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食品レッドデータブック

ニホンオオカミの剥製

 かつて日本にはニホンオオカミ、ニホンカワウソ、ニホンアシカという日本固有の動物が生息していましたが、いずれも明治~昭和にかけて絶滅しました。環境破壊や乱獲が原因です。かつて裏山にオオカミがいたことを、街中の川にカワウソがいたことを、そして東京湾にもアシカがいたことを、人々は忘れてしまいました。
 同じように、食品にも絶滅の危機に瀕している種があります。取り返しがつかない事態にならないように、今回は食品の絶滅危惧種を妄想します。


大きい方が毛馬きゅうり
小さい方が一般的な白いぼきゅうり

黒いぼ胡瓜

 日本のきゅうりは白いぼきゅうりと黒いぼきゅうりに分けられます。黒いぼきゅうりは皮が厚く味が濃いため、炒め物などの加熱料理に向いていて、1960年代に生食に適した白いぼきゅうりが登場するまでは「きゅうり」といえば黒いぼきゅうりでした。
 後発の白いぼきゅうりは皮が薄くて歯切れが良く、果肉がみずみずしいことから、サラダブームにのって一躍大人気になりました。現在店頭に並んでいるきゅうりはほぼ100%白いぼきゅうりです。一方で黒いぼきゅうりの人気は一気に落ちてしまい、現在では九州・四国の一部でわずかに栽培されるだけです。
    大阪にも毛馬きゅうりという黒いぼきゅうりがあります。なにわの伝統野菜に認定されていますが、大阪に住んでいても滅多に食べることができません。


ししゃも(鵡川漁業協同組合のhpより)

ししゃも

 ししゃもは世界中でも北海道の太平洋側、内浦湾から厚岸湾の沿岸部にのみ生息しています。鮭のように川で生まれて海に降り、産卵のためにまた川に戻ってきます。産地としては胆振の鵡川が有名です。かつては2千トン以上捕れた年もありましたが、近年は極端な不漁が続いています。2021年の漁獲量は、20年前に比べて1割以下の172トンでした。その原因は海の温暖化だと考えられています。川で生まれて海に降りたししゃもは、15度前後の海で成長します。しかし、近年は温暖化の影響か、棲息域である北海道南部の海水温が夏場には20度を超すほど温暖化しています。

樺太ししゃも

 捕れなくなったししゃもに代わって食卓に上がっているのが樺太ししゃもです。こちらはほぼ100%輸入ですが、卵を抱えている「子持ちししゃも」しか人気はありません。 価格を見ると(少々古いデータですが)、ししゃもは平均単価は1,874円/㎏(2017年)、樺太ししゃもは平均単価356円/㎏(2017年 ※干しシシャモ製品含む)と大きな差があります。

    今や「ししゃも」といえば樺太ししゃものことで、世界中で北海道の一部にしか生息していない「ししゃも」は、知られざる希少種になってしまいました。

あんぺい

    関東では馴染がないでしょうが、あんぺいは大阪の夏に欠かせない食品です。一見「はんぺん」のように見えますが、原料や製法は大きく違います。はんぺんの主原料は伝統的には鮫、現在ではスケトウダラなどの白身魚ですが、あんぺいの主原料はハモです。もう一度言いましょう。大阪と京都にとって無くてはならない夏の味覚、ハモです!

    あんぺいの作り方はとても簡単ですが、とても時間がかかります。ハモの身が熱を持たないように、冷やしながら2時間ほどかけてすり鉢でゆっくり丁寧に摺り上げ、塩水でゆでて完成です。つなぎに山芋を使うお店もありますが、100%ハモだけの方が高級品です。丁寧に作られたあんぺいは、ふわっと柔らかい食感と、ハモの深い味わいがたまりません。吸い物にも使いますが、夏は冷たくひやしてわさび醤油で食べるのが一番です。冷酒があれば言うこと無し!

 昔はどこの町にも練り物屋さんがあって、手作りのあんぺいが買えたのですが、近頃は手作りの練り物屋さんがめっきり減ってしまいました。たまに、スーパーであんぺいを見かけることもありますが、原材料が「いとより」「すけとうだら」の偽物です。
 余談ですが、「あんぺい」と「はんぺん」は味と食感がぜんぜん違います。大阪人としては「あんぺい」を「はんぺん」の仲間と紹介されるのは心外です。
   
    とは言え、今や大阪人でさえ「あんぺい」を知らない始末です。誠に嘆かわしいことですが、大阪の老舗メーカーが、一部機械化しながらも鱧100%で丁寧にあんぺいを作っていることだけが唯一の救いです。
   
 最後にちょっと付け加えておきますと、大阪では「レーコー」と「クリソ」、「レスカ」がほぼ絶滅してしまいました。
   













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