い照明。四方八方から聞こえる声。

そして僕は、目が覚めた。

秋人「すみません。皆さん」

周りにいる人達が驚いた表情をする

秋人「記憶が、戻りました」

そして物語は、次のステップへ行くのであった






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