「ブレイクスルー・ハウンド」13
「あー、えーと?」
逃げないし、襲ってもこないということはやはり窃盗犯ではないらしい。
「この家の住人、家主の息子だけど、君たちは誰?」
光の問いかけに、
「父がお父さんと部隊で同僚だった関係で、しばらくお世話になります、森本杏と申します」
少女のほう、杏が頭をさげた。
驚いた、父の知り合いこんなまともな挨拶ができる人間がいるとは。
「森本純、よろしくお願いします」
少女に隠れるように身を寄せて女児、純が名乗る。どうやら人見知りをするようだ。
「俺は藤井光。なんか知らんが、よろしく」
光が後ろ首に手を当てながら告げると、
「あのね」
と純が杏の陰から翳りのある声をあげた。
ん? と光は首をかしげる。
「お祖母ちゃんが病気になったから」
むう、と光は内心唸った。「なんか知らん」は余計な一言だった。
「祖母の家にお世話になってたんですが、去年、祖父が他界し、祖母も病気で入院しました。それを聞き及んだ光さんのお父さんが『うちに来ないか』と仰って」
言葉足らずの純を杏が補足する。
なるほどと事情は理解した。ただ、気の利いた言葉は浮かばない。
「一日も早く良くなるといいな」
ただ、これがガンなどの病気なら、光の言葉は実現することがむずかしい可能性があり、無神経とさえいえるかもしれない。
はい、と杏がうなずく。
初対面の相手とこれ以上、何を離せばいいか分からない。
同じ若者といっても、相手は高校生か中学生、それに下の子は小学生だろう、共通する話題などない。
と、杏の陰からこちらを観察する純に目を留めて、そうだ、と思った。
「ちょっと、待っててくれ」
光は告げて台所に赴き、目的の物を持って居間に戻る。
「食べるか?」
光は、純に茶請けの菓子鉢を差し出した。中にはどら焼きや煎餅の小袋が収められている。
純が迷うそぶりを見せた。視線を菓子鉢から姉へと向ける。
「いただきなさい」
妹の意思を汲み取って杏が告げた。
すると、おずおずと純がどら焼きに手を伸ばしひとつ手に取る。
「ここ、置いとくから好きなだけ食べるといい」
光は、側のテーブルの端に菓子鉢を置いた。
「じゃ、夕飯作るから」
とりあえず、“区切り”がついた気持ちになったので背を向ける。
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