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その名前には理由があります②苺煮と従妹煮の巻き

    どんな物にも名前があります。もちろん料理にも。そして料理名には理由があります。今週は「苺煮」「従姉煮」の名前を紐解きながら妄想してみます。

苺煮いちごに

   八戸市や階上町などの太平洋沿岸に伝わる郷土料理で、ウニとアワビの吸い物という高級食材ばかりを使った贅沢な料理。その昔、漁師らが潜って捕ったウニやアワビを浜で豪快に煮たのがはじまりという。大正時代に料亭の料理として、お椀に美しく盛り付けて供されるようになった。「いちご煮」の名前は、椀に盛り付けたとき、アワビなどのエキスによって乳白色に濁った汁に浮かぶ黄金色のウニがまるで、朝露にかすむ野いちごのように見えたことから付けられた。風流でしゃれた名前が人気となり、現代では結婚式などの祝い事に欠かせない料理として大切に受け継がれている。

   いきなり申し訳ありませんでした。上記は農水省の郷土料理を紹介するページに掲載されている「苺煮」の説明です。あまりにも紹介できる内容が少ないので、懸命に字数を稼いだ外注ライターさんの苦しむ様子が目に浮かびます。

    重複しますが、苺煮は青森県八戸市とその周辺の三陸海岸の伝統料理です。料理名は「煮」ですが実際は具だくさんの吸い物です。※「煮物」と「汁」は、その境界があいまいで、しばしば混同されます。

 苺煮の特徴は何と言ってもウニとアワビという贅沢な材料です。その名前の由来は、農水省によると「黄金色のウニがまるで、朝露にかすむ野いちごのように見えたことから付けられた」とのことですが、これは実際に作ったのではなく、下の写真のような苺煮を見ただけの人が書いた説明です。

あおもり産品情報サイト「青森のうまいものたち」より


 苺煮の由来を古い記録で探してみると、『新鮮な生ウニを煮ると、クルクルっと丸まって、粒が立つ様子が木苺のようなので苺煮になった』というような記述が見られます。ところが、現在、ネットで見られる苺煮の写真で、ウニがくるくるっと丸まるまっている写真はあまりありません。

まるごと青森HPより

 上の写真は「まるごと青森」というHPで紹介されている青森の飲食店の「いちご煮」です。これはウニが若干丸まって粒立っている、本当に食べるための料理の写真です。

 写真としての見栄えを優先すると、お椀に汁を張って後からウニを静かに乗せることになります。当然、煮ていないのでウニは丸まらず「どこが苺やねん!」的な結果になります。それが最初の苺煮の写真です。こういった見栄え優先写真を見て紹介文を書くと、郷土料理の本質を見抜けない紹介文が出来上がります。

    尚、「アワビなどのエキスによって乳白色に濁った汁に浮かぶ黄金色のウニが」という描写は、実際に煮た時のものなので、この部分はどこかほかのサイトを参考にされたのだと思います。

ウニが木苺に見えるのか?

 さて、苺煮の名前についてはここからが本題です。生ウニを煮て、丸まったものが木苺にみえるのか? ということです。どうですか?  二枚目の苺煮のウニは木苺に見えますか? 筆者はかなり遠いと思います。

木苺

新潟の「のっぺ」

 話は変わって、新潟の代表的な家庭料理である「のっぺ」です。全国各地に「のっぺい汁」という料理がありますが、新潟の「のっぺ」は汁物ではなく煮物です。主な材料は里芋で、他に色々な野菜やきのこを加え、薄味で煮てとろみを付け、青味にさやえんどうをちらします。

    さやえんどうが手に入らない冬は「ととまめ」と呼ばれるイクラを茹でたものを仕上げにちらします。下の写真はさやえんどうとととまめ・・・・の両方を使っている豪華版ですね。

のっぺ

    このととまめ・・・・なら木苺に見えなくもありません。   ここからは筆者の妄想です。

    昔、越後(新潟)から陸奥(青森)に移り住んだ料理人がいました。その料理人は故郷ののっぺ・・・を青森の食材で作り、ととまめの代わりに茹でたウニを乗せました。これが「越後煮えちごに」と呼ばれて評判になります。青森弁の「越後煮えちごに」は、東京の人には「いちご煮」と聞こえたのでした。

葡萄煮ぶどうに 

 大阪では昭和の初め頃まで「葡萄煮ぶどうに」という料理がありました。これはアワビ、ウニなど、材料も味も苺煮とまったく同じものでした。「葡萄煮ぶどうに」はもちろん洒落で名付けた料理名です。

従姉煮

従姉煮いとこに

 不思議な名前の料理はいくらでもあるものです。従姉煮は、日本各地に伝わる郷土料理で、材料は牛蒡、大根。人参、里芋、クワイ、豆腐などで、味付けは味噌です。地方によって材料が多少違ったり、かぼちゃと小豆だけの簡易バージョンだったりしますが、小豆が入るのは全国共通です。

御事汁

御事汁おことじる

 いとこ煮とほぼ同じ材料で同じ味付けの「御事汁おことじる」という料理があります。材料も味付けも同じなら、それは「従姉煮」なんじゃないか。ということですが、これには理由があります。

 御事汁は毎年2月8日のお事始めと12月8日のお事納めの日に食べる汁です。2月8日のお事始めとは、農作業など年中行事の始まりです。また、12月8日の事納めは、農作業が終了し、それをもって年中行事がすべて終わる日です。

    お事始めとお事納めには、神様にその地域の農作物と、農業の象徴である小豆をお供えします。その御下がりをいただくのが「御事汁」です。

 尚、御事汁は神聖な行事料理で、従姉煮はそれにあやかった家庭料理です。お代をいただくわけにはいかないとの理由で、商売としての料理屋で出されることはありません。

お事汁と従姉煮

 御事汁は食べる日が決まっているので、違う日に食べるとなると違う名が必要です。そこで「御事おこと」によく似た言葉で→「いとこ」なのです。


このくだりは今でも通じますか?

 筆者はこれが真相なんだろうと思っているのですが、世の中には「そんなふざけた名付け方は許さん!」という真面目な方がたくさんいらっしゃるようで、次のような理由も用意されています。

甥と姪

 従姉煮の材料は根菜が多いので、硬くて煮えにくい物から追々おいおいに煮ていくので、追々おいおい=「甥甥おいおい」、つまり甥と甥は従妹なので「従姉煮」です。

    もうひとつあります。煮えにくい物をそれぞれ別々に煮て、最後に合わせるという調理方法で、「銘々めいめいに煮る」=「姪姪めいめいに煮る」、つまり姪と姪は従妹なので「従姉煮」という説です。・・・ 

    これもふざけていると思うのですが、いかがでしょうか? もう、どれでも好きなのを選んで下さい!
 


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