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フグの肝を食べる困った人達    

日本最古のフグ中毒死?

 フグがいつから食べられていたのか正確には分かりませんが、縄文時代にはすでに食べられていたようです。全国の古墳や貝塚からフグの骨が見つかっていますが、千葉県市川市の姥山貝塚遺跡ではフグの骨といっしょに成人男女各2人と子ども1人の人骨が発見されています。この5人はフグの骨を囲むようにして亡くなっていたので、フグ中毒死だったのではないかと言われています。それから後もフグで亡くなった人たちが多かった…わけではないようです。
遺跡や貝塚から出土するフグの骨は縄文時代からしばらくの間減少し続けます。どうやら、日本人のライフスタイルが狩猟・採取から農耕に移行するに従って、リスクをともなうフグはあまり食べられなくなったようです。しかし、フグを食べる人がまったくいなくなったわけではありません。平安時代以降、人々の生活がそれなりに安定するとフグを食べる人が徐々に増えました。

フグは毒を作らない

 毒を持つ生き物はたくさんいますが、フグの毒はとても強力です。人に対する致死量は0.5~1mg、青酸カリの1000倍の毒性です。しかし、フグは先天的に毒を持っているわけではなく、毒を持っている貝やヒトデ、藻類などを食べて毒を体内に蓄積させています。そのことから、最近では養殖フグのエサを工夫して無毒のフグを育てられるようになりました。しかし、今のところ養殖フグの卵巣の販売許可は出ていません。

大阪人はフグが大好き

 フグ鍋、フグ刺しという料理を大阪では江戸時代から「てっちり」「てっさ」と呼んでいました。「てっちり」とは鉄砲のちり鍋、「てっさ」は鉄砲の刺身です。もちろん鉄砲とはフグのことです。弾に当たると死ぬ=たまに当たると死ぬ、ということでフグ=鉄砲です。また明治時代には「測候所」とも呼ばれていました。測候所は天気予報のために気象観測をする所ですが、当時の天気予報は精度が低く、あまり当たらなかったそうです。そこで「たまに当たる」のでフグ=測候所と呼んだようです。


し、しびれる~

 大阪人のフグ好きは昔から有名で、全国のフグの消費量のうち、6割は大阪で食べられています。しかし困ったことに、毒があると知っていながらフグの肝を好んで食べる人達(大阪だけではありませんが)もいました。平成の終わりごろには客の求めに応じてトラフグの肝を提供した大阪の飲食店が摘発されたこともあります。

 なぜ毒が有るものを好んで食べるのでしょうか? それはフグ毒で必ず死ぬわけではないからです。『えっ! 強力な毒なのに?』と思いましたか? 思って下さい、その通りなのです。確かにフグ毒は強力なのですが、同じ種のフグでも、捕れた場所、時期、また個体によって、持っている毒の量が違うのです。ですから、たまたま毒が少ないフグを食べると、舌や手足が痺れるだけで死なないこともあります。だから「たまに当たると死ぬ」と言われたのですね。そして、そのような状態を「し、しびれる~!」「あ・わ・わ・わ」「た、たまらん!」と喜ぶ、困った食通達がいるのです。そのフグがどれぐらいの毒を持っているのかは食べてみないと分からないので命がけなんですが…。

   ちなみに、 大阪のフグ料理店ではフグの肝を「アブラ」という隠語で呼びます。「肝ちょうだーい」なんて言うと何も知らない他のお客さんがギョッとしますからね。もちろん、肝を提供するのは違法行為です。みなさんはけっして食べないでくださいね。命がけで食べるようなものは「食品」とは言いません。

     

この年末年始にも「し、しびれる~」と喜んでいる
困った人達がいるのかもしれません。



 


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